[0094] 脳卒中における患者と理学療法士の自覚的評価は他覚的評価とは関係しない
キーワード:GRC, 自覚的評価, 他覚的評価
【はじめに,目的】
脳卒中の理学療法は,脳卒中ガイドラインの普及にしたがい,臨床現場においてエビデンスを重視するようになってきた。当院においても,データベースという考えの基にNational Institute of Health Stroke Scale(以下NIHSS)やBarthel Index(以下BI)などの画一的な評価を義務化し,介入方法の検討や組織の方針決定に利用しようとしている。しかし,脳卒中という疾患が,突如として麻痺や言語障害,食事摂取困難などの劇的な症状が出現し,患者のQuality Of Life(以下QOL)が著しく低下するという,画一的ではない事情を含んでいるものと捉えられる。QOLは個人の生活や価値観に大きく関わり,画一的な理学療法評価とは別に評価されるべき部分であると考えられる。また,意識や言語障害などで自分の意思表示ができない患者にとって,医療スタッフが患者の状況を認識し,リハビリテーションのゴール設定を行うためには,画一的ではない部分を主観的に判断せざるを得ない部分が生じる。本研究の目的は,QOLに影響を及ぼす主観的な評価となるGroval Rating of change scale(以下GRC)が脳卒中の機能的側面や日常生活動作の能力的側面との関係性があるかを明らかにすることである。また,患者だけでなく,理学療法士(以下PT)の主観的な評価についても調査し,画一的な理学療法評価のみに留まらない側面を明らかにすることである。
【方法】
対象は,脳卒中にて当院へ入院し,理学療法を施行した患者で,退院時にGRCが聴取可能であった者(n=80)とした。データは2013年6月から10月までの脳卒中患者に対してデータ収集しているデータベースから,後方視的に取得した。取得したデータは,患者から聴取したGRCの他,脳卒中の重症度を機能的な側面から判定するものとしてNIHSS,日常生活動作の能力的側面の評価としてBI,GRC評価をPTが行ったGRC(以下GRCth)とした。なお,GRCの評価は,-3~3の7段階評価とし,下位から順に,入院時と比較して「はるかに悪くなった」「少し悪くなり,生活に影響する」「少し悪くなったが,生活に影響しない」「ほぼ同じ」「少しは良くなったが,生活に意義はない」「少しは良くなり,生活に意義がある」「はるかに良くなった」としている。検討については,GRCおよびGRCthとNIHSS,BIの各項目または合計点との関係性について統計学的分析を行った。そして,GRCとGRCth,理学療法介入時と退院時のNIHSS,BIについては差について検討した。統計学的分析として,R2.8.1を使用し,各変数の関係性の検討には分布に応じてピアソンまたはスピアマンの積率相関分析を用い,GRCとGRCthの差の検定にはフリードマンの順位和検定,理学療法介入時と退院時のNIHSSおよびBIの差には対応のあるt検定を用いた。検定における有意確率は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院の倫理規定および個人情報取り扱い規定を順守し,全て匿名化したデータを用いることで対象者への影響がないように配慮した。
【結果】
対象者の属性は,年齢が平均69(±15)歳,退院時NIHSSが平均3.54(±6.21)点,改善の差は平均1.42(±4.13)点,退院時BIの平均が76点(±30.72)点,改善の差は平均28.56(±26.61)点,GRCの平均は1.52点(±1.14点),GRCの平均は1.56点(±0.95点)であった。対象者の転帰については,自宅が46人,転院が34人であった。統計学的検討の結果は,GRCおよびGRCthとNIHSS,BIの各項目または合計点との関係性は全項目で相関関係がなかった。また,GRCとGRCthとの差はなかった。理学療法介入時と退院時のNIHSSおよびBIの差は有意差あり(p<0.05)との結果となった。
【考察】
結果の解釈としては,まず対象者の属性から,GRCが聴取でき,NIHSSやBIの評価結果,自宅退院数からすると,対象者が軽症の者に限局されていることが見てとれ,対象者の特性として考慮する必要があった。そして,NIHSSおよびBIは有意な改善が示されているにも関わらず,GRCやGRCthとNIHSSおよびBIで関係性が見られない。以上より,機能的,能力的側面の改善が必ずしも主観的側面に影響を与えないものと解釈された。つまり,他覚的側面とは別に主観的側面が存在するということになる。また,患者とPTの主観的評価に差がないことからすると,PTが患者像を捉えるにあたり,PTの主観的側面も評価の一部として取り入れられる可能性があるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果を受け,脳卒中患者には意思疎通の困難な者も多く存在するため,PTの感覚的指標も他覚的・画一的評価に加えて必要であると考える。これら患者やPTの主観的な評価を含めたエビデンスの構築が理学療法の更なる発展に寄与するものと考える。
