第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習4

Fri. May 30, 2014 2:25 PM - 3:15 PM 第3会場 (3F 301)

座長:大橋ゆかり(茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 口述

[0294] 身体に対する注意と経頭蓋直流電気刺激法の組み合わせは手指の運動成績を向上させる

守屋耕平1, 山口智史2, 田辺茂雄3, 近藤国嗣1, 大高洋平1,4, 田中悟志5 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.慶應義塾大学大学院医学研究科, 3.藤田保健衛生大学医療科学部, 4.慶應義塾大学医学部, 5.浜松医科大学医学部)

Keywords:注意, 運動学習, 経頭蓋直流電気刺激

【はじめに】
経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)は,頭蓋上に貼付した電極から微弱な直流電流を与えることで,簡便かつ非侵襲に大脳皮質興奮性を促進する手法であり,理学療法への応用が期待されている(Nitche and Paulus, 2000)。我々は,第48回日本理学療法学術大会においてtDCSと身体に注意を向ける課題を組み合わせて実施することにより,運動皮質の可塑的変化を効率よく誘導できることを報告した。運動皮質可塑性は運動遂行や運動学習の基盤となる生理指標である。したがってtDCSと身体に注意を向ける課題の組み合わせは,運動皮質可塑性の変化のみならず,実際の運動成績に影響を与える可能性がある。本研究では,その可能性について健常者を対象とした実験により明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常成人24名(平均年齢24.8±2.4歳,うち女性12名)を対象とした。実験デザインは非盲検,群間比較デザインであり,各群には平均年齢,性別に有意差がでないように被験者を割り当てた。全ての被験者には,介入として右半球運動皮質にtDCSを行っている最中に左手への感覚刺激が与えられた。介入条件の違いが運動成績に与える影響について検討するために,被験者を以下の3群に分けた。(1)運動皮質への陽極直流刺激を行っている最中に,被験者は手に対し注意を向け感覚刺激の検出課題を行った(陽極刺激と注意課題の併用群)。(2)偽刺激を行っている最中に,被験者は手に対し注意を向け感覚刺激の検出課題を行った(注意課題単独群)。(3)陽極直流刺激を行っている最中に,被験者は手に対する注意は向けずに安静を保ち検出課題は行わなかった(陽極刺激単独群)。直流刺激の刺激強度はすべての条件で2mAとした。刺激時間を陽極刺激は10分間,偽刺激は最初の15秒間とした。刺激部位は,陽極電極を右半球上肢一次運動野,陰極電極を同側の上腕部とした。左手への感覚刺激には電気刺激を用いた。母指内転筋に対し,パルス幅1msの単相矩形波を単発刺激し,感覚閾値の1.1倍の強度で平均30秒に1回の頻度で提示した。tDCSの介入前後に全ての被験者は母指運動課題を実施した(Muellbacher et al., 2002)。座位にて,左手を台上に前腕回内外中間位にて固定し小型加速度計を左母指掌側に貼付した。被験者にはビープ音を合図に出来るだけ速く母指の掌側内転運動を行うよう教示した。試行ごとに成績を視覚的にフィードバックした。介入前にベースラインとして60試行実施し,介入直後に300試行実施した。フォローアップとして,介入翌日,1週間後,1か月後にそれぞれ300試行実施した。評価は母指運動課題中の内転運動の最大加速度を用いた。統計解析は,時間(介入前,介入直後,介入翌日,1週間後,1か月後)を対応のある要因,介入(陽極刺激単独,注意課題単独,併用)を対応のない要因として,最大加速度を従属変数とした二元配置分散分析を行った。注意とtDCSの併用条件がそれぞれの単独条件よりも運動成績を向上させるという仮説(守屋ら,2013)に基づき,多重比較による下位検定ではダネット検定を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理審査会の承認後,ヘルシンキ宣言に基づき,全対象者に研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
分散分析の結果,介入の主効果は有意でなかった(p=.08)。一方,時間の主効果(p<.001)および時間と介入の交互作用(p<.01)は有意であった。この交互作用は,介入の効果が時間ごとに異なることを示唆している。よって時間の水準ごとに下位検定を行った。その結果,介入前および介入直後では群間で運動成績に有意な差を認めなかった。しかしながら,介入翌日から1週間後において,陽極刺激と注意課題の併用群は,陽極刺激単独群に比べて有意に運動成績が優れていた(p<.05)。また介入1週間後において併用群は注意単独群に比べて有意に運動成績が優れていた(p<.05)。介入から1か月後は群間で有意な差は認めなかった。
【考察】
運動皮質への陽極刺激と手指への注意の組み合わせは,介入の翌日および1週間後の運動成績を有意に高めることが明らかになった。介入直後には有意な向上を認めなかったことから,tDCSと注意の組み合わせは学習した運動技能の定着に対して促進効果を持つ可能性がある。今後は脳卒中患者を対象として,tDCSと身体への注意の組み合わせが,リハビリテーション効果を促進できるかを検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
運動皮質への陽極刺激と身体への注意の組み合わせは,大脳皮質可塑性のみならず実際の運動成績を向上させることを初めて示した。今後,中枢神経疾患および脳卒中に対する理学療法に応用するための基礎的研究として意義があると考えられる。