第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防1

2014年5月30日(金) 10:50 〜 11:40 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:高井逸史(大阪物療大学保健医療学部)

生活環境支援 ポスター

[0060] 要支援,要介護認定者を対象とした新しいIADLスケール開発の検討

李相侖1, 島田裕之1, 朴眩泰1, 牧迫飛雄馬1, 阿南祐也1, 土井剛彦1, 吉田大輔1, 林悠太2, 波戸真之介2, 堤本広大1, 上村一貴1, 鈴木隆雄1 (1.国立長寿医療研究センター, 2.株式会社ツクイ)

キーワード:IADLスケール, 要介護認定, 高齢者

【はじめに,目的】
今後15年間で後期高齢者の人口は日本全国で現在の1.5倍以上になり,それに伴う体力や認知機能の低下から老年症候群を発症し,要介護状態に陥る高齢者が急増するものと考えられる。平成18年度の介護保険制度改正においては,「予防重視型システムへの転換」がなされ,要介護状態の軽減や悪化防止に効果的な新たな予防給付が創設された。要介護状態の軽減のためには,生活機能の保持が重要な側面を持ち,とくにIADLの低下予防が,その後に生じる機能障害を予防するために重要である。要介護認定度における先行研究の生活機能の評価においては老研式活動能力指標を用いているが,この指標は,Lawtonの活動能力の体系に依拠してADLの測定ではとらえられない高次の生活能力を測定する尺度であり,健常高齢者を対象とした検討が多くされている。そこで,本研究事業では,健常高齢者,要支援高齢者,要介護高齢者の分類を可能とする新たなIADL指標を開発して,要支援高齢者と要介護高齢者のIADL能力の低下部分を明らかにすることで,要介護認定発生における精度の高いスケール開発を目標とした。
【方法】
項目選定のためのプリテストと本調査を実施した。対象者は,健常高齢者,要介護認定を受けた高齢者の合計が,プリテストでは399名,本調査は13,066名を対象として実施した。プリテストでは事前に用意した47項目の日常生活活動を調査し,本調査では19項目の調査を実施した。在宅介護サービスを受給する要支援・要介護高齢者については,要支援1,2と要介護1,2の高齢者を対象者とした。調査期間は,プリテストは2012年8月末から1か月程度で実施した。本調査は2012年11月~2月まで実施した。要支援者のIADLは,全国に通所介護事業所を展開している株式会社ツクイに調査委託をして実施した。健常高齢者については,愛知県大府市に在住する高齢者を対象とした。本調査の主要項目であるIADLについては,先行研究において有用性が認められている項目および当分野の研究者,臨床家によるブレインストーミング等により項目を抽出し,IADL指標を作成した。項目は容易に選択可能なように2件法とした。なお,評価は自記式および観察で評定できるようにし,誰にでも適用可能な指標を目指した。統計方法としては,IADLの各項目における回答傾向に関しては,通過率,φ係数,項目反応理論等を用いた。また,質問内容の妥当性の検討,項目反応理論,ROC分析からNCGG-ADLスケールを検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では独立行政法人国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を得た後に実施し,事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,対象者から書面にて同意を得た。なお,本研究の対象者は要支援の認定を受けた高齢者であり,基本的な理解力は保たれている者が対象となるが,必要に応じて家族からの承諾を得ることとした。
【結果】
プリテストの結果から,項目の難易度が低いものや明らかな男女差が認められた項目を削除した。また,IADLの項目と判断しづらい項目を削除した19目において,本調査を行った。本調査の結果,質問内容の妥当性の検討,項目反応理論,ROC分析からNCGG-IADLスケールは13項目に決定した。13項目でのクロンバックのα信頼性係数を算出したところ,0.937と信頼性も十分であった。認定なし,要支援,要介護高齢者における得点の分布を図に示した。認定のない高齢者では81.4%が13項目全て可能であった。要支援者と要介護者は得点の分布が広いが,要支援者では低得点者が少なく要介護者では点得点者が多かった。
【考察】
NCGG-IADLスケールは先行研究を踏まえた狭義の手段的活動にとどまらず,日常生活活動の構成概念を拡大して多様な社会活動を含む内容と構成された。プリテストと本調査により,13項目スケールが確定し,IADL能力の低下部分を明らかにするスケール開発ができた。現在,要介護認定における悪化の危険性を発見するための判定基準,縦断調査を用いたカットポイントの検討を行っている。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では地域居住高齢者と要支援高齢者,要介護高齢者の分類を可能とする新たなIADL指標を開発すること,特に,要支援高齢者と要介護高齢者のIADL能力の低下部分を明らかにするスケール開発を目標とした。適切なアセスメントは何かを具体的に明示することは,個別機能訓練の実施を効率化し要支援者に適切なプログラムを提供するための助けとなる可能性が高く,理学療法の大きな課題であり,理学療法実施に示唆を与える結果が得られた。