第49回日本理学療法学術大会

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人体構造・機能情報学2

2014年5月30日(金) 11:45 〜 12:35 第4会場 (3F 302)

座長:坂本美喜(北里大学医療衛生学部理学療法学専攻)

基礎 口述

[0104] 甘草抽出フラボノイド摂取を併用した運動による内臓脂肪の減少効果

田中雅侑, 金指美帆, 藤野英己 (神戸大学大学院保健学研究科)

キーワード:運動, 栄養サポート, 脂質代謝

【はじめに,目的】
糖尿病など生活習慣病の危険因子である肥満においては内臓脂肪の過剰な蓄積が認められる。その予防・改善法として,運動が骨格筋における脂質代謝を亢進させ,内臓脂肪量を低減させるため有効である。また,近年では脂肪量低減作用や運動との併用摂取によって骨格筋における脂質代謝の亢進作用を有する機能性食品に関して多数の報告が見られる。脂肪を低減させる機能性食品の一つである甘草抽出フラボノイドは肝臓における脂質合成酵素の抑制や脂質分解酵素の促進作用を有することが報告されている。一方,甘草抽出フラボノイドが骨格筋の脂質代謝に与える影響や運動との併用摂取による脂肪量減少効果への影響に関する報告は皆無である。そこで本研究では,甘草抽出フラボノイド摂取が骨格筋の脂質代謝に与える影響及び運動時の甘草抽出フラボノイド摂取が内臓脂肪量に与える効果を併せて検証した。
【方法】
8週齢の雄性SDラットを対照群(Con群),運動介入群(Ex群),甘草抽出フラボノイド摂取群(LFO群),甘草抽出フラボノイド摂取した運動介入群(ExLFO群)の4群に区分した。Ex群とExLFO群にはトレッドミルによる走行運動を週5回の頻度で実施し,運動前後の乳酸値を測定した。また,LFO群とExLFO群には一日当たり1500 mg/kgの甘草抽出フラボノイドを摂取させ,他の2群には同量のオリーブオイルを毎日経口摂取させた。7週間の実験期間終了後,内臓脂肪の一つである精巣上体周囲脂肪,ヒラメ筋,足底筋,および肝臓を摘出し,湿重量を測定した。精巣上体周囲脂肪はパラフィン包埋後に薄切し,ヘマトキシリン・エオジン染色を用いて,脂肪細胞直径を測定した。また,骨格筋の脂質代謝の指標としてヒラメ筋及び足底筋の3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(HAD)活性とクエン酸合成酵素(CS)活性を測定した。さらに肝臓の脂質代謝の指標としてカルニチンパルミトイル転移酵素-2(CPT-2)活性を測定した。得られた結果は対応のないt検定,及び一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。
【結果】
運動後乳酸値はEx群とExLFO群の間に有意な差を認めなかった。精巣上体周囲脂肪重量及び脂肪細胞直径はEx群とLFO群でCon群に比較して有意に低値を示し,さらにExLFO群ではEx群とLFO群に比較して有意に低値を示した。ヒラメ筋及び足底筋のHAD及びCS活性は,運動介入を行った2群で非介入の2群に比較して有意に高値を示した。一方,肝臓のCPT-2活性は甘草抽出フラボノイドを摂取した2群で非摂取の2群に比較して有意に高値を示した。
【考察】
甘草抽出フラボノイドを摂取した運動は,肝臓及び骨格筋の脂質代謝をそれぞれ活性化させ,内臓脂肪重量を最も減少させた。一方で,甘草抽出フラボノイドによる骨格筋の脂質代謝亢進作用は認められなかった。CPT-2活性は脂肪酸のミトコンドリア内への取り込みに関わる律速酵素であり,甘草抽出フラボノイドによる肝臓での脂肪酸の代謝亢進作用は先行研究(Terada, 2004)と一致した。一方,β酸化系及びTCA回路における律速酵素であるHAD及びCS活性は甘草抽出フラボノイド摂取による骨格筋での亢進を認めなかった。骨格筋の代謝向上を目的とした栄養サポートは疾患モデルにおいてのみ効果を認めたと報告もされている(Chen, 2011;Yoshino, 2012)。健常モデルを用いた本研究のプロトコールでは,甘草抽出フラボノイドによる骨格筋の脂質代謝促進作用は認められなかったが,介入するモデルにより得られる効果が異なる可能性が考えられる。一方,本研究では甘草抽出フラボノイド摂取を併用した運動により最も内臓脂肪量の低減効果が得られた。この背景として運動と甘草抽出フラボノイド摂取により骨格筋及び肝臓それぞれの脂質代謝が亢進したことが確認され,運動に栄養サポートを用いることでより効率的に内臓脂肪を減少させることが明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】
運動に栄養サポートとして甘草抽出フラボノイドを摂取することで,より効率的に内臓脂肪量の減少を得られた本研究結果は,肥満の予防・改善を目的とした運動療法に対して栄養サポートの有効性を示し,肥満に対する効果的な理学療法を発展させる可能性があるため意義あるものと考えられる。