[1378] 下肢装具作製における評価手段としての足圧中心軌跡の活用
キーワード:短下肢装具, 足圧中心, 評価
【はじめに】
下肢装具は,患者が麻痺等により生じた歩行能力低下を改善させる用具として重要な役割を担っている。そのため,最適な下肢装具が処方されるか否かは,それを使用する患者にとって重大な問題である。これまで装具は,患者,理学療法士,義肢装具士,医師などが検討を重ね作製されているが,麻痺の状況や視覚による歩行分析など主観的な評価が中心で,機器などを利用した客観的な評価が作製に反映されることは少ない。今回,下肢装具作製における評価手段として,足圧中心(COP)軌跡を活用し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
脳卒中により歩行障害を呈する2症例を対象とした。歩行解析には靴インソール型歩行解析システムT&T medilogic社製リアルタイム足圧分布計測システムを使用した。歩行時の足圧分布を左右独立して連続記録した後,両足全体のCOPの軌跡を示すCyclogramと,左右個々のCOPを表すGaitlineを求めた。測定は,十分な歩行練習を実施した後,10mをランダムに左右8歩ずつ抽出し分析に用いた。なお,歩行の定常化のため開始後,終了前の各2歩ずつは除いた。
症例1:50代男性,脳梗塞右片麻痺,平成25年4月下旬発症,5月下旬当センターへ転院。入院当初は,平行棒内プラスチックAFO(PAFO)にて中等度介助であったが,9月上旬,T字杖とPAFOにて病棟内歩行自立となり,本人用の装具作製となった。理学療法評価は,右下肢Br-stageIV,感覚は重度鈍麻。測定は,1)足継手のないPAFO(下腿ベルトありAFO),2)足継手付AFOを想定して近似的に下腿ベルトをはずしたPAFO(下腿ベルトなしAFO),3)これらの結果を踏まえ,装具の背屈角度とtoe springを増やして作製されたPAFOで実施した。
症例2:50代女性,脳梗塞右片麻痺,平成25年4月中旬発症,5月中旬当センターへ転院。入院当初は,T字杖とオルトップAFO(OrAFO)にて監視レベル,6月中旬に病棟内歩行自立となり,本人用の装具が必要か否かの検討を行った。なお,杖・装具なしでも監視レベルで歩行可能であった。理学療法評価は,右下肢Br-stageV,感覚は軽度鈍麻。測定は,杖は使わず,1)OrAFOあり,2)OrAFOなしで実施した。
【倫理的配慮】
各症例に対して本研究の趣旨を十分に説明し書面にて同意を得た。本研究は当センター倫理委員会にて承認された(承認番号H25-11)。
【結果】
症例1:(Cyclogram)下腿ベルトありAFOでは,下腿ベルトなしAFOに比べて,歩行毎のCOPの軌跡はばらつきが少なかった。また両装具とも,麻痺側下肢の接地が,足底部の中心から始まり,次に踵へと後退してから爪先へと移動していた。作製されたPAFOでは,COP軌跡のばらつきは減少し,麻痺側下肢の接地は,踵から開始し爪先へと移動した。(Gaitline)下腿ベルトありAFOでは,下腿ベルトなしAFOに比べて,非麻痺側におけるばらつきが少なかった。また両装具も,麻痺側下肢のCOPの軌跡が,踵から爪先にかけて直線的で足長軸に平行であった。作製した本人用PAFOでは,麻痺側のCOPは,外側へ広がる弧を描いた後,母趾に向かった。
症例2:(Cyclogram)OrAFOは裸足に比べて,麻痺側に占めるCOPの軌跡で囲まれる面積が小さかった。(Gaitline)OrAFOは裸足と比べて,麻痺側は外側へ広がる弧を描き,軌跡長は短かった。非麻痺側のCOPのばらつきは少なかったが直線的で足長軸に平行であった。
【考察】
歩行におけるCOPの軌跡を活用して,下肢装具作製における評価を行った。症例1は,Cyclogramより,AFOの下腿ベルトをはずした歩行では,歩行毎のCOPはばらつき,Gaitlineでも非麻痺側のCOPに,ばらつきの増加が見られた。そのため,作製において足関節背屈が制限されない足継手付きPAFOを選択することは,歩行の安定性を低下させるため不適切であると判断した。一方下腿ベルトありAFO,下腿ベルトなしAFOにかかわらず,麻痺側の接地が踵から開始していないのは,麻痺側下肢の振り出しが十分でないことが原因であると考え,装具の背屈角度やtoe springの程度を増やした結果,麻痺側下肢は踵からの接地になったと考えられる。症例2は,Cyclogramより,裸足の方がOrAFO装着に比べて,麻痺側下肢に多くの荷重面積を占めていることが明らかとなり,Gaitlineでも,OrAFOの使用による明らかな有用性が見い出せなかった。そのため,今回OrAFOの作製は必ずしも必要ではないと判断した。
【理学療法学研究としての意義】
下肢装具作製における評価手段として,歩行中のCOP軌跡を活用することは,装具装着下における歩行の安定性や推進性などへの影響を客観的に評価する上で有用である可能性がある。今後は,患者の歩行能力を高めるために得られた情報を,より最適な装具作製へと反映させていくことが重要である。
