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[SVC26-P02] 利尻ワンコの沢テフラおよび利尻豊徳テフラの詳細な記載とそれからみた噴火推移

キーワード:利尻火山、利尻ワンコの沢テフラ、利尻豊徳テフラ
単一の噴火イベントを構成する噴出物を詳細に記載することは,その噴火がどのような推移を辿ったかを明らかにすることと,鍵テフラとして他の噴火イベントに由来するテフラとの識別を行うことに役立つ.北海道最北端沖,利尻島から噴出した2枚の降下テフラは北海道本島天塩平野から頓別平野にかけて東西方向に分布している(Miura 1995).各テフラについて降下ユニットの記載は行われているが,噴火推移の推定は行われていない.
本研究では,利尻島由来のテフラのうち,軽石質火山礫を主とする利尻ワンコの沢テフラ(Rs-Wn)と,スコリア質火山礫・火山灰からなる利尻豊徳テフラ(Rs-Ho)を対象とし,詳細な記載とそれからみた噴火推移を明らかにすることを目的とした.2枚とも後期更新世末期前後に噴出した降下テフラである.岩相記載および試料採取を目的とした現地調査を北海道豊富町にて行った.その上で,Rs-Wnについて降下ユニット(下位からRs-Wn1~9)ごとに分析を行い,その噴火推移を粒径変化やテフラ特性変化の点から議論した.利尻島利尻富士町南部,オタドマリ沼南東では,Rs-Wn,Rs-Hoと年代的に対比できる可能性のある沼浦マール堆積物を採取し,2枚のテフラと対比することによるテフラの噴出源推定を試みた.
Rs-Wnのうち,礫サイズの軽石質火山礫からなるRs-Wn2~5について,軽石の粒度別重量比と色調別重量比分析から相対的な噴火推移の推定を行った.Rs-Wn 2~5は淘汰のよい降下軽石質火山礫を主とすることからプリニー式噴火によって噴出したと考えられる.粒度別重量比分析の結果,Rs-Wn2から4にかけて礫サイズが大きい粒子がしだいに多くなり,Rs-Wn5では粒径の大きい粒子が減少することが判明した.Sparks(1986)は風の影響を考慮しないプリニー式噴火のシミュレーションにおいて,噴煙柱高度が大きいほど粒子の最大飛散距離が大幅に増大することを示している.よって,Rs-Wn2から4で徐々に噴火規模が大きくなり,Rs-Wn5では噴火規模が縮小したと考えられる.色調別重量比分析の結果,Rs-Wn2から4にかけて白色軽石の重量比が大きくなり,縞状軽石が卓越しているのに対して,Rs-Wn5では中間色軽石と灰色軽石が卓越し,縞状軽石は少なくなっていた.珪長質な白色軽石を噴出した後により明度の低い軽石や苦鉄質のスコリアが卓越する噴火を起こした例には富士山宝永噴火(1707年)があり,Rs-Wnを噴出した噴火も似た推移を辿った可能性がある.また,縞状軽石が見られることなどから,Rs-Wn噴火においてマグマ混合が伴うとした河原(2023)の見解が補強できた.
SEM-EDSを用いてRs-WnのRs-Wn2~5において火山ガラスの主成分化学組成を測定し,降下ユニット間の識別方法について検討した.同色調火山礫に対しユニット間の主成分化学組成比較を行った結果,白色と灰色の軽石でRs-Wn5が苦鉄質側に広い組成幅を持ち,灰色軽石でRs-Wn4が珪長質側に広い組成幅を持つ特徴があった.同ユニット内で色調間の主成分化学組成比較では,Rs-Wn3で中間色軽石のFeO値が有意に低く,Rs-Wn4の灰色軽石でトレンドが2つ見られるという特徴があった.Rs-Wn3から5でそれぞれ特定の色調,元素において特徴的な組成がみられ,Rs-Wn2を含む4つのユニットを主成分化学組成によって識別できることがわかった.
降下スコリア堆積物を主とする沼浦マール堆積物の主成分化学組成は,Rs-Wn,Rs-Hoのそれらとはいずれとも大きく異なり,対比できない.また,Rs-WnとRs-Hoの主成分化学組成のトレンドも大きく離れており,異なる噴出源を持つ可能性が高い.すなわち,沼浦マールはこれらのテフラの噴出源ではないと考えられ,噴出源候補の絞り込みを行うことができた.なお,Rs-Hoと沼浦マール堆積物については,それぞれのSiO2とNaO2+K2Oの組み合わせが,Rs-Hoでは54.4%,6.1%,沼浦マール堆積物では53.6%,5.3%であり,アルカリに富む.とくにRs-Hoは粗面玄武岩の組成を持ち,日本列島ではのテフラとしては類例が少ない特徴を持つ.
