第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節20

Sun. Jun 1, 2014 10:25 AM - 11:15 AM 第12会場 (5F 502)

座長:立花孝(信原病院リハビリテーション科)

運動器 口述

[1425] 人工肩関節置換術患者を対象とした手術前後の関節機能と患者立脚肩関節評価法shoulder36の検討

押川達郎1, 天野徹哉2, 櫻井真3, 柴田陽三3 (1.福岡大学筑紫病院リハビリテーションセンター, 2.宝塚医療大学保健医療学部, 3.福岡大学筑紫病院整形外科)

Keywords:変形性肩関節症, 人工肩関節置換術, shoulder36

【はじめに,目的】変形性肩関節症は,肩甲上腕関節の破壊性変化と増殖性変化の混在により疼痛や関節拘縮などの機能障害を生じる。これらの機能障害に対して保存療法を行っても効果が得られない場合には,除痛や関節機能の向上を目的に人工肩関節置換術(TSA)が施行されている。しかし,TSAを施行する施設は限られており術後の理学療法に対しての報告は少なく,術後早期の疼痛や関節可動域の経過は明らかでない。本研究の目的は,TSA患者を対象に,手術前後の関節機能と患者立脚型評価法shoulder 36Ver.1.3(S36)を測定し,検討することである。
【方法】対象は,当院で2011年4月から2013年10月までの期間に変形性肩関節症に対してTSAを施行した13名のうち,初回TSAを施行した11名11肩(男性4名,女性7名,平均年齢70.8±9.1歳)とした。なお,対象者の日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOAスコア)の術前平均点は41.5±11.5点であった。術前と術後1週の評価として,術側の肩関節屈曲角度(肩屈曲ROM)・肩関節外旋角度(肩外旋ROM)・肩関節の安静時痛(安静時痛)・肩関節の夜間時痛(夜間時痛)を測定した。ROMの評価は,背臥位にて肩関節屈曲角度と肩下垂位の外旋角度を他動的に測定した。術後の可動域は,執刀医より許可された角度内で愛護的に行った。痛みの評価としてNumeric Rating Scale(NRS)を用い,安静時痛は座位で肩を動かしていない時の肩の痛み,夜間時痛は背臥位で就寝した時の肩の痛みを調査した。さらに,本研究対象者11名のうち,術前と術後3ヶ月以降のS36の追跡調査が可能であった7名を対象に,術前後のS36の各領域を比較した。S36は自己記述式のアンケート調査で,全6領域36項目であり,疼痛(6項目),可動域(9項目),筋力(6項目),日常生活動作(7項目),健康感(6項目),スポーツ能力(2項目)から成り,点数は5段階(0-4),値が大きいほど良好で各領域間の平均値を算出する尺度である。統計処理は,術前後の肩屈曲ROM,肩外旋ROM,安静時痛,夜間時痛の比較には対応のあるt検定を行い,術前後のS36の各領域の平均値の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を行った。統計ソフトはSPSS 11.0Jを用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,リハビリテーション介入時に本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得てから実施した。
【結果】肩屈曲ROMは術前83.6±19.1°,術後88.6±12.3°。肩外旋ROMは術前3.6±21.1°,術後24.5±12.1°。安静時痛は術前4.3±1.6,術後1.8±1.0。夜間痛は8.2±1.0,術後2.7±1.5であった。対応のあるt検定の結果,肩外旋ROM・安静時痛・夜間時痛に有意差を認めた(p<0.001)。S36の各領域の平均値の点数は,疼痛は術前1.0±0.8点,術後2.0±1.1点。可動域は術前1.0±0.5点,術後1.9±1.2点。筋力は術前0.5±0.6点,術後1.3±1.1点。健康感は術前1.9±0.5点,術後2.4±1.0点。日常生活機能は術前1.1±0.6点,術後1.8±1.0点。スポーツ能力は術前0.1±0.2点,術後0.2±0.6点であった。Wilcoxonの符号付順位検定の結果,S36の疼痛領域にのみ有意差(p<0.05)を認めた。
【考察】本研究の結果より,術後1週の時点で外旋ROM,安静時痛,夜間時痛が術前より有意に改善していることが分かった。術後1週の早い時期に外旋可動域が拡大したのは,関節変形や拘縮による可動域制限がTSAによる関節機能の再建により改善されたためと推察される。TSAでは肩甲下筋を一旦切離して上腕骨頭と関節窩を置換し,肩甲下筋を再縫合するため,術後可動域拡大には縫合腱への負荷を十分注意し進めていく必要がある。理学療法士が医師と連携し術後早期に介入できたことも,可動域拡大が得られた一要因ではないかと考える。また,腱板修復術などの肩関節術後は,夜間時痛の増強が多く報告されているが,本結果よりTSAでは手術侵襲が大きいが術後疼痛は早期に軽快することが明らかになった。S36においても疼痛領域でのみ術前より改善が見られ,術後の除痛効果が患者の主観的評価においても他の領域より早い段階で改善することが明らかになった。他の領域においても術前より改善傾向にあるが,最低経過観察期間が3ヶ月と短いため肩関節機能の回復途中の段階にあり,まだ有意差を認めなかったものと考えられる。今後は,症例数を増やすとともに,経過観察期間を延長し各領域の経時的な変化も検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】TSAは,術後早期に関節可動域と疼痛が改善することが示唆され,術後の早期理学療法介入による関節機能回復の一知見になることが期待できる。また,S36では疼痛領域の改善が示唆され,今後も医療者側の機能評価に加え患者の主観的評価も含めながら理学療法を提供していく必要性がある。