[0295] 一過性の運動負荷が適応的運動学習に与える影響
Keywords:運動学習, 運動負荷, 事象関連電位
【はじめに,目的】
パフォーマンスと覚醒度の関係は逆U字曲線を描くことがYerkes & Dodsonによって提唱されており,パフォーマンスが最も良くなるとされる覚醒度として至適覚醒水準が存在するといわれている(Walter,1964)。客観的な覚醒水準の変化を捉える方法として,随伴陰性電位(Contingent Negative Variation:CNV)が用いられており,覚醒水準の変化に対して逆U字型の反応特性を示すとされている。また,この覚醒水準の変化は一過性の運動負荷によっても誘発されると報告されており,運動強度の変化に伴い逆U字曲線を描くとされている(紙上,2008)。また,中強度の運動後にはStroop課題などの認知課題の成績の向上が認められることが報告されている(Lee,2007)。一方で,外界ターゲットへの上肢到達動作などの適応的運動学習には運動出力とその結果から得られる感覚フィードバックによる誤差学習の重要性が明らかになっており,知覚・認知処理が関与すると考えられている。しかし,一過性の運動負荷が適応的運動学習に与える影響は明らかになっていない。そこで本研究では,一過性の運動負荷を行った際の運動強度の違いが適応的運動学習に与える影響をCNVの変化と併せて検証した。
【方法】
対象は健常若年者18名(21.7±0.6歳)とし,中強度運動群・高強度運動群およびコントロール群の各群6名に無作為に振り分けた。運動負荷にはエルゴメーター(STB-2400,日本光電)を使用した。負荷量はKarvonen法により,中強度運動群を強度0.5,高強度運動群を強度0.8とし,目標心拍数到達後より20分間の運動負荷を行った。またコントロール群は20分間の安静座位とした。運動前後に日本語版POMSTM短縮版(以下POMS)を用い,疲労の評価を行った。またCNV測定課題にはGo-Nogo課題を実施し,音刺激後に緑色または赤色の丸を視覚刺激としてパソコン画面上に出現させ,緑色が出たときのみキー入力を行うよう指示した。この際の音刺激後500ms~1000ms間の脳波を加算平均し,CNVを算出した。学習課題には,パソコン画面上を不規則に移動するターゲットを非利き手のマウス操作にて追いかけるトラッキング課題を実施した。これを運動前にPre課題として5試行,運動後にTraining課題として10試行×5ブロック,また翌日にRetest課題として10試行×2ブロック実施した。統計解析はPOMS得点においてWilcoxon符号順位和検定を,CNVではCz,Fz領域の脳波を用い,一元配置分散分析後に多重比較検定(Tukey-Kramer法)を行った。トラッキング課題ではPre課題を基準としたTraining課題,Training課題を基準としたRetest課題の学習率をそれぞれ算出し,二元配置分散分析後に多重比較検定(Tukey-Kramer法)を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学研究倫理委員会の許可を得た上で実施した。全対象者に実施前に本研究の趣旨と目的を十分説明し,自署による同意を得た。
【結果】
運動前後のPOMS得点では,高強度運動群のみ有意な増大がみられた(P<0.01)。CNVでは,他群と比較し中強度運動群にて有意な増大がみられた(P<0.05)。学習課題では,Training課題において高強度運動群のみ有意な学習を認めなかった。一方で,Retest課題ではすべての群で有意な学習を認めた。また,各群間で有意な違いはみられなかった。
【考察】
CNVでは中強度運動群が最も高い値を示しており,覚醒水準は中強度運動群にて最も高いと考えられる。しかし学習課題では,Training課題においてコントロール群・中強度運動群ともに有意な学習がみられており,また各群間での学習量に有意な違いはみられなかった。運動による覚醒度の上昇は,脳内のドーパミンやセロトニンなどの増大による大脳基底核ニューロンの活性化によるとされている(Suto,1996)。一方で,適応的運動学習は小脳における内部モデルの形成とされており,大脳-小脳系での誤差修正課題であるとされている。よって活性化する脳部位が異なるため,覚醒度の変化が適応的運動学習に与える影響は少なかったのではないかと考えられる。また高強度運動群のみTraining課題において学習がみられていなかったのは,POMS得点にて運動後の疲労が高強度運動群のみ有意に増大したことより,疲労によるパフォーマンスの低下であると推測される。一方で,Retest課題の結果では有意差はみられていないため,疲労は適応的運動学習を阻害しないことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,一過性の中強度運動は覚醒度を向上させるための最も有効な強度であることは示唆されたが,適応的運動学習には特異的な効果は示さなかった。一過性の運動負荷は,理学療法によって学習させたい動作様式などを配慮して適応させていく必要性が示唆された。
