[0822] 栃木県大田原市における7年間の介護予防事業一般高齢者施策の追跡調査
キーワード:介護予防, 転倒予防事業, 転倒
【はじめに,目的】
平成18年度から介護保険制度に介護予防サービス(予防給付)が創設された。介護予防事業の中に,地域に於いて自主的な介護予防活動の実施と,高齢者の積極的な活動参加を目的とした介護予防一般高齢者施策がある。国際医療福祉大学は大学が所在する栃木県大田原市と協働し,平成16年度の介護予防モデル事業から,一般高齢者施策を含めた介護予防事業の評価・介入方法や効果について検討するとともに,同事業を実践してきた。本研究では,同施策に参加した一般高齢者の運動機能・能力および転倒経験の変化から,7年間の同市の一般高齢者施策の効果について検討した。
【方法】
対象者は平成18~24年度の7年間の大田原市介護予防一般高齢者施策に参加した,同市内在住高齢者延べ2,452名(女性2,040名,男性412名)である。栃木県大田原市の介護予防一般高齢者施策として,介護予防普及啓発事業と地域介護予防活動支援事業がある。前者は,市内22カ所(平成23年時点)に地域拠点を設置し,同拠点にて筋力向上・口腔ケア・栄養改善・認知症予防などの介護予防に関する知識の普及活動と実践を1回/月実施するものである。平成18~23年度の6年間で,同事業実施回数は計1,568回,参加延べ人数は26,126名であった。本研究では,施策の評価として,施策に参加した一般高齢者に対して,筋力(CS30,握力),歩行能力(5m通常歩行,5m最大歩行),動的バランス(TUG,5m継ぎ足歩行テスト),静的バランス(ファンクショナル・リーチ,開眼片脚立ち)の計8種類の身体機能・能力テストを実施した。また過去1年間の転倒経験・転倒回数を聴取した。施策の評価方法は,全体評価と追跡評価の2方法とした。全体評価は,同市在住一般高齢者の全体的な変化の把握を目的とするもので,男女別に7年間の同施策の参加者延べ2,452名を各年度間で比較・検討した。統計学的手法としては,一元配置分散分析を用い,主効果が認められた場合は下位検定としてTukey法を使用した。加えて,この全体評価における複数年度の施策の参加・非参加者の影響を排除するため,追跡評価として平成18~24年度まで継続的に施策に参加し,2年毎に測定結果が追跡可能であった57名(女性:50名,男性7名)について,各測定値を比較,検討した。比較的データ数が確保できた女性については,年齢の影響を考慮し,平成18年度の年齢で前・後期高齢者の年齢層別に検討した。統計学的手法としてはFriedman検定を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。また事業実施市と,同市個人情報保護条約を遵守することを含む委託契約を締結するとともに,ヘルシンキ条約に基づいて研究開始に当たり対象者へ文書と口頭にて十分な説明を行い,文書での同意を得た。
【結果】
全体評価として,女性については平成20年以降,平成18年度に対して参加者が有意に高年齢となり,握力および静的バランス(ファンクショナル・リーチ)が低値となっているにもかかわらず,下肢筋力(CS-30),動的バランス能力(TUG,継ぎ足歩行)が有意に向上・改善した(p<0.05)。男性については著明な変化を認めなかった。追跡評価に関しては,女性の前期高齢者では動的バランス(TUG)が有意に改善した。対して女性の後期高齢者については,握力,歩行能力(5m最大歩行),静的バランス(ファンクショナル・リーチ)が有意に低下しているにもかかわらず,下肢筋力(CS-30)は平成22年以降有意に改善した(p<0.05)。転倒率については,女性の後期高齢者では著明な改善を認めなかったが,前期高齢者では31.6%(平成18年度)から14.3%(平成24年度)に変化した。男性についてはいずれの項目にも有意差を認めなかった。
【考察】
前期高齢者に関して,事業開始2~4年で動的バランスが改善し転倒率が低下したことは転倒予防という視点において介護予防事業の有効性を示していると考えられる。しかし後期高齢者については年齢の影響により下肢筋力は向上したものの,転倒率の低下までの効果は認められなかった。
【理学療法学研究としての意義】
7年間の追跡調査結果から,年齢階層別とはいえ転倒率の低下という結果が得られたことは,介護予防の事業評価に関して有益である。今後は同事業参加者の要介護認定化を追跡調査することで,さらに同事業評価を検討することができると考えている。
