日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 火山噴火のメカニズム

2024年5月29日(水) 10:45 〜 11:45 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:無盡 真弓(東北大学)、田中 良(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、丸石 崇史(防災科学技術研究所)、村松 弾(東京大学地震研究所)、座長:田中 良(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、無盡 真弓(東北大学)

11:15 〜 11:30

[SVC31-15] 管路および帯水層内の気液二相流シミュレーションに基づく間歇泉の噴出ダイナミクス

*柘植 鮎太1青山 裕2 (1.北海道大学大学院理学院、2.北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)

キーワード:間歇泉、数値シミュレーション

間歇泉の噴出メカニズムは,流路に供給される高温水が上昇とともに減圧沸騰することで噴出する,という概念モデルでしばしば説明される(e.g., Kieffer, 1984).しかし,噴出過程における上昇経路内の気相を伴う流動のダイナミクスは,直接的な観測が困難なため未解明な点が多い.先行研究では,地下水流動シミュレーターを用いた間欠的な熱水噴出の数値実験が試みられたが(e.g, Ingebritsen and Rojstaczer, 1996),それらは上昇経路内の流動をダルシー流で近似した.しかしながら実際の間歇泉では,上昇経路の形状は管路や径の大きな割れ目が一般的であり,気相の急速な発生による流動様式の変化を記述する上で,多孔質流れを前提としたダルシー流は適切ではない.また,熱水中に溶解しているCO2は,その分圧によって気相の発生条件に影響を与えると指摘されているが(e.g., Hurwitz et al., 2016; Tsuge et al., 2023),水とCO2の発泡がどのように噴出過程に寄与するかは十分に理解されていない.本研究では,間歇泉の噴出における詳細な物理過程について知見を得るために,水とCO2の発泡を考慮した,管路内の気液二相流モデルに基づく数値実験を行なった.

本研究では,管路および帯水層内の非定常気液二相流シミュレーターT2Well/ECO2N(Pan et al., 2011)を使用した.T2Wellは管路と帯水層を異なるサブドメインとして扱い,それぞれにおける気液二相流を計算できる.また,本シミュレーターに実装された状態方程式モジュールECO2Nは,P≦60MPa,10≦T≦110℃の温度・圧力範囲におけるNaCl-H2O-CO2流体を扱うことができる.本研究では1次元の管路とその下部に接続された円筒2次元の帯水層から構成される計算領域を設定した.熱水の供給条件として帯水層の最遠部に一定の温度,圧力,そしてCO2質量分率を与えて計算を行い,得られた各物理パラメータの時空間変化を調べた.

シミュレーションの結果,特定の境界条件の組み合わせの場合に熱水とCO2の減圧発泡による間欠的な噴出が再現された.再現された噴出サイクルは,管路内を水位がダルシー流に従って上昇する水位回復期間,噴出率が僅かに大きくなり液相が卓越する湧出期間,そして気相の急速な発生に伴って噴出率が増大する噴出期間に区別でき,実際の間歇泉で典型的に見られる特徴とよく対応した.また,熱水に溶解しているCO2は発泡開始深度を低下させる役割を持つが,一方で噴出の爆発性への寄与は小さいことがわかった.さらに,シミュレーションから得られた各物理パラメータの時空間変化から,噴出プロセスは浅部の温度勾配が高い領域において発泡が促進される self-enhancing process と,深部の温度勾配が低い領域において発泡が抑制される self-limiting process に大別でき,それぞれが噴出の進展と停止を支配するという概念モデルを新たに提案した.本研究は単純な上昇経路のジオメトリを仮定しており,かつ限られた温度圧力条件の範囲内での検証にとどまっているが,間歇泉の噴出ダイナミクスに重要な示唆を与えると考えられる.