第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防2

2014年5月30日(金) 11:45 〜 12:35 第6会場 (3F 304)

座長:鶯春夫(徳島文理大学保健福祉学部理学療法学科)

生活環境支援 口述

[0117] 三軸加速度の解析によるNEATのフィードバックは身体活動量や代謝関連パラメーターに有効か?

宮本俊朗1, 福田一仁2, 大島秀武3, 森谷敏夫4 (1.兵庫医療大学大学院医療科学研究科リハビリテーション科学領域, 2.富山大学医学部第一内科, 3.流通科学大学サービス産業学部サービスマネジメント学科, 4.京都大学大学院人間・環境学研究科)

キーワード:NEAT, 身体活動量, 2型糖尿病

【はじめに,目的】
運動療法は2型糖尿病の予防・治療において,中心的な役割を担っている。運動は身体活動を伴うものであるが,身体活動は計画的・意図的である運動活動と,それ以外の生活活動に大別される。生活活動による消費エネルギーはNon-Exercise Activity Thermogenesis(以下NEAT)と呼ばれ,近年,NEATが運動とは独立して,死亡率や脳血管疾患,糖尿病発症のリスクファクターとなることが明らかとなり,2型糖尿病患者においても食後血糖値と逆相関を示すことも示されている。現代社会では,生活の文明化・都市化に伴い,Door to Doorの生活が多くなっているため,NEATの減少が顕著となっているのは明らかである。しかしながら,NEATはその活動特性上,正確に定量化することが困難であったため,日々のNEATを管理し,どのようにすればNEATが増減するのかは明らかではなかった。そのような中,共同研究者のOshimaらは,三軸加速度計のアルゴリズムを用いて,NEATを定量化することを可能にした。そこで,本研究では,このアルゴリズムを用いた活動量計を用いて,NEATをフィードバックすることにより,2型糖尿病患者のNEATを意図的に増加させることが可能であるか否かを検討し,NEATの変化が糖・脂質代謝に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
2型糖尿病患者38名(男性29名,女性9名,年齢;61.8±8.4歳,身長;164.1±8.4cm,体重;67.2±13.0kg,BMI;24.8±3.6,HbA1c;7.0±0.7%)を対象とした。全ての患者は,初期評価を行った後,コントロール群,NEAT群,歩行運動群の3群にランダムに振り分けた。三軸加速度活動量計を用いて,NEAT群ではNEATを増加させるように,歩行運動群では歩行活動を増加させるように介入した。なお,NEATはHamiltonらの定義に基づき,1.5以上,3METs未満の生活活動とし,歩行活動量は3METs以上の歩行活動とした。アウトカムは体重,BMI,HbA1c,空腹時血糖,総コレステロール,LDLコレステロール,トリグリセリド,HOMA-R,摂取カロリーとし,介入前,介入8,12週間後のデータを比較した。統計学的解析には,ANOVAを用い,Tukey法にて事後検定を行った。なお,全ての値は平均値±標準偏差であらわし,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を実施するにあたり,十分な説明を行った後,書面による同意を得た。なお,本介入研究は京都逓信病院倫理委員会の承認を得た上で(#22-2),臨床試験登録を行って実施した(UMIN000004003)。
【結果】
介入前の群間において,各データに有意な差は認めなかった。介入試験開始後,38名の内,6名が時間の都合または体調不良により介入試験から脱落した。12週後,NEAT群においてNEATと総活動量が有意に増加したが(p<0.05),他の群においては有意な増加は認められなかった。また,全てのアウトカム指標において,全ての群で介入前後の有意差は認められなかった。なお,12週間の介入期間において,全ての患者の内服内容に変更はなかった。
【考察】
今回,三軸加速度活動量計を用いてNEAT量をフィードバックすることによってNEATが増加したものの,アウトカムには有意差は認められなかった。この原因として,介入期間や活動量の増加量が影響している可能性が考えられた。また,NEATは運動活動とは異なった分子・細胞反応が存在する可能性が示唆しており,例え同等の活動量の増加が得られたとしても,運動活動で得られる効果とは異なる可能性も考えられる。今回,対象者は,無作為に抽出したが,介入前の活動量が比較的高かったことがうかがえ,このような対象者の活動度も少なからず影響した可能性が考えられた。NEATが運動と独立して,死亡率,脳血管疾患,糖尿病のリスクファクターとなることが明らかとなり,NEATを増加させることの重要性が高まっている。しかしながら,実際にどのような課題でNEATが増加させることができるのかは明らかとなっていない。今回,活動量計を改良しNEATをフィードバックすることによって,NEATを意図的に増加させることができたことは今後の糖尿病ケアにおいて非常に意義深いものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回,活動量計を用いた2型糖尿病患者に対するNEATの臨床介入試験を実施したが,NEATにおけるRCTは初めての試みである。糖尿病患者において推奨される中等強度の運動は,高齢者や合併症を伴った患者では容易ではない。このような糖尿病患者において,低強度活動であるNEATで効果が得られれば,その恩恵に授かる患者は多く,今後の糖尿病予防・治療という観点においても社会的意義が大きいものと考えられる。