JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] [JJ] ガスハイドレートと地球環境・資源科学

2017年5月22日(月) 09:00 〜 10:30 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)、八久保 晶弘(北見工業大学環境・エネルギー研究推進センター)、森田 澄人(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門)、谷 篤史(神戸大学 大学院人間発達環境学研究科)、座長:戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)

09:30 〜 09:45

[MIS16-03] 日本海表層型ガスハイドレート胚胎域におけるオスモサンプラーによるガス湧出強度別間隙水の地球化学的時系列解析

*尾張 聡子1戸丸 仁1亀田 凌平1松本 良2 (1.千葉大学大学院理学研究科、2.明治大学 ガスハイドレート研究所)

キーワード:ガス湧出、表層型ガスハイドレート、日本海、長期連続採水器、間隙水、オスモサンプラー

ガスハイドレート胚胎域として知られる日本海では潜水調査艇や計量魚群探知機、マルチビーム音響測深機を使用した調査で海底からのプルームや湧出するガスが複数の海域で確認されているが、その強度や位置が数日スケールで変化していることが明らかとなり,ガス湧出を含む表層型ガスハイドレート系内の化学的環境が同様に短期的に変動している可能性がある.湧出やプルームの観察された海域からは共通して表層型ガスハイドレートが回収されており,湧出強度は海域ごとに、湧出密度(湧出点数)、湧出量、底質で特徴づけられた.新潟沖,鳥が首海脚は湧出密度が高く,湧出量も非常に大きい.海底面は数cmから50cm以上の大きさを超えるほどの炭酸塩岩が広く分布しており,調査艇で海底を掘り返すとバブルが噴出していた.海底表層の炭酸塩岩は過去の活発なメタン湧出の証拠とされる.新潟沖,海鷹海脚は鳥ヶ首海脚に比べると湧出密度は高いが,強度は弱く,海底面は主に泥で数cmほどの炭酸塩岩が散在している.秋田‐山形沖,鳥海礁は魚群探知機によるプルームの確認はされているものの実際に調査艇による現場観察では湧出は確認されず,海底面は広く泥に覆われていた. 以上の3サイトから,ガス湧出の強度や有無によってどれほどの時間・規模で表層型ガスハイドレート系内の化学環境を変動させるかを明らかにするため,鳥が首海脚はガス湧出の強いサイト,海鷹海脚は活発ではないが弱いガス湧出サイト,鳥海礁はガス湧出のない場所に,それぞれ長期連続採水器OsmoSamplerを海底に設置し,海底下30cmの間隙水を一年間採取した. 採取された間隙水の主要溶存イオン・ガス濃度を全サイト約一日の精度で測定した.
溶存イオン濃度は全サイトに共通して連動して3~5日周期ののこぎり状の変動と不規則に表れる変動幅の大きいスパイク状の変動を示した.しかしそれぞれの変動は海域ごとに変動幅や出現頻度が顕著に異なっており,例えば一年を通して繰り返されるのこぎり状変動は湧出密度,量が最も強い鳥が首海脚の変動率が最も大きい.これはガス湧出密度・量が強いほど大規模,もしくは短時間でガスハイドレートの形成が可能であり,ガスハイドレートの形成・分解に伴う真水の消費・放出バランスによって各海域のイオン濃度の変動が支配されている可能性が高い.
ガス濃度にも海域による顕著な違いが表れ,メタン濃度は湧出の強い鳥が首海脚において変動幅は最も大きく,メタンの最大濃度は10,000mMと他の2サイトと比較して約5,000倍高い.この最大濃度はメタンの過飽和に達することから間隙水試料の中にガスが気体として混入していた可能性が高い.メタン濃度はガス湧出強度には明瞭な正の相関はなく,ガス湧出をきっかけに形成されたガスハイドレートが湧出経路をふさぐことで湧出量を減少させるような負のフィードバック効果を持つことが推測される.ガス湧出を伴う表層型ガスハイドレート胚胎域はガスの湧出強度に規制された間隙水の化学環境が短期間で大きく変動していることが明らかとなった。
本研究は経済産業省のメタンハイドレート開発促進事業の一部であり,産業技術総合研究所の再委託により実施した.