下肢装具は,患者が麻痺等により生じた歩行能力低下を改善させる用具として重要な役割を担っている。そのため,最適な下肢装具が処方されるか否かは,それを使用する患者にとって重大な問題である。これまで装具は,患者,理学療法士,義肢装具士,医師などが検討を重ね作製されているが,麻痺の状況や視覚による歩行分析など主観的な評価が中心で,機器などを利用した客観的な評価が作製に反映されることは少ない。今回,下肢装具作製における評価手段として,足圧中心(COP)軌跡を活用し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
脳卒中により歩行障害を呈する2症例を対象とした。歩行解析には靴インソール型歩行解析システムT&T medilogic社製リアルタイム足圧分布計測システムを使用した。歩行時の足圧分布を左右独立して連続記録した後,両足全体のCOPの軌跡を示すCyclogramと,左右個々のCOPを表すGaitlineを求めた。測定は,十分な歩行練習を実施した後,10mをランダムに左右8歩ずつ抽出し分析に用いた。なお,歩行の定常化のため開始後,終了前の各2歩ずつは除いた。
症例1:50代男性,脳梗塞右片麻痺,平成25年4月下旬発症,5月下旬当センターへ転院。入院当初は,平行棒内プラスチックAFO(PAFO)にて中等度介助であったが,9月上旬,T字杖とPAFOにて病棟内歩行自立となり,本人用の装具作製となった。理学療法評価は,右下肢Br-stageIV,感覚は重度鈍麻。測定は,1)足継手のないPAFO(下腿ベルトありAFO),2)足継手付AFOを想定して近似的に下腿ベルトをはずしたPAFO(下腿ベルトなしAFO),3)これらの結果を踏まえ,装具の背屈角度とtoe springを増やして作製されたPAFOで実施した。
症例2:50代女性,脳梗塞右片麻痺,平成25年4月中旬発症,5月中旬当センターへ転院。入院当初は,T字杖とオルトップAFO(OrAFO)にて監視レベル,6月中旬に病棟内歩行自立となり,本人用の装具が必要か否かの検討を行った。なお,杖・装具なしでも監視レベルで歩行可能であった。理学療法評価は,右下肢Br-stageV,感覚は軽度鈍麻。測定は,杖は使わず,1)OrAFOあり,2)OrAFOなしで実施した。
【倫理的配慮】
各症例に対して本研究の趣旨を十分に説明し書面にて同意を得た。本研究は当センター倫理委員会にて承認された(承認番号H25-11)。
【結果】
症例1:(Cyclogram)下腿ベルトありAFOでは,下腿ベルトなしAFOに比べて,歩行毎のCOPの軌跡はばらつきが少なかった。また両装具とも,麻痺側下肢の接地が,足底部の中心から始まり,次に踵へと後退してから爪先へと移動していた。作製されたPAFOでは,COP軌跡のばらつきは減少し,麻痺側下肢の接地は,踵から開始し爪先へと移動した。(Gaitline)下腿ベルトありAFOでは,下腿ベルトなしAFOに比べて,非麻痺側におけるばらつきが少なかった。また両装具も,麻痺側下肢のCOPの軌跡が,踵から爪先にかけて直線的で足長軸に平行であった。作製した本人用PAFOでは,麻痺側のCOPは,外側へ広がる弧を描いた後,母趾に向かった。
症例2:(Cyclogram)OrAFOは裸足に比べて,麻痺側に占めるCOPの軌跡で囲まれる面積が小さかった。(Gaitline)OrAFOは裸足と比べて,麻痺側は外側へ広がる弧を描き,軌跡長は短かった。非麻痺側のCOPのばらつきは少なかったが直線的で足長軸に平行であった。
【考察】
歩行におけるCOPの軌跡を活用して,下肢装具作製における評価を行った。症例1は,Cyclogramより,AFOの下腿ベルトをはずした歩行では,歩行毎のCOPはばらつき,Gaitlineでも非麻痺側のCOPに,ばらつきの増加が見られた。そのため,作製において足関節背屈が制限されない足継手付きPAFOを選択することは,歩行の安定性を低下させるため不適切であると判断した。一方下腿ベルトありAFO,下腿ベルトなしAFOにかかわらず,麻痺側の接地が踵から開始していないのは,麻痺側下肢の振り出しが十分でないことが原因であると考え,装具の背屈角度やtoe springの程度を増やした結果,麻痺側下肢は踵からの接地になったと考えられる。症例2は,Cyclogramより,裸足の方がOrAFO装着に比べて,麻痺側下肢に多くの荷重面積を占めていることが明らかとなり,Gaitlineでも,OrAFOの使用による明らかな有用性が見い出せなかった。そのため,今回OrAFOの作製は必ずしも必要ではないと判断した。
【理学療法学研究としての意義】
下肢装具作製における評価手段として,歩行中のCOP軌跡を活用することは,装具装着下における歩行の安定性や推進性などへの影響を客観的に評価する上で有用である可能性がある。今後は,患者の歩行能力を高めるために得られた情報を,より最適な装具作製へと反映させていくことが重要である。