パフォーマンスと覚醒度の関係は逆U字曲線を描くことがYerkes & Dodsonによって提唱されており,パフォーマンスが最も良くなるとされる覚醒度として至適覚醒水準が存在するといわれている(Walter,1964)。客観的な覚醒水準の変化を捉える方法として,随伴陰性電位(Contingent Negative Variation:CNV)が用いられており,覚醒水準の変化に対して逆U字型の反応特性を示すとされている。また,この覚醒水準の変化は一過性の運動負荷によっても誘発されると報告されており,運動強度の変化に伴い逆U字曲線を描くとされている(紙上,2008)。また,中強度の運動後にはStroop課題などの認知課題の成績の向上が認められることが報告されている(Lee,2007)。一方で,外界ターゲットへの上肢到達動作などの適応的運動学習には運動出力とその結果から得られる感覚フィードバックによる誤差学習の重要性が明らかになっており,知覚・認知処理が関与すると考えられている。しかし,一過性の運動負荷が適応的運動学習に与える影響は明らかになっていない。そこで本研究では,一過性の運動負荷を行った際の運動強度の違いが適応的運動学習に与える影響をCNVの変化と併せて検証した。
【方法】
対象は健常若年者18名(21.7±0.6歳)とし,中強度運動群・高強度運動群およびコントロール群の各群6名に無作為に振り分けた。運動負荷にはエルゴメーター(STB-2400,日本光電)を使用した。負荷量はKarvonen法により,中強度運動群を強度0.5,高強度運動群を強度0.8とし,目標心拍数到達後より20分間の運動負荷を行った。またコントロール群は20分間の安静座位とした。運動前後に日本語版POMSTM短縮版(以下POMS)を用い,疲労の評価を行った。またCNV測定課題にはGo-Nogo課題を実施し,音刺激後に緑色または赤色の丸を視覚刺激としてパソコン画面上に出現させ,緑色が出たときのみキー入力を行うよう指示した。この際の音刺激後500ms~1000ms間の脳波を加算平均し,CNVを算出した。学習課題には,パソコン画面上を不規則に移動するターゲットを非利き手のマウス操作にて追いかけるトラッキング課題を実施した。これを運動前にPre課題として5試行,運動後にTraining課題として10試行×5ブロック,また翌日にRetest課題として10試行×2ブロック実施した。統計解析はPOMS得点においてWilcoxon符号順位和検定を,CNVではCz,Fz領域の脳波を用い,一元配置分散分析後に多重比較検定(Tukey-Kramer法)を行った。トラッキング課題ではPre課題を基準としたTraining課題,Training課題を基準としたRetest課題の学習率をそれぞれ算出し,二元配置分散分析後に多重比較検定(Tukey-Kramer法)を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学研究倫理委員会の許可を得た上で実施した。全対象者に実施前に本研究の趣旨と目的を十分説明し,自署による同意を得た。
【結果】
運動前後のPOMS得点では,高強度運動群のみ有意な増大がみられた(P<0.01)。CNVでは,他群と比較し中強度運動群にて有意な増大がみられた(P<0.05)。学習課題では,Training課題において高強度運動群のみ有意な学習を認めなかった。一方で,Retest課題ではすべての群で有意な学習を認めた。また,各群間で有意な違いはみられなかった。
【考察】
CNVでは中強度運動群が最も高い値を示しており,覚醒水準は中強度運動群にて最も高いと考えられる。しかし学習課題では,Training課題においてコントロール群・中強度運動群ともに有意な学習がみられており,また各群間での学習量に有意な違いはみられなかった。運動による覚醒度の上昇は,脳内のドーパミンやセロトニンなどの増大による大脳基底核ニューロンの活性化によるとされている(Suto,1996)。一方で,適応的運動学習は小脳における内部モデルの形成とされており,大脳-小脳系での誤差修正課題であるとされている。よって活性化する脳部位が異なるため,覚醒度の変化が適応的運動学習に与える影響は少なかったのではないかと考えられる。また高強度運動群のみTraining課題において学習がみられていなかったのは,POMS得点にて運動後の疲労が高強度運動群のみ有意に増大したことより,疲労によるパフォーマンスの低下であると推測される。一方で,Retest課題の結果では有意差はみられていないため,疲労は適応的運動学習を阻害しないことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,一過性の中強度運動は覚醒度を向上させるための最も有効な強度であることは示唆されたが,適応的運動学習には特異的な効果は示さなかった。一過性の運動負荷は,理学療法によって学習させたい動作様式などを配慮して適応させていく必要性が示唆された。