11:30 〜 11:45
[SVC31-16] 島根県木部谷間欠泉での地電位及び傾斜変動観測: 地下水流動と噴出の関係
キーワード:間欠泉、地電位、傾斜、地下水の移動
継続時間数分の「傾斜変動を伴う火山性微動」は,しばしば水蒸気噴火発生直前に報告されている.Aizawa et al. (2022) では,2018年霧島硫黄山の小規模水蒸気噴火直前,火口近傍の1観測点で,「傾斜変動を伴う火山性微動」に加えて,地電位変動が生じることを報告した.この地電位変動は,地下の多孔質媒質中を地下水が動くことで生じる流動電位と解釈され,水蒸気噴火の直前過程を理解する上で重要と考えられる.さらに,Tanabe et al. (2023) では,2021年霧島硫黄山西火口の間欠的熱水噴出現象(間欠泉現象)でも,噴出直前に同様の地電位変動が生じることを発見し,間欠泉噴出と水蒸気噴火の直前には類似した地下水流動プロセスがあることを示唆した. 水蒸気噴火は稀にしか発生せず,データの取得が困難だが,間欠泉は高頻度で噴出することに加え,噴気孔の極近傍で観測機器を展開できるため,豊富なデータセットの取得が期待できる(e.g., Hurwitz and Manga 2017).しかし,Tanabe et al. (2023) では,地電位及び傾斜観測点がそれぞれ1点ずつであったため,これらの地電位変動 (地下水流動) がどのように噴出に影響しているのか (地下水流動の深さ・方向・タイミングと噴出の関係),さらには多くの間欠泉で普遍的に存在するのかについて未解明であった.本発表では水蒸気噴火の直前予測に向けた第一段階として,木部谷間欠泉で地電位・傾斜を中心とした地球物理観測を行った結果を報告する.
島根県西部の吉賀町にある木部谷間欠泉は,1970年に温泉掘削用ボーリング調査(深さ80 m)で誕生した.噴出時には,炭酸ガスの圧力により比較的低温(20–21 ℃)な温泉水が38分間隔(噴出時間は6分間)で噴出する.2023年7月31日から8月18日にかけて,噴出口の周辺で可視映像, 温度, 傾斜,空振, 地電位の測定を行った.傾斜・空振・地電位観測は3点で展開した(Fig.1).
各観測データには,間欠泉サイクルと関係した変動が記録された.傾斜データから,地下圧力源の膨張(非噴出時)と収縮(噴出時)のシグナルが確認できた.その変動方向から,噴出口の南西―北東方向の地下に板状圧力源の存在が示唆された.インバージョンを行った結果,噴出口の脇を南西―北東におよそ28 m延びる,深さ10–24 m,開口量が0.5 cmの板状圧力源が推定された.一方,地電位データからも傾斜とほぼ同期した変動が確認でき, これは地下水流動(流動電位)によるものと解釈できる.また,温泉水と岩石試料を用いた実験を行い,地下水流動の下流側が相対的に高電位を示すことを確認した(ζ-potential = -9.60 mV).そして,地電位変動解析により,噴出口の南西-北東方向の地下に電流源が生じており,その大きさは湧出開始に向かい大きくなり,湧出開始とともに小さくなることが分かった.
傾斜変動から推定された地下圧力源位置と,地電位変動方向が一致することから,噴出口の南西―北東方向の地下10–24 mに存在する板状圧力源に向かい地下水が移動すると考えられる.この圧力源には,噴出前に噴出の駆動力となる炭酸ガスが蓄積されるとともに,周辺部から地下水も流入し,膨張する.そして,炭酸ガスにより内部が十分に増圧すると,地下水流入量も減少する.最終的に炭酸ガスが温泉水を地表に押し上げ噴出に至ると推定される.本研究で,地電位,傾斜,映像の多項目観測が地下水流動と間欠的な噴出の関係を知るうえで有効であると示すことができた.
