[0263] 入院高齢者における歩行能力・バランス能力と足趾機能との関係(第2報)
キーワード:高齢者, 歩行速度, 足趾
【はじめに】
高齢者の足部機能に関しては,加齢により低下しバランス機能低下や転倒と密接にかかわる要因であることが報告されている。我々はすでに入院高齢者においても足趾機能が歩行・バランス能力に関連していることを報告した(第32回関東甲信越ブロック理学療法士学会)。臨床場面においては歩行能力などを中心とし,運動能力にあわせた,機能練習が必要である。しかし,過去に足趾機能と歩行・バランス能力の関係を,歩行速度の違いに分けて検討した報告は見当たらない。そこで今回は歩行能力・バランス能力と足趾機能との関連性を,入院高齢者を対象として歩行速度の違いに分けて,検討することを目的とする。
【方法】
対象は当院入院中の理学療法施行中の患者で,著しい認知機能の低下がなく,運動能力に著しく影響を及ぼす中枢系・運動器疾患の現病・既往を有さず,歩行補助具を用いず50m以上独力で歩行可能な患者110名(平均年齢73.6歳±10.1歳 男性60名 女性50名)を対象とした。疾患の内訳は心大血管疾患39例・呼吸器疾患15例・消化器疾患26例・悪性新生腫瘍疾患10例・腎臓疾患2例・その他18例である。測定項目は歩行・バランス能力の指標として10m最大歩行速度(以下10MWS:sec),Timed Up and GO Test(以下TUGT:sec),Functional reach test(以下FRT:cm),開眼片脚立位保持時間(以下OLS:sec)を計測した。下肢粗大筋力の指標として,徒手筋力計を用いて等尺性膝伸展筋力を計測し,その最大値を体重で除した値をQ-Force(kgf/kg)とした。足趾機能の指標を,座位にて,自作の計測用の台に裸足で足部を位置させ母趾と第2-4趾を分けて徒手筋力計のパッドを5秒間最大圧迫させ,母趾と第2-4趾での圧迫力の和を体重で除した値を足趾圧迫力(以下F-Force:kgf/kg)とした。解析は10MWSの全対象の平均値(10MWS:8.5)を基準とし,平均値より速度が速い群をFast群(年齢70.6±9.5歳 男性43名 女性32名),遅い群をSlow群(年齢78.0±11.0歳 男性17名 女性28名)の2群に分け実施した。2群間での年齢および各計測項目の比較には対応のないt検定を用いた。各群内での歩行・バランス能力の指標とF-Force・Q-Forceの関連性をそれぞれピアソンの相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮】
本研究は湘南鎌倉総合病院倫理委員会の承認を得ており,対象者には本研究の内容・趣旨を十分に説明し,口頭と書面にて同意を得た。
【結果】
各群の計測項目の平均値は以下の通りである(Fast群:Slow群)。10MWS・6.7±1.1:11.1±2.2,TUGT・7.7±1.5:12.6±2.8,FRT・35.4±5.4:27.0±4.4,OLS・34.8±32.6:7.8±14.2,Q-Force・0.33±0.11:0.23±0.07,F-Force・0.21±0.09:0.13±0.05であった。Fast群はSlow群に比べ,有意に年齢・FRT・OLS・Q-Force・F-Forceが高く,10MWS・TUGTが速かった。Fast群においては,F-Forceはそれぞれ有意に10MWS(r=-0.47)・TUGT(r=-0.34)と負の,FRT(r=0.31)・OLS(r=0.29)と正の中等度の相関関係がみられた。Q-Forceもそれぞれ有意に10MWS(r=-0.45)・TUGT(r=-0.41)と負の,FRT(r=0.36)・OLS(r=0.41)と正の中等度の相関関係がみられた。Slow群においては,F-Force,Q-Forceともに歩行・バランス能力の各指標と有意な相関関係はみられなかった。
【考察】
先行研究で報告されている多くの対象の平均歩行速度は10MWSに換算すると6.0sec前後であり,本研究のFast群とほぼ同等と予想される。これらから,地域高齢者に比べ活動量や行動範囲が劣る入院高齢者においても,歩行速度が保たれている対象では,足趾機能の向上が歩行・バランス能力を向上させる要因となる可能性が示唆された。一方,Slow群においては,先行研究にて多く報告されている,足趾機能や等尺性膝伸展筋力と歩行・バランス能力との関係がみられなかった。Slow群はFast群に比べ,各計測結果より全般的な運動能力の低下が予想される。大森らの報告では運動器疾患を有さない高齢患者の等尺性膝伸展筋力値が0.2kgf/kgを下回ると歩行速度の計測が困難であったと報告している。Slow群においては,歩行が成立する筋力閾値と同等,もしくは下回る症例も含まれており,下肢筋力と歩行速度・バランス能力が直線的な相関関係が得られなかったことが予想され,足趾圧迫力との関係に関しても同様な現象がおこっていることが予想される。以上よりSlow群においては,各症例において,筋力低下以外の諸機能の問題点が複雑に関係している可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
近年,急性期病院における平均在院日数の短縮化がなされるなかで,対象者の運動能力にあわせた身体機能の特徴を明らかにすることにより,より効果的かつ効率のよい理学療法介入につながること考えられる。