平成18年度から介護保険制度に介護予防サービス(予防給付)が創設された。介護予防事業の中に,地域に於いて自主的な介護予防活動の実施と,高齢者の積極的な活動参加を目的とした介護予防一般高齢者施策がある。国際医療福祉大学は大学が所在する栃木県大田原市と協働し,平成16年度の介護予防モデル事業から,一般高齢者施策を含めた介護予防事業の評価・介入方法や効果について検討するとともに,同事業を実践してきた。本研究では,同施策に参加した一般高齢者の運動機能・能力および転倒経験の変化から,7年間の同市の一般高齢者施策の効果について検討した。
【方法】
対象者は平成18~24年度の7年間の大田原市介護予防一般高齢者施策に参加した,同市内在住高齢者延べ2,452名(女性2,040名,男性412名)である。栃木県大田原市の介護予防一般高齢者施策として,介護予防普及啓発事業と地域介護予防活動支援事業がある。前者は,市内22カ所(平成23年時点)に地域拠点を設置し,同拠点にて筋力向上・口腔ケア・栄養改善・認知症予防などの介護予防に関する知識の普及活動と実践を1回/月実施するものである。平成18~23年度の6年間で,同事業実施回数は計1,568回,参加延べ人数は26,126名であった。本研究では,施策の評価として,施策に参加した一般高齢者に対して,筋力(CS30,握力),歩行能力(5m通常歩行,5m最大歩行),動的バランス(TUG,5m継ぎ足歩行テスト),静的バランス(ファンクショナル・リーチ,開眼片脚立ち)の計8種類の身体機能・能力テストを実施した。また過去1年間の転倒経験・転倒回数を聴取した。施策の評価方法は,全体評価と追跡評価の2方法とした。全体評価は,同市在住一般高齢者の全体的な変化の把握を目的とするもので,男女別に7年間の同施策の参加者延べ2,452名を各年度間で比較・検討した。統計学的手法としては,一元配置分散分析を用い,主効果が認められた場合は下位検定としてTukey法を使用した。加えて,この全体評価における複数年度の施策の参加・非参加者の影響を排除するため,追跡評価として平成18~24年度まで継続的に施策に参加し,2年毎に測定結果が追跡可能であった57名(女性:50名,男性7名)について,各測定値を比較,検討した。比較的データ数が確保できた女性については,年齢の影響を考慮し,平成18年度の年齢で前・後期高齢者の年齢層別に検討した。統計学的手法としてはFriedman検定を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。また事業実施市と,同市個人情報保護条約を遵守することを含む委託契約を締結するとともに,ヘルシンキ条約に基づいて研究開始に当たり対象者へ文書と口頭にて十分な説明を行い,文書での同意を得た。
【結果】
全体評価として,女性については平成20年以降,平成18年度に対して参加者が有意に高年齢となり,握力および静的バランス(ファンクショナル・リーチ)が低値となっているにもかかわらず,下肢筋力(CS-30),動的バランス能力(TUG,継ぎ足歩行)が有意に向上・改善した(p<0.05)。男性については著明な変化を認めなかった。追跡評価に関しては,女性の前期高齢者では動的バランス(TUG)が有意に改善した。対して女性の後期高齢者については,握力,歩行能力(5m最大歩行),静的バランス(ファンクショナル・リーチ)が有意に低下しているにもかかわらず,下肢筋力(CS-30)は平成22年以降有意に改善した(p<0.05)。転倒率については,女性の後期高齢者では著明な改善を認めなかったが,前期高齢者では31.6%(平成18年度)から14.3%(平成24年度)に変化した。男性についてはいずれの項目にも有意差を認めなかった。
【考察】
前期高齢者に関して,事業開始2~4年で動的バランスが改善し転倒率が低下したことは転倒予防という視点において介護予防事業の有効性を示していると考えられる。しかし後期高齢者については年齢の影響により下肢筋力は向上したものの,転倒率の低下までの効果は認められなかった。
【理学療法学研究としての意義】
7年間の追跡調査結果から,年齢階層別とはいえ転倒率の低下という結果が得られたことは,介護予防の事業評価に関して有益である。今後は同事業参加者の要介護認定化を追跡調査することで,さらに同事業評価を検討することができると考えている。