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[SVC30-02] 本質物の多様性に注目した大規模火砕噴火の近傍相と遠方相の対比:南西北海道、洞爺カルデラ形成噴火の例
キーワード:カルデラ形成噴火、本質物、テフラの対比、火砕流に伴う降下火山灰、洞爺火山
カルデラ形成のような大規模な火砕噴火では噴出物は広範囲に分布する。そのため、同じ噴火フェーズであっても火口近傍相と遠方相では層相の変化が顕著であり、それらの対比は容易ではない。しかし、個々の噴火フェーズでの噴出量は重要な基礎的なデータであり、近傍から遠方まで堆積物を確かな根拠で対比することが重要となる。我々は、本質物の多様性を物質科学的に明らかにし、その噴火推移に伴う変化に着目し、洞爺カルデラ形成噴火を対象として、近傍相と遠方相の対比を行った。洞爺カルデラは約10.6万年前のVEI=7の噴火によって形成された。その噴火では大きく2回にわたり大規模な火砕流が発生し、それらの火砕流に伴うco-ignimbrite ashがカルデラから400km以上の遠方まで到達している。従来の研究では、2回の火砕流の規模の比較については統一見解がなく、co-ignimbrite ashと2回の火砕流との対比もこれまで議論されていなかった。
まず、我々はカルデラ縁から8㎞以内の近傍地域で、噴火層序と層相について検討した。その結果、堆積物は下位よりユニット1から6に区分されることがわかった。これらのうち、ユニット2およびユニット5・6が規模の大きな火砕流である。この区分は先行研究のGoto et al. (2018)と同じであるが、ユニット3と4の間に比較的長い時間間隙を見出したことと、本質物タイプ区分が異なる。本質物は、CPタイプ軽石(Crystal-poor type pumice:以下、CP)、CRタイプ軽石(Crystal-rich type pumice:CR)、そして灰色縞状軽石(Gray banded pumice:GRY)の3タイプに区分した。これらは岩相だけではなく、斑晶鉱物組み合わせ・組成、全岩化学組成、そしてマトリクスガラス組成でも区別できる。本質物タイプは、ユニット3まではCPのみが含まれているのに対して、ユニット4からはごく少量のCRおよびGRYも認められるようになる。そして、ユニット5ではCPは90%程度に減少し特にCRの比率が高くなり、ユニット6ではCPは50%程度になりCRに加えてGRYの比率が高くなる。次にカルデラ周辺の火砕流堆積物の層相と本質物タイプの量比を、近傍相と比較検討した。本質物が細粒になって、岩相の識別が困難になった場合には、本質物のマトリクスガラス組成で本質物タイプを確認した。ユニット2はカルデラから30㎞程度までは分布するが、それより遠くなると確認されない。一方、ユニット5はカルデラから50㎞以上流走している。その上位のユニット6についてもGRYの量でユニット5と識別でき、カルデラから30㎞を超えて分布していない。以上からユニット5が最大規模の堆積物であることが明らかになった。一方、co-ignimbrite ashに関してはマトリクスガラス組成で対比した。近傍での時間間隙から、ユニット2とユニット5, 6の2つに大別し、それぞれの近傍でのガラス組成の特徴を明らかにして、遠方相と比較した。co-ignimbrite ashは東~北東方向では80~100㎞離れた2地点、南~南西方向では120~200㎞離れた地点で、火山灰層を上部と下部に分けてサンプル採取し、ガラス組成を比較した。東方の1地点および南方の120km離れた地点では、火山灰層の下部はユニット2に、上部はユニット5, 6に対比できた。一方、残りの地点では上部・下部ともユニット5, 6に対比でき、ユニット2は確認できなかった。このことから、ユニット2はカルデラ120㎞前後までは到達しているが、それ以遠では到達していないようである。一方、カルデラから100-150㎞以遠の場所に分布するco-ignimbrite ashはユニット5, 6に由来することがわかった。
本研究によって、洞爺カルデラ形成噴火堆積物を近傍相から遠方相まで、co-ignimbrite ashも含めて対比できた。ユニット区分とその間の時間間隙、そして本質物タイプの時間変遷から、カルデラ形成噴火はユニット1~3まで(ステージ1)とユニット4~6まで(ステージ2)の2ステージに区分できる。その噴出量はステージ1が約39km3 DRE、ステージ2が133㎞3 DREであり、ユニット5が106km3 DREで最大である。カルデラ形成噴火は時間間隙を挟んで起こったステージ2が主噴火であり、そこではCPマグマに加えてCRおよびGRYマグマが出現する。主噴火の中のユニット5からが最盛期であり、このユニットと上位のユニット6で顕著なlag brecciaも介在することから、カルデラ陥没・拡大が発生したと考えられる。
(引用文献) Goto et al., 2018, J. Geography.