本研究では,利尻島由来のテフラのうち,軽石質火山礫を主とする利尻ワンコの沢テフラ(Rs-Wn)と,スコリア質火山礫・火山灰からなる利尻豊徳テフラ(Rs-Ho)を対象とし,詳細な記載とそれからみた噴火推移を明らかにすることを目的とした.2枚とも後期更新世末期前後に噴出した降下テフラである.岩相記載および試料採取を目的とした現地調査を北海道豊富町にて行った.その上で,Rs-Wnについて降下ユニット(下位からRs-Wn1~9)ごとに分析を行い,その噴火推移を粒径変化やテフラ特性変化の点から議論した.利尻島利尻富士町南部,オタドマリ沼南東では,Rs-Wn,Rs-Hoと年代的に対比できる可能性のある沼浦マール堆積物を採取し,2枚のテフラと対比することによるテフラの噴出源推定を試みた.
Rs-Wnのうち,礫サイズの軽石質火山礫からなるRs-Wn2~5について,軽石の粒度別重量比と色調別重量比分析から相対的な噴火推移の推定を行った.Rs-Wn 2~5は淘汰のよい降下軽石質火山礫を主とすることからプリニー式噴火によって噴出したと考えられる.粒度別重量比分析の結果,Rs-Wn2から4にかけて礫サイズが大きい粒子がしだいに多くなり,Rs-Wn5では粒径の大きい粒子が減少することが判明した.Sparks(1986)は風の影響を考慮しないプリニー式噴火のシミュレーションにおいて,噴煙柱高度が大きいほど粒子の最大飛散距離が大幅に増大することを示している.よって,Rs-Wn2から4で徐々に噴火規模が大きくなり,Rs-Wn5では噴火規模が縮小したと考えられる.色調別重量比分析の結果,Rs-Wn2から4にかけて白色軽石の重量比が大きくなり,縞状軽石が卓越しているのに対して,Rs-Wn5では中間色軽石と灰色軽石が卓越し,縞状軽石は少なくなっていた.珪長質な白色軽石を噴出した後により明度の低い軽石や苦鉄質のスコリアが卓越する噴火を起こした例には富士山宝永噴火(1707年)があり,Rs-Wnを噴出した噴火も似た推移を辿った可能性がある.また,縞状軽石が見られることなどから,Rs-Wn噴火においてマグマ混合が伴うとした河原(2023)の見解が補強できた.
SEM-EDSを用いてRs-WnのRs-Wn2~5において火山ガラスの主成分化学組成を測定し,降下ユニット間の識別方法について検討した.同色調火山礫に対しユニット間の主成分化学組成比較を行った結果,白色と灰色の軽石でRs-Wn5が苦鉄質側に広い組成幅を持ち,灰色軽石でRs-Wn4が珪長質側に広い組成幅を持つ特徴があった.同ユニット内で色調間の主成分化学組成比較では,Rs-Wn3で中間色軽石のFeO値が有意に低く,Rs-Wn4の灰色軽石でトレンドが2つ見られるという特徴があった.Rs-Wn3から5でそれぞれ特定の色調,元素において特徴的な組成がみられ,Rs-Wn2を含む4つのユニットを主成分化学組成によって識別できることがわかった.
降下スコリア堆積物を主とする沼浦マール堆積物の主成分化学組成は,Rs-Wn,Rs-Hoのそれらとはいずれとも大きく異なり,対比できない.また,Rs-WnとRs-Hoの主成分化学組成のトレンドも大きく離れており,異なる噴出源を持つ可能性が高い.すなわち,沼浦マールはこれらのテフラの噴出源ではないと考えられ,噴出源候補の絞り込みを行うことができた.なお,Rs-Hoと沼浦マール堆積物については,それぞれのSiO2とNaO2+K2Oの組み合わせが,Rs-Hoでは54.4%,6.1%,沼浦マール堆積物では53.6%,5.3%であり,アルカリに富む.とくにRs-Hoは粗面玄武岩の組成を持ち,日本列島ではのテフラとしては類例が少ない特徴を持つ.