[1398] パーキンソン病患者における咳嗽能力の経年変化に影響を与える因子の検討
キーワード:パーキンソン病, 咳嗽能力, 経年変化
【はじめに,目的】
パーキンソン病(PD)は,大脳基底核を中心とする神経変性疾患で,死因の1位は一般住民と異なり肺炎である。
喀痰喀出に有効な咳嗽の一指標である最大咳嗽流量(CPF)は,160L/分以下では通常の状態から喀痰喀出が困難になるとされる。PD患者の呼吸障害として知られている肺活量(VC)の減少は,姿勢の悪化などとともに生じるが,咳嗽能力への関与は不明確である。また,PD患者の咳嗽では,運動要素に加え反射感度といった感覚要素の障害も生じるとされるため,肺炎の予防には,日頃から異物の除去を意識することが必要と考える。そこで,咳嗽能力の変化に影響を与える因子と,咳嗽能力の低下予防を目的とした間接的なリハビリテーション(リハ)の可能性を検討した。
【方法】
対象は,平成21年10月~平成25年8月に当院入院リハを処方されたPD患者のうち,初回測定時にCPF>160L/分であったもの148名(男性75名,女性73名)とした。初回測定時は,平均年齢72.1歳,Hoehn-Yahr stage(H-Ystage)はI:15名,II:35名,III:66名,IV:32名,認知機能はMini Mental State Examination平均25.1点であった。発病年月は,特定疾患治療研究事業における臨床調査個人票を基本とし,平均67.3歳で,54歳以下:17名,55~64歳:32名,65~74歳:67名,75歳以上:32名であった。
測定項目は,①CPF,スパイロメトリ,口腔内圧:%VC,%努力VC(FVC),1秒率,最大呼気流量(PEFR),最大呼気圧,最大吸気圧を,足底接地が可能な座位で各2~3回測定した最大値,②Unified Parkinson Disease Rating Scale:Part3運動機能のうち振戦,固縮,協調性,寡動,姿勢反射障害のそれぞれ最低値,③動作:背臥位から端座位への起居動作と10m歩行試験の,可否および速度,④Functional Independence Measure:平均6~7と1~5で群分けとした。①~③は,同一験者が著明なOFF時間を避け実施した。
測定終了の基準は,初回測定後1±0.5年でCPF≦160L/分になった時点,もしくはリハの実施が無かった時点,およびデータ収集期間の終了とした。なお,骨折や肺炎などの合併症の治療を主目的とした入院は含めなかった。
統計解析は,発病から測定終了までの経過年数(1±0.5年=1年間)を従属変数とし,A:発病年齢別の4群,性別,H-Ystage,測定項目③と④をそれぞれ独立変数としたLog Rank検定と,B:動作能力(10m歩行時間,起居動作時間,6分間歩行試験,性別),呼吸機能(%VC,%FVC,最大呼気圧,最大吸気圧,1秒率,PEFR),PD症状(振戦,固縮,協調性,寡動,姿勢反射障害)について,それぞれ強制投入法によるCOX回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者へは,ヘルシンキ宣言に則り,当院の倫理規定に従い紙面を用い参加および自由な中止等について説明と同意を行った。
【結果】
経過中にCPF≦160L/分となったのは29名(19.6%)であった。
A:Log Rank検定では,発病年齢:p=0.018(高齢発病で早期に低下)と,閉塞性換気障害の有無:p=0.000(閉塞性換気障害で早期に低下)が有意であった。B:COX回帰分析では,呼吸機能の1秒率(p=0.009)と,PD症状の協調性(p=0.034)が有意であった。ハザード比は,それぞれ起居動作時間,協調性,1秒率が高かった。
【考察】
CPFは発病年齢が遅いほど早期に低下することが示されたが,H-Ystageや性別,動作の可否および速度,ADL自立度とは関与しないことが示された。PD患者のCPFは年齢と弱い逆相関関係にあるとされるため,発病が高齢であるほど初回測定時にCPFが低値であったことが影響した可能性を考える。
1秒率がCPFに影響することが示され,PD患者の末梢の気道閉塞に関する報告もあるが,咳嗽は努力呼気と異なり声門の閉鎖を伴う。また,PD患者における咳嗽時の呼吸補助筋の表面筋電図で,筋収縮開始のばらつきが大きいことも報告されているため,1秒率の低下がCPFの低下に直結するのではなく,PD症状の一つである協調性の低下により,吸気と呼気の切り替えや協調的な呼気筋の収縮が困難になっていることが,CPF低下の一因と考える。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法としては,強い努力呼気や咳嗽が行えるような呼吸補助筋の協調的な収縮の強化を実施することが,咳嗽能力の低下予防の一助となると考える。