まず、我々はカルデラ縁から8㎞以内の近傍地域で、噴火層序と層相について検討した。その結果、堆積物は下位よりユニット1から6に区分されることがわかった。これらのうち、ユニット2およびユニット5・6が規模の大きな火砕流である。この区分は先行研究のGoto et al. (2018)と同じであるが、ユニット3と4の間に比較的長い時間間隙を見出したことと、本質物タイプ区分が異なる。本質物は、CPタイプ軽石(Crystal-poor type pumice:以下、CP)、CRタイプ軽石(Crystal-rich type pumice:CR)、そして灰色縞状軽石(Gray banded pumice:GRY)の3タイプに区分した。これらは岩相だけではなく、斑晶鉱物組み合わせ・組成、全岩化学組成、そしてマトリクスガラス組成でも区別できる。本質物タイプは、ユニット3まではCPのみが含まれているのに対して、ユニット4からはごく少量のCRおよびGRYも認められるようになる。そして、ユニット5ではCPは90%程度に減少し特にCRの比率が高くなり、ユニット6ではCPは50%程度になりCRに加えてGRYの比率が高くなる。次にカルデラ周辺の火砕流堆積物の層相と本質物タイプの量比を、近傍相と比較検討した。本質物が細粒になって、岩相の識別が困難になった場合には、本質物のマトリクスガラス組成で本質物タイプを確認した。ユニット2はカルデラから30㎞程度までは分布するが、それより遠くなると確認されない。一方、ユニット5はカルデラから50㎞以上流走している。その上位のユニット6についてもGRYの量でユニット5と識別でき、カルデラから30㎞を超えて分布していない。以上からユニット5が最大規模の堆積物であることが明らかになった。一方、co-ignimbrite ashに関してはマトリクスガラス組成で対比した。近傍での時間間隙から、ユニット2とユニット5, 6の2つに大別し、それぞれの近傍でのガラス組成の特徴を明らかにして、遠方相と比較した。co-ignimbrite ashは東~北東方向では80~100㎞離れた2地点、南~南西方向では120~200㎞離れた地点で、火山灰層を上部と下部に分けてサンプル採取し、ガラス組成を比較した。東方の1地点および南方の120km離れた地点では、火山灰層の下部はユニット2に、上部はユニット5, 6に対比できた。一方、残りの地点では上部・下部ともユニット5, 6に対比でき、ユニット2は確認できなかった。このことから、ユニット2はカルデラ120㎞前後までは到達しているが、それ以遠では到達していないようである。一方、カルデラから100-150㎞以遠の場所に分布するco-ignimbrite ashはユニット5, 6に由来することがわかった。
本研究によって、洞爺カルデラ形成噴火堆積物を近傍相から遠方相まで、co-ignimbrite ashも含めて対比できた。ユニット区分とその間の時間間隙、そして本質物タイプの時間変遷から、カルデラ形成噴火はユニット1~3まで(ステージ1)とユニット4~6まで(ステージ2)の2ステージに区分できる。その噴出量はステージ1が約39km3 DRE、ステージ2が133㎞3 DREであり、ユニット5が106km3 DREで最大である。カルデラ形成噴火は時間間隙を挟んで起こったステージ2が主噴火であり、そこではCPマグマに加えてCRおよびGRYマグマが出現する。主噴火の中のユニット5からが最盛期であり、このユニットと上位のユニット6で顕著なlag brecciaも介在することから、カルデラ陥没・拡大が発生したと考えられる。
(引用文献) Goto et al., 2018, J. Geography.