脳卒中の理学療法は,脳卒中ガイドラインの普及にしたがい,臨床現場においてエビデンスを重視するようになってきた。当院においても,データベースという考えの基にNational Institute of Health Stroke Scale(以下NIHSS)やBarthel Index(以下BI)などの画一的な評価を義務化し,介入方法の検討や組織の方針決定に利用しようとしている。しかし,脳卒中という疾患が,突如として麻痺や言語障害,食事摂取困難などの劇的な症状が出現し,患者のQuality Of Life(以下QOL)が著しく低下するという,画一的ではない事情を含んでいるものと捉えられる。QOLは個人の生活や価値観に大きく関わり,画一的な理学療法評価とは別に評価されるべき部分であると考えられる。また,意識や言語障害などで自分の意思表示ができない患者にとって,医療スタッフが患者の状況を認識し,リハビリテーションのゴール設定を行うためには,画一的ではない部分を主観的に判断せざるを得ない部分が生じる。本研究の目的は,QOLに影響を及ぼす主観的な評価となるGroval Rating of change scale(以下GRC)が脳卒中の機能的側面や日常生活動作の能力的側面との関係性があるかを明らかにすることである。また,患者だけでなく,理学療法士(以下PT)の主観的な評価についても調査し,画一的な理学療法評価のみに留まらない側面を明らかにすることである。
【方法】
対象は,脳卒中にて当院へ入院し,理学療法を施行した患者で,退院時にGRCが聴取可能であった者(n=80)とした。データは2013年6月から10月までの脳卒中患者に対してデータ収集しているデータベースから,後方視的に取得した。取得したデータは,患者から聴取したGRCの他,脳卒中の重症度を機能的な側面から判定するものとしてNIHSS,日常生活動作の能力的側面の評価としてBI,GRC評価をPTが行ったGRC(以下GRCth)とした。なお,GRCの評価は,-3~3の7段階評価とし,下位から順に,入院時と比較して「はるかに悪くなった」「少し悪くなり,生活に影響する」「少し悪くなったが,生活に影響しない」「ほぼ同じ」「少しは良くなったが,生活に意義はない」「少しは良くなり,生活に意義がある」「はるかに良くなった」としている。検討については,GRCおよびGRCthとNIHSS,BIの各項目または合計点との関係性について統計学的分析を行った。そして,GRCとGRCth,理学療法介入時と退院時のNIHSS,BIについては差について検討した。統計学的分析として,R2.8.1を使用し,各変数の関係性の検討には分布に応じてピアソンまたはスピアマンの積率相関分析を用い,GRCとGRCthの差の検定にはフリードマンの順位和検定,理学療法介入時と退院時のNIHSSおよびBIの差には対応のあるt検定を用いた。検定における有意確率は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院の倫理規定および個人情報取り扱い規定を順守し,全て匿名化したデータを用いることで対象者への影響がないように配慮した。
【結果】
対象者の属性は,年齢が平均69(±15)歳,退院時NIHSSが平均3.54(±6.21)点,改善の差は平均1.42(±4.13)点,退院時BIの平均が76点(±30.72)点,改善の差は平均28.56(±26.61)点,GRCの平均は1.52点(±1.14点),GRCの平均は1.56点(±0.95点)であった。対象者の転帰については,自宅が46人,転院が34人であった。統計学的検討の結果は,GRCおよびGRCthとNIHSS,BIの各項目または合計点との関係性は全項目で相関関係がなかった。また,GRCとGRCthとの差はなかった。理学療法介入時と退院時のNIHSSおよびBIの差は有意差あり(p<0.05)との結果となった。
【考察】
結果の解釈としては,まず対象者の属性から,GRCが聴取でき,NIHSSやBIの評価結果,自宅退院数からすると,対象者が軽症の者に限局されていることが見てとれ,対象者の特性として考慮する必要があった。そして,NIHSSおよびBIは有意な改善が示されているにも関わらず,GRCやGRCthとNIHSSおよびBIで関係性が見られない。以上より,機能的,能力的側面の改善が必ずしも主観的側面に影響を与えないものと解釈された。つまり,他覚的側面とは別に主観的側面が存在するということになる。また,患者とPTの主観的評価に差がないことからすると,PTが患者像を捉えるにあたり,PTの主観的側面も評価の一部として取り入れられる可能性があるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果を受け,脳卒中患者には意思疎通の困難な者も多く存在するため,PTの感覚的指標も他覚的・画一的評価に加えて必要であると考える。これら患者やPTの主観的な評価を含めたエビデンスの構築が理学療法の更なる発展に寄与するものと考える。