日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC30] 火山・火成活動および長期予測

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、上澤 真平(電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 地質・地下環境研究部門)、及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、清杉 孝司(神戸大学理学研究科惑星学専攻)

17:15 〜 18:45

[SVC30-P06] 福島県,吾妻―浄土平火山における歴史時代水蒸気噴火堆積物(JP7)の物質科学的研究

*中島 秀1長谷川 健1井村 匠2伴 雅雄2 (1.茨城大学理工学研究科理学専攻地球環境科学コース、2.山形大学理学部)

キーワード:吾妻火山、浄土平火山、水蒸気噴火、炭化木、火山ガラス

吾妻火山は,底径南北に約10 km,東西に約20 kmにおよぶ大型の複合火山群である.吾妻―浄土平火山(以下,浄土平火山)は,本火山東部における最新期の活動で形成され,現在も噴気活動が活発な活火山である.浄土平火山では,最近7000年間の活動で水蒸気噴火が多発し,その堆積物として少なくとも7ユニット(浄土平P1〜浄土平P7)が確認されている(山元, 2005).本研究の対象は,最新の水蒸気噴火堆積物である浄土平P7 (以下,JP7)である.JP7は,層相や古記録などから,浄土平火山の大穴火口から西暦1711年に噴出した水蒸気爆発降下火砕物とされているが(山元, 2005),著者らの最近の調査により,堆積物中に新鮮な火山ガラス片に加え炭化木片が確認された.そこで本研究では,JP7噴火の発生年代および噴火様式の再検討を目的とし,年代測定,構成物分析およびSEM-EDS分析を行った.
浄土平北東方にあるカモシカ坂の露頭ではJP7を含む多数の水蒸気噴火堆積物が確認できる.JP7は,堆積物の色調や粒径から,下部の灰色粘土質火山灰層(層厚1.5 cm)と上部の暗灰色シルト火山灰層 (層厚0.5 cm) に細分できる.各層に含まれる構成粒子(125-250μm)を,色調や形状から9種類に分類し,計400個以上カウントした(図1)(以下構成物量比はカウント%で示す).9種類の粒子は,4タイプの石質岩片(赤・黄色岩片,黒色火山岩片,灰色火山岩片,白色岩片),火山ガラス,3タイプの遊離結晶(輝石,斜長石,石英),および炭化木片からなる.上下層ともに構成粒子として石質岩片が卓越する(上部層79.0%,下部層90.4%)ものの,わずかながら火山ガラス(上部層1.7%,下部層0.7%)や炭化木片(図2)(上部層2.5%,下部層0.7%)も認められる.
分類した構成粒子について,微細組織の観察や化学組成データ取得を目的にSEM-EDS分析を行った.新鮮な黒色火山岩片,灰色火山岩片や火山ガラス(図3)と判断した粒子が熱水変質や風化を受けていないかを検証するため,ライン定量分析を行った.その結果,火山岩ガラス片は,分析点ごとの測定値のばらつきがほとんど認められず,化学組成が均質である(平均SiO2=78.6wt%(標準偏差0.14)),K2O=2.9wt%(標準偏差0.09)).一方で,リム側にかけてSiO2が3%程高くなり,Na2O,Al2O3,CaOの値が1~2%程低くなるものも認められた.後者は酸性熱水による元素溶脱(例えば野上ほか, 1993)が示唆される.
採取した炭化木片について,山形大学高感度加速器質量分析センターにて放射性炭素年代測定を行った.その結果,2σ基準で1445AD~1513AD(80.1%),1591AD~1620AD(15.3%)の暦年較正年代を得た.著者らは,カモシカ坂の露頭だけでなく,掘削・トレンチを含む複数の地点で同様の暦年代を示す噴火堆積物を見出している.それらの値は,先行研究(山元, 2005)でJP7の上下の土壌層から得られた年代(1660~1960AD)よりもやや古い.
噴火様式を検討するうえで,JP7堆積物中に炭化木片が含まれていたことは大きな特徴の一つである.火砕物中の炭化木のH/C比を用いて求められた推定定置温度などから,火砕物に取り込まれた木片が炭化するには275℃程度以上が必要であることが示唆される(たとえば,沢田ほか, 2000).一般に水蒸気噴火では炭化木片が生成される温度条件を満たすことは難しい(水蒸気噴火が引き起こす火砕流の温度は概ね30~100℃の範囲(Oikawa et al. 2016)).よって本噴火には高温のマグマが関与した可能性がある.
新鮮で均質な化学組成をもつ火山ガラス粒子は本質物と考えることができる.新燃岳2008~2011年噴火の例では,水蒸気噴火堆積物の構成物には変質物質が最も多く (65–30vol%) ,本質物質は1vol%未満とされている.一方で,マグマ水蒸気噴火堆積物では,本質物質が7.7vol%に増加している(Suzuki et al. 2013).JP7の本質物の割合は,下位層6.0%(新鮮な岩片5.0%,火山ガラス1.0%)から上位層14.1%(新鮮な岩片12.1%,火山ガラス1.9%)に増加している.JP7の噴火では,噴火開始からマグマの関与があった「マグマ水蒸気噴火」が発生し,噴火が進行するにつれてマグマの割合が増加したと考えられる.また,先行研究(山元, 2005)では,1711 年に描かれた史料に大穴火口付近から噴煙の出ている絵図があるためJP7を1711年としているが,その発生年代は1711年より古い可能性が指摘できる.