第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

その他1

2014年5月31日(土) 10:25 〜 11:15 ポスター会場 (神経)

座長:柴喜崇(北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻基礎理学療法学)

神経 ポスター

[0809] 前屈姿勢異常を呈するパーキンソン病患者におけるKinectを利用した在宅における姿勢評価,姿勢フィードバックトレーニングの試み

岡田洋平1,2, 柴田智広3, 船谷浩之3, 折戸靖幸3, 爲井智也3, 池田和司3, 冷水誠1,2, 森岡周1,2 (1.畿央大学健康科学部理学療法学科, 2.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター, 3.奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科)

キーワード:パーキンソン病, 姿勢異常, Kinect

【はじめに,目的】
パーキンソン病(PD)における姿勢異常は日常生活動作に与える影響が大きい重要な問題である。在宅PD患者の姿勢異常の評価は,通常理学療法士が診療場面などで実施するのみであり,理学療法士が在宅における患者の姿勢を評価することはできない。姿勢異常はジストニア,ミオパチー,抗PD薬以外に固有感覚の統合異常による身体の鉛直方向の認識障害も関連しているとされる。PD患者は視覚情報により垂直方向への身体定位が改善することが報告されており,姿勢異常に対して視覚フィードバックトレーニング(Visual Feedback Training:VFT)が有用である可能性がある。そこで,我々はKinectを用いて患者が在宅にて自身で姿勢評価,姿勢改善のためのVFTを行い,その実施状況と結果を理学療法士が遠隔にて確認可能なシステムを開発した。本研究の目的は前屈姿勢異常を呈するPD患者一例において,本システムによる姿勢評価,VFTを試行しその有用性を検証することとした。
【方法】
症例は59歳男性,罹病期間5年でヤール重症度分類2の前屈姿勢異常を呈するPD患者であった。研究期間は3週間とし,1週目は姿勢評価を,2週目は姿勢評価とVFTを,3週目は姿勢評価のみ行った。姿勢評価時,対象者は開閉眼立位を各30秒間とり,平均体幹前屈,側屈角度を計測した。VFTの際,対象者は画面に数字で示された現在の自身の体幹前屈,側屈角度と前額面,矢状面における姿勢を示すアニメーション画像による視覚フィードバックを利用し,可能な限り鉛直姿勢に近づけて維持するよう努力した。VFTの際,下肢,体幹の固有感覚に注意を向けるよう指導した。姿勢評価は研究期間中,朝夜各々一定時間に実施し,2週目の夜の評価はVFT前後に実施するよう指導した。VFTは夜の一定時間に1日1回,1回5分間実施するよう指導した。姿勢評価,VFTの予定回数は各々49,7であった。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認を得た上で実施した。全対象者に実施前に本研究の趣旨と目的を十分説明し,署名による同意を得た。なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者の保護には十分留意して実施した。
【結果】
対象者は研究期間,在宅においてKinectによる姿勢評価を47回,VFTを6回,転倒なく実施可能であった。姿勢評価の有効データ数は2回の計測ミスを除く45(96%)であった。研究期間中,閉眼立位の体幹前屈角度は開眼立位時より一貫して大きかった。平均体幹前屈角度は開眼時18.8度,閉眼時20.1度であった。本症例は立位時ほとんど体幹側屈を認めず,研究期間中変化がなかった。
VFTは全試行において即時効果を認め,平均体幹前屈角度は介入直前15.8度,介入中9.5度,介入直後12.6度となり,介入直前と比較して介入中は6.3度(39.9%),介入直後は3.2度(20.2%)改善した。短期効果について検討するため,1週目の朝夜の評価の平均値,2週目の朝と夜の介入直前の評価の平均値,3週目の朝夜の評価の平均値を比較検討した。開眼立位時の体幹前屈角度は,1週目18.8度,2週目15.6度,3週目18.3度,閉眼時は1週目20.1度,2週目17.3度,3週目20.1度であり,開眼立位では3.2度(17.0%),閉眼立位では2.8度(13.9%)の短期効果を認めたが,3週目まで効果が持続しなかった。
【考察】
本症例においてKinectを用いたシステムを導入した結果,転倒なく患者自身で姿勢評価,VFTを実施可能であり,理学療法士が遠隔にて確認可能であった。また,姿勢評価の有効データ率も高く,開閉眼立位の体幹前屈角度の小さな差を一貫して捉えることが可能で,VFTによる体幹前屈角度の即時的,短期的効果を認めた。本研究結果は姿勢異常を呈するPD患者において,在宅における患者自身によるKinectを用いた姿勢評価,VFTが有用である可能性を示唆している。
VFTでは,視覚フィードバックを利用して自身の姿勢を再認識して修正し,維持する練習を行うことにより,自己の身体の鉛直方向の認識が即時的,短期的に改善した可能性があると考える。VFTによる持続効果を認めなかった原因は,練習量の少なさ,練習期間の短さ,練習中常に視覚フィードバックを呈示していたため,視覚フィードバックへの依存度が高くなった可能性などが考えられる。今後はVFTの練習量やフィードバックの呈示方法についても検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
単一症例研究ではあるが,前屈姿勢異常を呈するPD患者においてKinectを利用したシステムを導入し,理学療法士の遠隔管理下での在宅における患者自身による姿勢評価,VFTの有用性を示した国内外初の研究である。本システムは姿勢異常を呈するPD患者の在宅における新しい姿勢評価,介入手段となる可能性がある。