[参考文献]
・Aizawa K, Muramatsu D, Matsushima T, Koyama T, Uyeshima M, Nakao S (2022) Phreatic volcanic eruption preceded by observable shallow groundwater flow at Iwo-Yama, Kirishima Volcanic Complex, Japan. Commun Earth Environ 3:187. https://doi.org/10.1038/s43247-022-00515-5
・Tanabe H, Matsushima T, Aizawa K, Muramatsu D (2023) Multi-parametric observations of intermittent hydrothermal water discharge in West Crater of Iwo-Yama volcano, Kirishima Volcanic Complex, Japan. Earth Planets Space 75:75. https://doi.org/10.1186/s40623-023-01830-7
・Hurwitz S, Manga M (2017) The Fascinating and Complex Dynamics of Geyser Eruptions. Annu Rev Earth Planet Sci 45:31–59. https://doi.org/10.1146/annurev-earth-063016-015605
島根県西部の吉賀町にある木部谷間欠泉は,1970年に温泉掘削用ボーリング調査(深さ80 m)で誕生した.噴出時には,炭酸ガスの圧力により比較的低温(20–21 ℃)な温泉水が38分間隔(噴出時間は6分間)で噴出する.2023年7月31日から8月18日にかけて,噴出口の周辺で可視映像, 温度, 傾斜,空振, 地電位の測定を行った.傾斜・空振・地電位観測は3点で展開した(Fig.1).
各観測データには,間欠泉サイクルと関係した変動が記録された.傾斜データから,地下圧力源の膨張(非噴出時)と収縮(噴出時)のシグナルが確認できた.その変動方向から,噴出口の南西―北東方向の地下に板状圧力源の存在が示唆された.インバージョンを行った結果,噴出口の脇を南西―北東におよそ28 m延びる,深さ10–24 m,開口量が0.5 cmの板状圧力源が推定された.一方,地電位データからも傾斜とほぼ同期した変動が確認でき, これは地下水流動(流動電位)によるものと解釈できる.また,温泉水と岩石試料を用いた実験を行い,地下水流動の下流側が相対的に高電位を示すことを確認した(ζ-potential = -9.60 mV).そして,地電位変動解析により,噴出口の南西-北東方向の地下に電流源が生じており,その大きさは湧出開始に向かい大きくなり,湧出開始とともに小さくなることが分かった.
傾斜変動から推定された地下圧力源位置と,地電位変動方向が一致することから,噴出口の南西―北東方向の地下10–24 mに存在する板状圧力源に向かい地下水が移動すると考えられる.この圧力源には,噴出前に噴出の駆動力となる炭酸ガスが蓄積されるとともに,周辺部から地下水も流入し,膨張する.そして,炭酸ガスにより内部が十分に増圧すると,地下水流入量も減少する.最終的に炭酸ガスが温泉水を地表に押し上げ噴出に至ると推定される.本研究で,地電位,傾斜,映像の多項目観測が地下水流動と間欠的な噴出の関係を知るうえで有効であると示すことができた.
[参考文献]
・Aizawa K, Muramatsu D, Matsushima T, Koyama T, Uyeshima M, Nakao S (2022) Phreatic volcanic eruption preceded by observable shallow groundwater flow at Iwo-Yama, Kirishima Volcanic Complex, Japan. Commun Earth Environ 3:187. https://doi.org/10.1038/s43247-022-00515-5
・Tanabe H, Matsushima T, Aizawa K, Muramatsu D (2023) Multi-parametric observations of intermittent hydrothermal water discharge in West Crater of Iwo-Yama volcano, Kirishima Volcanic Complex, Japan. Earth Planets Space 75:75. https://doi.org/10.1186/s40623-023-01830-7
・Hurwitz S, Manga M (2017) The Fascinating and Complex Dynamics of Geyser Eruptions. Annu Rev Earth Planet Sci 45:31–59. https://doi.org/10.1146/annurev-earth-063016-015605