第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防1

2014年5月30日(金) 10:50 〜 11:40 第6会場 (3F 304)

座長:大渕修一(東京都老人総合研究所在宅療養支援)

生活環境支援 口述

[0020] 要介護高齢者におけるFunctional Reachの認識誤差と手段的日常生活活動の関係

中村凌1, 三栖翔吾2, 上田雄也3, 澤龍一3, 中津伸之3, 斉藤貴1, 杉本大貴1, 村田峻輔1, 山﨑蓉子1, 堤本広大3,4, 中窪翔3,4, 土井剛彦4,5, 小野玲3 (1.神戸大学医学部保健学科, 2.神戸市民病院機構神戸市立医療センター西市民病院, 3.神戸大学大学院保健学研究科, 4.国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター自立支援開発研究部自立支援システム開発室, 5.日本学術振興会特別研究員)

キーワード:認識誤差, 手段的日常生活活動, 地域在住高齢者

【はじめに,目的】
生命予後を予測する上で重要であると報告されている手段的日常生活活動(Instrumental Activities of Daily Living:IADL)障害は生活環境に対する身体能力が不適切であるか,自己の身体能力に対する認識が不適切であった場合に生じると考えられる。加齢により身体能力が低下することから,高齢者において環境に対する身体能力を適切に保つことには限界がある。そのため,高齢者において身体能力の変化の認識も含めて身体能力に対する認識が適切であることはIADL障害の発生に関連する要素であると考えられる。身体能力認識能力を計測する方法の一つとして,Functional Reach(FR)の計測値と予測値の差を算出する身体能力認識誤差(Error in Perceived Functional Reach Distance:ED)の測定が多くの研究で用いられており,先行研究において,EDは転倒,抑うつと関連することが報告されている。EDの絶対値が大きい人は身体能力認識能力が低く,生活環境に合った適切な運動が行えていないと考えられ,それがIADL障害につながると予想される。さらに,自己の能力を過大評価・過小評価している者に分けて考えることで,EDの絶対値のみではとらえきれない対象者の特性を調査することができると考えられる。しかし,EDとIADL障害との関連性は明確にはなっておらず,さらに過大評価・過小評価に分けて調査した研究は少ない。そこで,地域高齢者の中でも加齢による身体能力の変化が著しく大きく身体能力の認識がより困難であると考えられる要介護高齢者においてEDとIADLとの関連があると仮説を立て,その関連をEDの大きさや身体能力の過小評価および過大評価に着目しながら明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者はデイサービスセンターに通う65歳以上の要支援または要介護認定を受けている地域高齢者60名のうち,Mini Mental State Examination(以下,MMSE)の点数が23以下である26名を除外した34名(85.4±6.0(歳),男性6名)であった。
評価項目は,FR,ED,IADLの3項目とした。測定手順は,始めに測定開始位置を決め,遠位から円柱状の棒を近づけ,棒に手が届くと視覚的に判断した時点で合図をしてもらい,その位置から測定開始位置までの距離を最大リーチ距離の予測値とし測定を行った後,FRの測定を行った。EDは,FRから予測値を引いた値として算出した。認識誤差の大きさの評価にはEDの絶対値を用いた。さらに,EDの絶対値の標準偏差を用いてEDの値を0±1標準偏差(cm)を基準に値の小さいものから順に過大評価群,適切認識群,過小評価群の3群に分けた。IADLの評価指標には,老研式活動能力指標(Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology Index of Competence:以下,TMIG)のうち,5点満点で表される手段的自立の評価を用い,5点をIADL障害なし群,5点未満をIADL障害あり群とした。
統計解析は,IADL障害の有無とEDの関係を見るためにロジスティック回帰分析を使用し,従属変数をIADL障害の有無,独立変数をEDの絶対値または,適切認識群をreferenceとして過大評価群・過小評価群へのオッズ比を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,神戸大学大学院保健学研究科保健学倫理委員会の承認を得た後に行われ,事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明して同意を得た。
【結果】
IADL障害なし群は20名,IADL障害あり群は14名であり,FRの平均は20.9±7.0 cm,EDの絶対値の平均は7.7±5.2cmであった。IADL障害ありに対するEDの絶対値のオッズ比は1.2(p<0.05)であった。身体能力を過大評価している者は5人(ED:-10.1±4.4cm,IADL障害あり:3名(60.0%)),適切認識群は13人(ED:0.5±3.0cm,IADL障害あり:2名(15.4%)),過小評価している者は16人(ED:11.4±3.4cm,IADL障害あり:9名(56.3%))であった。IADL障害ありに対する過小評価群のオッズ比は7.1(p<0.05),過大評価群のオッズ比は8.2(p=0.07)であった。
【考察】
本研究の結果から,要介護高齢者においてEDの絶対値とIADL障害の有無に関連があることが明らかになった。IADL障害は,身体能力だけでなく身体能力の認識とも関連している可能性があると考えられ,本研究においてはEDを測定したことで身体能力の不適切な認識により発生したIADL障害を評価でき,この結果が得られたと考えられる。また,自身の身体能力を過小評価・過大評価群におけるIADL障害の有無に関するオッズ比は同程度であったことから,過小評価,過大評価いずれにおいてもIADL障害と関連があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
身体能力認識誤差を知ることにより,IADL障害の推測に利用できる可能性があることが示唆された。今後,身体能力認識誤差へのアプローチがIADL障害予防の一助になると考えられる。