第49回日本理学療法学術大会

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脳損傷理学療法18

2014年6月1日(日) 09:30 〜 10:20 ポスター会場 (神経)

座長:権藤要(星ヶ丘医療センターリハビリテーション部)

神経 ポスター

[1405] 回復期脳血管疾患における歩行予後予測

稲崎陽紀, 長井亮祐, 菊池俊明, 月成亮輔, 宮前篤, 丸本常民, 山口元, 吉田雅宣, 小林準, 赤星和人 (市川市リハビリテーション病院)

キーワード:脳卒中, 歩行自立, 予後予測

【はじめに,目的】
脳血管疾患における歩行予後予測は,リハビリテーションを効果的・効率的に行う上で不可欠である。日本脳卒中学会の脳卒中ガイドライン2009では予後予測の論文は多数あるが予測率はあまり高くなく,ADLを予測のための変数に入れた方が予測率は高いと記載されている。また,年齢についても予測に関わる変数として従来の研究で報告がなされ,臨床的にも年齢が予後に影響を与えることを経験する。当院ではこれまでに歩行予後予測について,ROC曲線から年齢・入院時FIM合計得点のカットオフ値(年齢70.5歳・入院時FIM合計得点75点)を報告してきた。今回の目的は年齢・入院時FIM合計得点カットオフ値を組み合わせることにより,予測成績がどのように変化するのかを明らかにすることである。
【方法】
対象は平成21年10月から平成25年7月までに当院に入院した初発脳血管疾患による片麻痺患者191名(年齢は,68.4±12.7歳,性比は男97名対女94名,発症から入院までの日数は,29.9±11.7日,在院日数は,117.5±45.8日)とした。除外項目は,評価時点で歩行が自立しているもの。状態悪化による転院。測定に同意が得られなかったものとした。
方法は①年齢要因②FIM要因③年齢・FIM要因どちらも満たすものの3群間でそれぞれ上記のカットオフ値により退院時歩行能力を判別した。そして,3群間のカットオフ値の精度,陽性的中率(以下PPV),陰性的中率(以下NPV),オッズ比を算出し予測成績の検討を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿って行った。収集したデータは日常診療で必要なものであり,当院の臨床審査委員会の了承を得ている。また対象者に対して研究の目的・方法を十分に説明し同意を得た。
【結果】
分析対象者191名で①年齢70.5歳未満は105名であり,歩行自立81名,非自立24名であった。70.5歳以上は86名であり,歩行自立38名,非自立48名であった。結果,精度67.5%,PPV77.1%,NPV55.8%,オッズ比4.3であった。②入院時FIM合計得点75点以上は122名であり,歩行自立103名,非自立19名であった。75点未満は69名であり,歩行自立16名,非自立53名であった。結果,精度81.7%,PPV84.4%,NPV76.8%,オッズ比18.0であった。③年齢・FIM要因どちらも満たすものは69名であり,歩行自立67名,非自立2名であった。どちらか一方または,どちらも満たさないものは122名であり,歩行自立52名,非自立70名であった。結果,精度71.7%,PPV97.1%,NPV57.4%,オッズ比45.1であった。
【考察】
年齢・入院時FIM合計得点のカットオフ値を組み合わせることで,対象が絞り込まれPPV97.1%とオッズ比45.1と高い値を示したと考えられる。この結果から年齢・入院時FIM合計得点のカットオフ値の組み合わせが,回復期脳血管疾患における退院時歩行自立度の判別の一助になる可能性が示唆される。一方,NPVと精度は低い値を示した。この理由は,絞り込めなかった対象者が多いことが原因として考えられる。今後は年齢,FIMを階層化したうえで,他要因を含めたカットオフ値を多角的に検討する必要がある。絞り込めなかった対象者を含めて歩行予後予測の精度を向上し臨床に反映させていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
脳血管疾患における歩行予後を正確に予測することで,効果的な理学療法プログラムの立案・歩行獲得にむけた治療を行うことができる。また,退院時歩行が自立すると予測されて自立できなかった症例,自立しないと予測されて自立できた症例からその要因を考察することで,有効な情報を得ることができる。