[0595] 人工股関節全置換術後の機能的脚長差に対する運動療法または補高装具の効果
キーワード:人工股関節全置換術, 脚長差, 介入研究
【はじめに,目的】人工股関節全置換術(以下,THA)後の機能的脚長差(leg length discrepancy:以下,LLD)は,主観的LLDの訴えや歩行速度低下に関連することが報告されている(Nakanowatari, 2013)。THA後の機能的LLDは術側股関節外転拘縮や腰椎側方可動性の低下によって引き起こされ,理学療法によって治療的対処が可能である。近年,THA後LLDに対する介入を行った先行研究として,等尺性収縮後の筋伸張法等の運動療法にて主観的LLDが改善したこと(Sobiech, 2010)や,機能的LLDに対して術後早期から段階的に調整できる補高装具を用いたこと(西島,2012)が報告されている。しかし,対照群との比較を行い,科学的に検証した報告はなく,2つの介入方法の科学的根拠は明確に示されていない。そこで本研究は,THA後患者の機能的LLDに対する運動療法または補高装具の無作為化比較試験を行い,2つの介入方法が,機能的LLD,主観的LLDに及ぼす効果を明らかとすることを目的とした。
【方法】対象は,2013年2月から同年7月の間に,仙台市内の一般病院にて片側初回THAを施行し,術後1週の時点で術肢が長下肢側の機能的LLDおよび主観的LLDを有している患者とした。研究デザインは,アウトカム評価者を盲検化した無作為化比較試験とし,次の3群に無作為に割付けた:①通常診療に加え,機能的LLDの原因への特異的運動療法として股関節屈筋・外転筋群に対する等尺性収縮後の筋伸長法と,腰椎側弯に対する体幹側方移動運動と骨盤側方挙上運動を併用するspecific exercise approach群(以下,SEA群);②通常診療に加え,1枚5mm単位で高さを増減できるインソール型補高を併用するmodifiable heel lift群(以下,MHL群);③通常のリハビリテーション治療を行う対照群。いずれも術後1週でベースライン時評価を行い,各介入を2週間継続し,退院時の術後3週で介入後評価を行った。
評価指標は患者の均等感を基準としたblock testにより機能的LLDを計測し,自記式質問紙にて主観的LLD有無と5段階尺度を用いた主観的LLD程度を記述させた。両指標の妥当性を確認するためにメジャーにて転子果長,棘果長,臍果長,X線学的に大腿骨小転子から涙痕間線までの垂線の距離を計測し,術側値から対側値を減じた左右差を求めた。統計学的解析として,機能的LLDは一元配置分散分析後に多重比較検定(Dunnett法)にてSEA群またはMHL群と対照群を比較し,主観的LLDはχ2検定を用い3群間を比較した。機能的LLDと主観的LLDの計測値の妥当性は,他のLLD指標との間のSpearmanの順位相関係数を用い検討した。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】研究実施に先立ち,研究プロトコルは東北大学病院臨床研究倫理委員会の承認を得た。ヘルシンキ宣言を遵守し,事前に全対象者へ研究内容や個人情報の取扱に関する説明を文書と口頭にて十分に行い,署名にて同意を得た。
【結果】基準を満たし,データ欠損のないSEA群10名,MHL群8名,対照群9名(全27名:年齢63.1±7.0歳,機能的LLD9.8±4.6mm)を解析対象とした。3群間の患者特性およびベースライン時の機能的・主観的LLDに有意差はなかった。介入後の機能的LLDは,SEA群3.3±3.1mm,MHL群2.2±2.1mmで対照群6.4±4.0mmに比べ共に有意に小さい値を示した(p<0.05)。介入後の主観的LLD有無の比率では3群間に有意差はなかったが,主観的LLD程度の比率は3群間で有意差を認め(p<0.05),主観的LLDが軽度の比率が対照群22.2%に対し,SEA群70.0%,MHL群75.0%であった。妥当性の検証では,block test計測値と主観的LLD程度共に機能的LLD指標である臍果長差との間にのみ,中等度の正の相関を認めた(p<0.05)。
