日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC27] 火山防災の基礎と応用

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:45

[SVC27-P05] 那須岳における火砕流リスクマップ作成の試み(2)

*河野 裕希1宝田 晋治1 (1.国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

キーワード:那須岳、火砕流、リスクマップ

全国の火山で作成されているハザードマップはハザード予想最大到達範囲を示しているものがほとんどであり,そこからは危険度の高低を読み取ることができない.地表を高速で流れ下る火砕流に関しては噴出量によっては流下開始地点の位置も到達範囲に寄与すると考えられる.また噴火規模と発生頻度はべき乗則の関係が成り立つことが指摘されている (例えば,中田 2015; Sandri et al., 2016).河野・宝田 (2023, 火山学会)では,火口の不確定性評価を加えた火砕流リスクマップの作成を試みた.しかし,ハザード評価では噴出量および底面摩擦角を固定した結果のみが示され,シミュレーション入力パラメータ不確定性の評価については検討の余地がある.噴出量と底面摩擦角について,Ogburn and Calder (2017)は両者の対数値が逆相関の関係であることを示している.本発表では噴出量と底面摩擦角の関係を考慮した上で,開口地点および噴出量の不確定性を含む火砕流到達リスクのマッピングを試みたので,結果を報告する.

ハザード評価 (Hazard)のために,河野・宝田 (2023)と同様に地質図から読み取れる火山性構造情報から開口ポテンシャルマップを作成し,開口確率値≠0である各メッシュの中心地点からシミュレーションを実施した.地質情報は産業技術総合研究所地質調査総合センター(以下,産総研)の那須火山地質図に基づく.シミュレーションはTitan2D (Pitman et al., 2003; Patra et al., 2005)による.噴出量はVEIの定義 (Newhall and Self, 1982)に基づき,1.0×10-3 – 1 km3 (VEI= 2 – 4相当)を適用した.底面摩擦角はOgburn and Calderの関係式を用いて噴出量から決定し,流れの初速度は40 m/sで固定した.Sandri et al. (2016), 志水・田邊 (2022)などの噴火規模別頻度分布から推定する(噴火した場合の)噴出量確率分布導出方法を那須岳に適用し,噴火した場合の噴出量(VEI)確率値を推定した.那須岳の噴火履歴は産総研の1万年噴火イベントデータベースを引用した.ここで推定された開口地点と噴出量に関する確率値の乗算 (噴出量確率値 × 開口確率値)はシミュレーション結果で出力された包絡線に対する重みとし,この重みが適用された火砕流到達域をすべてまとめたものをハザード評価とする.

曝露評価 (Exposure)には那須岳周辺の社会基盤のうち,建物分布,人口,道路・線路および土地利用区分の4種を使用した.各種曝露の分布はDel Negro et al. (2020)の方法が用いられ,0-1の値を持つ相対的な重要度分布に変換され,加重線形結合により統合された.なお,リスク値の計算は (Risk=Hazard×Exposure×Vulnerability; UNESCO, 1972)によりおこなう.本発表での各曝露対象のVulnerabilityは1と仮定した.これは火砕流が到達すると対象は被災することを意味する.

火砕流は茶臼岳西側へ流下するパターンが多く,東側への流下ケースは西側ほど多くはないが発達した沢沿いに流下するパターンがみられる.そしてリスクが高いと示されたのは茶臼岳南東麓の温泉街を中心とした地域であった.これは中村ほか(2021)が指摘しているように、幹線道路が沢沿いに建設されており,整備された道路沿いに温泉旅館が立ち並んでいることからと考えられる.