第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習4

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 第3会場 (3F 301)

座長:大橋ゆかり(茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 口述

[0293] 高齢者における聴覚・視覚フィードバックが運動学習の習熟ならびにフィードバック除去による運動制御に及ぼす特徴

東口大樹, 高橋秀平, 加古誠人, 上村一貴, 内山靖 (名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻)

キーワード:感覚情報, 運動学習, 加齢

【はじめに,目的】
理学療法の臨床現場では運動学習において視覚によるフィードバック(以下FB)がよく利用されその効果も明らかとなっているが,高齢者では鏡やモニタなどの使用により運動の学習が複雑になる場合がある。一方,聴覚FBは簡易に与えることが可能で臨床現場への応用性が高いが,聴覚FBが及ぼす影響についての報告は限定的である。高齢者に対する視覚および聴覚FBの影響は若年者と異なると考えられるがその詳細は少ない。そのため,私達は若年者を対象に,聴覚FB,視覚FBの運動学習課題において,それぞれのFBを取り除いた直後に視覚FBでは習熟が保たれなかったのに対し,聴覚FBでは習熟が保たれたことを報告した。本研究では,高齢者における聴覚FBが運動学習の習熟に及ぼす影響を若年者と比較し,効果的な運動学習方法を考案するための基礎データを得ることを目的とする。
【方法】
対象者は健常高齢者16名(72.8±5.4歳)として,健常若年者16名(21.8±2.4歳)を対象とした。与える感覚モダリティによって,1)高齢者聴覚群,2)高齢者視覚群,3)若年者視覚群,4)若年者聴覚群に分類し,男女によるブロック層別化の上で,無作為に群分けした。対象者は,重心動揺計(アニマ社製ツイングラビコーダG-6100)上でRomberg肢位となり,運動課題として,足圧中心点(COP)のマーカで,一定速度で動く視標を追従するBody Tracking Test(BTT)を1試行あたり30秒間行った。重心動揺計の取り込み時間は50ミリ秒とした。評価指標は,指標とCOPの位置座標との誤差の平均値(以下,誤差)とした。PC画面上に表示される視標を視覚FBとし,一定の間隔で音階が上下するリズム音を聴覚FBとした。学習の習熟過程に感覚モダリティおよびFBの除去が与える影響を検討するため,同一日内に5試行を1セットとし初期テストを1セット,学習課題を7セット行った。6セット目より各FBを除去した。学習の保持に感覚モダリティおよびFBの除去が与える影響を検討するために,1週間後に,FB除去課題,FB課題,FB除去課題の順で各1セットずつ行った。統計処理は分散分析および事後検定を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属施設生命倫理審査委員会の承認を得た上で行った。被験者には,個別に研究内容の説明を行い文書により同意を得た。
【結果】
高齢者聴覚FB群が高齢者視覚FB群に比べ,5セット目でのみ有意に大きかった{5セット目;高齢者聴覚FB群2.32±0.63(cm),高齢者視覚FB群1.59±0.46(cm)}。しかし,FBを除去した場合,高齢者聴覚FB群と高齢者視覚FBの誤差の間に有意差はなかった{7セット目;高齢者聴覚FB群3.55±0.52(cm),高齢者視覚FB群3.57±0.71(cm)}。
若年者では,聴覚FB群が視覚FB群に比べ,3から5セット目で有意に大きかった{3セット目;若年者聴覚FB群1.34±0.38(cm),若年者視覚FB群0.87±0.14(cm)}{5セット目;若年者聴覚FB群1.25±0.30(cm),若年者視覚FB群0.84±0.11(cm)}。加えて,FBを除去した場合の誤差は,7セット目で聴覚FB群では視覚FBに比べ有意に小さかった{7セット目;若年者聴覚FB群2.57±0.64(cm),若年者視覚FB群3.70±0.77(cm)}。
【考察】
高齢者では若年者と比較して聴覚および視覚FBでの学習課題における誤差が大きく習熟の速度が小さかった。高齢者では,若年者に比べて聴覚,視覚情報を効率的に用いて運動することが難しいのではないかと考えられる。
一方で,高齢者では若年者と異なり,聴覚FBを除去した場合,誤差が大きく習熟効果が保たれなかった。健常若年者では,聴覚FB,視覚FBを与えた際の上肢運動学習において,それぞれのFBを除去したときに視覚FBはその後の学習効果が保持されなかったのに対し,聴覚FBでは学習効果が保持されたと報告されている。これより,高齢者では1)聴覚FBでの学習課題の習熟が不十分であった,2)FBを除去した場合には聴覚・視覚FBによらず運動の制御が上手くいかない3)若年者とは異なった聴覚情報の処理により運動学習を行っている等の可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者では,聴覚および視覚FBを用いてバランス練習を行う際に,若年者とは異なった方法で行う必要性が示唆される基礎データが得られた。今後は縦断的な介入研究ならびに脳機能の検討等を行い高齢者や有疾患者に適したFB方法が明らかにすることで効果的な理学療法への発展が期待できる。