日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山の監視と活動評価

2024年5月31日(金) 10:45 〜 12:00 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高木 朗充(気象庁気象研究所)、宗包 浩志(国土地理院)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所)、座長:高木 朗充(気象庁気象研究所)、宗包 浩志(国土地理院)

11:30 〜 11:50

[SVC29-10] 噴火の地質学的観測と噴火シナリオー御嶽山2014年噴火,新燃岳2017-2018年噴火の体験を例に―

★招待講演

*及川 輝樹1 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

キーワード:噴火シナリオ、確率論的火山イベント・ツリー、火山の理解、噴火の観察、減災

火山噴火は、時々刻々と様々な現象が発生する。そのため、事前に起こりそうなことを整理した噴火推移シナリを作成して、それに基づいて見通しをたてながら火山の監視・観測を行うことは有益である。本講演では、新燃岳2017-18年噴火と御嶽山2014年噴火の際、筆者がどのようなシナリオを持って判断しつつ観察・観測を行ったの体験を話す。
 また、我が国では噴火シナリオは、内閣府の「活動火山対策の総合的な推進に関する基本的な指針」により「噴火に伴う現象とその影響の推移を時系列で示したもの」とされている。この定義は単純であるががため、噴火シナリオとよばれているものは様々な目的でつくられるものが存在し、さらにそのまとめ方も様々である。そのため本講演では、諸外国を含めて主に防災の現場で広く予測に使われている、Newhall and Hoblitt (2002)やNewhall and Pallister(2015)の確率論的火山イベント・ツリー(Probabilistic Volcanic Event Trees)解析を紹介したうえで、火山防災のための噴火シナリオと火山を理解するための噴火シナリオの違いも議論する。
 Newhall and Hoblitt (2002)、Newhall and Pallister(2015)の確率論的火山イベント・ツリー解析は、セントへレンズ火山1980年噴火以来改良を加えられた噴火現象のハザードとリスクを評価することに特化したイベント・ツリー図に基づく解析で、噴火によるハザードやリスクの予測や、防災対応、火山学者と行政担当者同士のコミュニケーションツールとして様々な噴火の対応に使われてきた実績がある。そのため、特に火山防災対応のためのツールとしては非常に強力であり、火山防災のためには積極的に用いるべきツールの一つであり、我が国の諸火山においても確率論的火山イベント・ツリー図の整備を積極的に進める必要がある。しかし、Newhall and Hoblitt (2002)やNewhall and Pallister (2015)の確率論的火山イベント・ツリー図の構造は、ツリー図のそれぞれの枝が噴火の推移を示しているものでない。そのため、このツリー図は、噴火シナリオ、時系列に沿ってどのような現象が起こりうるか、のまとめとしては不完全である。そのためこのツリー図を監視に使うことは難しく、演者の体験からも実際の噴火時に考えていた、今後ありうるべき噴火推移シナリオも、このツリー図の構造では十分に表現できない。また、このツリー図の分岐は、必ずしも噴火のメカニズムを考量してつくられたものではないため、この図の作成からは噴火の理解はそれほど進まないとも考えられる。そのため、Newhall and Hoblitt (2002)、Newhall and Pallister(2015)の確率論的火山イベント・ツリー図はハザードやリスクの評価には大変協力だが、火山活動の今後の見通しや噴火現象の理解などには別のまとめ方が必要である。そのため火山研究の推進や監視のためには、別のまとめ方を模索していく必要がある。
文献:
内閣府「活動火山対策の総合的な推進に関する基本的な指針」(平成28年2月) https://www.bousai.go.jp/kazan/kazan_houritsu/pdf/kihonhoushin.pdf
Newhall and Hoblitt (2002) Constructing event trees for volcanic crises. Bull. Volcanol., Vol. 64, 3–20.
Newhall and Pallister(2015)Using Multiple Data Sets to Populate Probabilistic Volcanic Event Trees. Volcanic Hazards, Risks and Disasters, 203-232.