第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節25

2014年5月31日(土) 14:50 〜 15:40 ポスター会場 (運動器)

座長:淵岡聡(大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)

運動器 ポスター

[1123] 人工膝関節全置換術患者における栄養状態と身体機能との関係について

山形沙穂, 木㔟千代子, 森田真純, 長谷川恭一, 浅利洋平, 佃麻人, 中村睦美 (赤羽中央総合病院リハビリテーション科)

キーワード:人工膝関節全置換術(TKA), 栄養状態, 身体機能

【はじめに】周術期における低栄養状態は,創傷治癒の遅延,浮腫の増強,筋疲労,免疫能低下が引き起こされる。また,在院日数の延長,合併症の出現率を高め,日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の低下を招くと報告されている。さらに,栄養障害もしくは不適切な栄養管理下での筋力や筋持久力の改善は困難であるとされており,運動療法を行う上で栄養状態を評価することは非常に重要である。人工膝関節全置換術(TKA)患者においても,術前からの低栄養状態によって,術後早期の身体機能回復が遅延することが予想される。しかし,TKA患者において,栄養状態と身体機能との関係を検討した報告は少ない。そこで本研究では,TKA患者における栄養状態に着目し,術後早期の身体機能との関係について明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は,平成24年4月から平成25年9月までに当院にて変形性膝関節症と診断され片側TKAを施行した31名(男性4名,女性27名,平均年齢77±6歳,BMI 25.4±3.4)とした。評価指標は,身体機能評価として,膝伸展筋力,膝関節可動域(ROM)(屈曲,伸展),日本語版膝機能評価法(準WOMAC)の下位尺度である疼痛と膝関節機能,10m歩行テスト,Timed up and go test(TUG),栄養評価として,Geriatric Nutritional Risk Index(GNRI),血液生化学検査データ(TP,Alb,CRP,WBC,Hb)を術前と退院時において後方視的に調査した。GNRIは低値ほど低栄養状態を表す指標であり,GNRI<98は低栄養リスクの指標とされている。膝伸展筋力測定には,徒手筋力測定器(ANIMA社製μTasF-1)を使用した。なお,当院では,標準的な退院の基準は屋外歩行,階段昇降が自立レベルで術後3週を目標にしている。統計解析には,術前GNRIと各指標との相関関係を明らかにするためにPearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】全ての対象者に対して研究の趣旨,内容,それに伴う危険性について事前に口頭で説明し,書面にて十分な説明を行い,署名を以って同意を得た。
【結果】GNRIの平均値(術前,退院時)は,105.3±10.5,97.9±8.3であり,対象者31名のうちGNRI<98は,術前7名(22.6%),退院時17名(54.8%)であり,術前に低栄養状態であった者は,術後も全例において低栄養状態であった。各評価指標の平均値(術前,退院時)は,膝伸展筋力(0.29±0.1%,0.19±0.07%),膝屈曲ROM(122.3±10.1°,118.8±8.4°),伸展ROM(-12.17±7.2°,-2.1±3.6°),準WOMAC疼痛(55.2±21.9,73.3±17.7),機能(60.1±21.8,73.7±17.3),10m歩行テスト(11.97±9.8秒,12.23±6.1秒),TUG(11.7±4.1秒,14.2±5.8秒)であった。術前GNRIと有意な相関が認められたのは,退院時膝伸展ROM(r=0.57),退院時TUG(r=-0.40)であった。
【考察】本研究は,TKA患者における術前の栄養状態と術後早期の身体機能との関係を明らかにすることを目的とした。その結果,低栄養状態である者は,術前は全体の22.6%,退院時は54.8%であり,術後において低栄養状態になる者が多いことが示された。相良らは,虚弱高齢者において,栄養良好群は低栄養群に比べ有意に大きな筋肥大が認められ,栄養状態とトレーニング効果との関連性を示している。また,平岩らは下肢人工関節患者において,低栄養状態である者や高齢者ほど筋量と筋力低下傾向は強いと報告している。本研究より,術前において低栄養状態である者ほど退院時の膝伸展ROM獲得も不良であることが明らかになった。これは,術前からの低栄養状態が術後の創傷治癒の遅延や浮腫の増強につながり,術後のROM獲得に時間を要し,退院時の膝伸展ROM獲得が不良となったと考えられる。また,術前において低栄養状態である者ほど退院時のパフォーマンス能力が低下することが明らかになった。これより,術前から栄養状態を良好に保つことで術後早期の身体機能回復が望め,ADLやQOLが改善されると考えられる。今回,術前GNRIと膝伸展筋力に有意な相関は認められなかったが,この原因として術後早期の筋力の回復は筋肥大というより,神経因子の影響が大きいと考えられ,術前の栄養状態より他の要因のほうが大きく関与しているのかもしれない。近年,TKA患者の高齢化が進んでおり,術前から栄養状態を踏まえた上で全身のリスク管理や身体機能評価を行うことが重要であり,それが良好な術後成績へとつながるのではないかと考える。
【理学療法学的研究としての意義】本研究よりTKA患者において,術前の低栄養状態が退院時の膝伸展ROM獲得不良とパフォーマンス能力低下につながることが明らかになった。術前から良好な栄養状態を保つことが術後早期の身体機能回復へとつながることが示唆された。