【考察】SEAによって大腿筋膜張筋や体幹伸筋群の伸張性が選択的に増し,機能的LLDを改善したと考えられる。またMHLにおいては,MHL挿入に伴う長下肢側の術肢の股関節屈曲位の補正によって,股関節屈筋群の伸張位保持時間を増え同筋群の伸張性が改善し,機能的LLDの改善をもたらしたと考えられる。主観的LLD程度は機能的LLDと相関していることから,機能的LLDの改善に伴い患者の知覚する主観的LLDも軽減したものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究で得られた知見は,THA後機能的LLDに対する運動療法と補高装具の効果について科学的根拠を提供でき,広く臨床導入できる可能性がある。また,対症療法的に用いられることが多い補高装具を,理学療法士が段階的に調整し用いることで治療的側面を見出した重要な知見となると考えられる。
【方法】対象は,2013年2月から同年7月の間に,仙台市内の一般病院にて片側初回THAを施行し,術後1週の時点で術肢が長下肢側の機能的LLDおよび主観的LLDを有している患者とした。研究デザインは,アウトカム評価者を盲検化した無作為化比較試験とし,次の3群に無作為に割付けた:①通常診療に加え,機能的LLDの原因への特異的運動療法として股関節屈筋・外転筋群に対する等尺性収縮後の筋伸長法と,腰椎側弯に対する体幹側方移動運動と骨盤側方挙上運動を併用するspecific exercise approach群(以下,SEA群);②通常診療に加え,1枚5mm単位で高さを増減できるインソール型補高を併用するmodifiable heel lift群(以下,MHL群);③通常のリハビリテーション治療を行う対照群。いずれも術後1週でベースライン時評価を行い,各介入を2週間継続し,退院時の術後3週で介入後評価を行った。
評価指標は患者の均等感を基準としたblock testにより機能的LLDを計測し,自記式質問紙にて主観的LLD有無と5段階尺度を用いた主観的LLD程度を記述させた。両指標の妥当性を確認するためにメジャーにて転子果長,棘果長,臍果長,X線学的に大腿骨小転子から涙痕間線までの垂線の距離を計測し,術側値から対側値を減じた左右差を求めた。統計学的解析として,機能的LLDは一元配置分散分析後に多重比較検定(Dunnett法)にてSEA群またはMHL群と対照群を比較し,主観的LLDはχ2検定を用い3群間を比較した。機能的LLDと主観的LLDの計測値の妥当性は,他のLLD指標との間のSpearmanの順位相関係数を用い検討した。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】研究実施に先立ち,研究プロトコルは東北大学病院臨床研究倫理委員会の承認を得た。ヘルシンキ宣言を遵守し,事前に全対象者へ研究内容や個人情報の取扱に関する説明を文書と口頭にて十分に行い,署名にて同意を得た。
【結果】基準を満たし,データ欠損のないSEA群10名,MHL群8名,対照群9名(全27名:年齢63.1±7.0歳,機能的LLD9.8±4.6mm)を解析対象とした。3群間の患者特性およびベースライン時の機能的・主観的LLDに有意差はなかった。介入後の機能的LLDは,SEA群3.3±3.1mm,MHL群2.2±2.1mmで対照群6.4±4.0mmに比べ共に有意に小さい値を示した(p<0.05)。介入後の主観的LLD有無の比率では3群間に有意差はなかったが,主観的LLD程度の比率は3群間で有意差を認め(p<0.05),主観的LLDが軽度の比率が対照群22.2%に対し,SEA群70.0%,MHL群75.0%であった。妥当性の検証では,block test計測値と主観的LLD程度共に機能的LLD指標である臍果長差との間にのみ,中等度の正の相関を認めた(p<0.05)。
【考察】SEAによって大腿筋膜張筋や体幹伸筋群の伸張性が選択的に増し,機能的LLDを改善したと考えられる。またMHLにおいては,MHL挿入に伴う長下肢側の術肢の股関節屈曲位の補正によって,股関節屈筋群の伸張位保持時間を増え同筋群の伸張性が改善し,機能的LLDの改善をもたらしたと考えられる。主観的LLD程度は機能的LLDと相関していることから,機能的LLDの改善に伴い患者の知覚する主観的LLDも軽減したものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究で得られた知見は,THA後機能的LLDに対する運動療法と補高装具の効果について科学的根拠を提供でき,広く臨床導入できる可能性がある。また,対症療法的に用いられることが多い補高装具を,理学療法士が段階的に調整し用いることで治療的側面を見出した重要な知見となると考えられる。