高齢者の足部機能に関しては,加齢により低下しバランス機能低下や転倒と密接にかかわる要因であることが報告されている。我々はすでに入院高齢者においても足趾機能が歩行・バランス能力に関連していることを報告した(第32回関東甲信越ブロック理学療法士学会)。臨床場面においては歩行能力などを中心とし,運動能力にあわせた,機能練習が必要である。しかし,過去に足趾機能と歩行・バランス能力の関係を,歩行速度の違いに分けて検討した報告は見当たらない。そこで今回は歩行能力・バランス能力と足趾機能との関連性を,入院高齢者を対象として歩行速度の違いに分けて,検討することを目的とする。
【方法】
対象は当院入院中の理学療法施行中の患者で,著しい認知機能の低下がなく,運動能力に著しく影響を及ぼす中枢系・運動器疾患の現病・既往を有さず,歩行補助具を用いず50m以上独力で歩行可能な患者110名(平均年齢73.6歳±10.1歳 男性60名 女性50名)を対象とした。疾患の内訳は心大血管疾患39例・呼吸器疾患15例・消化器疾患26例・悪性新生腫瘍疾患10例・腎臓疾患2例・その他18例である。測定項目は歩行・バランス能力の指標として10m最大歩行速度(以下10MWS:sec),Timed Up and GO Test(以下TUGT:sec),Functional reach test(以下FRT:cm),開眼片脚立位保持時間(以下OLS:sec)を計測した。下肢粗大筋力の指標として,徒手筋力計を用いて等尺性膝伸展筋力を計測し,その最大値を体重で除した値をQ-Force(kgf/kg)とした。足趾機能の指標を,座位にて,自作の計測用の台に裸足で足部を位置させ母趾と第2-4趾を分けて徒手筋力計のパッドを5秒間最大圧迫させ,母趾と第2-4趾での圧迫力の和を体重で除した値を足趾圧迫力(以下F-Force:kgf/kg)とした。解析は10MWSの全対象の平均値(10MWS:8.5)を基準とし,平均値より速度が速い群をFast群(年齢70.6±9.5歳 男性43名 女性32名),遅い群をSlow群(年齢78.0±11.0歳 男性17名 女性28名)の2群に分け実施した。2群間での年齢および各計測項目の比較には対応のないt検定を用いた。各群内での歩行・バランス能力の指標とF-Force・Q-Forceの関連性をそれぞれピアソンの相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮】
本研究は湘南鎌倉総合病院倫理委員会の承認を得ており,対象者には本研究の内容・趣旨を十分に説明し,口頭と書面にて同意を得た。
【結果】
各群の計測項目の平均値は以下の通りである(Fast群:Slow群)。10MWS・6.7±1.1:11.1±2.2,TUGT・7.7±1.5:12.6±2.8,FRT・35.4±5.4:27.0±4.4,OLS・34.8±32.6:7.8±14.2,Q-Force・0.33±0.11:0.23±0.07,F-Force・0.21±0.09:0.13±0.05であった。Fast群はSlow群に比べ,有意に年齢・FRT・OLS・Q-Force・F-Forceが高く,10MWS・TUGTが速かった。Fast群においては,F-Forceはそれぞれ有意に10MWS(r=-0.47)・TUGT(r=-0.34)と負の,FRT(r=0.31)・OLS(r=0.29)と正の中等度の相関関係がみられた。Q-Forceもそれぞれ有意に10MWS(r=-0.45)・TUGT(r=-0.41)と負の,FRT(r=0.36)・OLS(r=0.41)と正の中等度の相関関係がみられた。Slow群においては,F-Force,Q-Forceともに歩行・バランス能力の各指標と有意な相関関係はみられなかった。
【考察】
先行研究で報告されている多くの対象の平均歩行速度は10MWSに換算すると6.0sec前後であり,本研究のFast群とほぼ同等と予想される。これらから,地域高齢者に比べ活動量や行動範囲が劣る入院高齢者においても,歩行速度が保たれている対象では,足趾機能の向上が歩行・バランス能力を向上させる要因となる可能性が示唆された。一方,Slow群においては,先行研究にて多く報告されている,足趾機能や等尺性膝伸展筋力と歩行・バランス能力との関係がみられなかった。Slow群はFast群に比べ,各計測結果より全般的な運動能力の低下が予想される。大森らの報告では運動器疾患を有さない高齢患者の等尺性膝伸展筋力値が0.2kgf/kgを下回ると歩行速度の計測が困難であったと報告している。Slow群においては,歩行が成立する筋力閾値と同等,もしくは下回る症例も含まれており,下肢筋力と歩行速度・バランス能力が直線的な相関関係が得られなかったことが予想され,足趾圧迫力との関係に関しても同様な現象がおこっていることが予想される。以上よりSlow群においては,各症例において,筋力低下以外の諸機能の問題点が複雑に関係している可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
近年,急性期病院における平均在院日数の短縮化がなされるなかで,対象者の運動能力にあわせた身体機能の特徴を明らかにすることにより,より効果的かつ効率のよい理学療法介入につながること考えられる。