パーキンソン病(PD)は,大脳基底核を中心とする神経変性疾患で,死因の1位は一般住民と異なり肺炎である。
喀痰喀出に有効な咳嗽の一指標である最大咳嗽流量(CPF)は,160L/分以下では通常の状態から喀痰喀出が困難になるとされる。PD患者の呼吸障害として知られている肺活量(VC)の減少は,姿勢の悪化などとともに生じるが,咳嗽能力への関与は不明確である。また,PD患者の咳嗽では,運動要素に加え反射感度といった感覚要素の障害も生じるとされるため,肺炎の予防には,日頃から異物の除去を意識することが必要と考える。そこで,咳嗽能力の変化に影響を与える因子と,咳嗽能力の低下予防を目的とした間接的なリハビリテーション(リハ)の可能性を検討した。
【方法】
対象は,平成21年10月~平成25年8月に当院入院リハを処方されたPD患者のうち,初回測定時にCPF>160L/分であったもの148名(男性75名,女性73名)とした。初回測定時は,平均年齢72.1歳,Hoehn-Yahr stage(H-Ystage)はI:15名,II:35名,III:66名,IV:32名,認知機能はMini Mental State Examination平均25.1点であった。発病年月は,特定疾患治療研究事業における臨床調査個人票を基本とし,平均67.3歳で,54歳以下:17名,55~64歳:32名,65~74歳:67名,75歳以上:32名であった。
測定項目は,①CPF,スパイロメトリ,口腔内圧:%VC,%努力VC(FVC),1秒率,最大呼気流量(PEFR),最大呼気圧,最大吸気圧を,足底接地が可能な座位で各2~3回測定した最大値,②Unified Parkinson Disease Rating Scale:Part3運動機能のうち振戦,固縮,協調性,寡動,姿勢反射障害のそれぞれ最低値,③動作:背臥位から端座位への起居動作と10m歩行試験の,可否および速度,④Functional Independence Measure:平均6~7と1~5で群分けとした。①~③は,同一験者が著明なOFF時間を避け実施した。
測定終了の基準は,初回測定後1±0.5年でCPF≦160L/分になった時点,もしくはリハの実施が無かった時点,およびデータ収集期間の終了とした。なお,骨折や肺炎などの合併症の治療を主目的とした入院は含めなかった。
統計解析は,発病から測定終了までの経過年数(1±0.5年=1年間)を従属変数とし,A:発病年齢別の4群,性別,H-Ystage,測定項目③と④をそれぞれ独立変数としたLog Rank検定と,B:動作能力(10m歩行時間,起居動作時間,6分間歩行試験,性別),呼吸機能(%VC,%FVC,最大呼気圧,最大吸気圧,1秒率,PEFR),PD症状(振戦,固縮,協調性,寡動,姿勢反射障害)について,それぞれ強制投入法によるCOX回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者へは,ヘルシンキ宣言に則り,当院の倫理規定に従い紙面を用い参加および自由な中止等について説明と同意を行った。
【結果】
経過中にCPF≦160L/分となったのは29名(19.6%)であった。
A:Log Rank検定では,発病年齢:p=0.018(高齢発病で早期に低下)と,閉塞性換気障害の有無:p=0.000(閉塞性換気障害で早期に低下)が有意であった。B:COX回帰分析では,呼吸機能の1秒率(p=0.009)と,PD症状の協調性(p=0.034)が有意であった。ハザード比は,それぞれ起居動作時間,協調性,1秒率が高かった。
【考察】
CPFは発病年齢が遅いほど早期に低下することが示されたが,H-Ystageや性別,動作の可否および速度,ADL自立度とは関与しないことが示された。PD患者のCPFは年齢と弱い逆相関関係にあるとされるため,発病が高齢であるほど初回測定時にCPFが低値であったことが影響した可能性を考える。
1秒率がCPFに影響することが示され,PD患者の末梢の気道閉塞に関する報告もあるが,咳嗽は努力呼気と異なり声門の閉鎖を伴う。また,PD患者における咳嗽時の呼吸補助筋の表面筋電図で,筋収縮開始のばらつきが大きいことも報告されているため,1秒率の低下がCPFの低下に直結するのではなく,PD症状の一つである協調性の低下により,吸気と呼気の切り替えや協調的な呼気筋の収縮が困難になっていることが,CPF低下の一因と考える。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法としては,強い努力呼気や咳嗽が行えるような呼吸補助筋の協調的な収縮の強化を実施することが,咳嗽能力の低下予防の一助となると考える。