[1470] 慢性進行性疾患における主観的QOL評価とThen Testの重要性
キーワード:SEIQoL-DW, Then test, レスポンスシフト
【はじめに,目的】末期癌患者やいわゆる難病などの慢性進行性疾患において理学療法の究極的な目的は「如何にQOLを高められるか」である。これらの疾患におけるQOL評価として主観的QOL評価法であるSEIQoL-DWが注目されている。これはその時々の患者の状況に合わせ,患者自身が生活の中で大切にしている事柄(以下,Cue)を5つ導きだし,それぞれの満足度をVASで,重みを専用のディスクで測定し掛け合わせ,最終的には5つの数値を加え点数化(以下,SEIQoL index)するという手法である。SEIQoL indexは操作主義的な数値として他者との比較や,本人における経時的変化を比較することができる。また,5つCueを導き出した理由(以下,コメント)を記録するのもSEIQoL-DWの特徴の一つであり,QOL変化を質的に検討する際に有用である。近年SEIQoL-DWを使用したQOL調査報告が散見され始めているが,単に経時変化を追うだけのものがほとんどであり,レスポンスシフトついて触れられた調査は少ない。中島は,過去(Pre test)と現在(Post test)のQOLをそれぞれの時点で点数化し経時評価するだけではなく,様々な要素の影響を受け変化した現在の価値観で過去を再評価(以下,Then test)したときのPre testとThen testの差をレスポンスシフトとし,実際の介入効果はPost testとThen testの差で評価されるべき,としている。今回我々はALS患者に対し定期のQOL評価に加えThen testを行い,レスポンスシフトの実際の様子とThen test,Post testの差から得られる真の主観的QOL変化について調査し若干の知見を得たので報告する。
【方法】対象は下肢型ALS患者59歳男性,運動機能はPre test時は両SHBと両T字杖使用し2mの自力歩行がなんとか可能なレベル,Post test時は車椅子への移乗にも介助が必要なレベルであった。症例は定年目前でもあり就労継続が大きな課題であったが,理学療法は歩行や移乗能力維持,下肢装具や車椅子の調整を主目的とした週2回実施し,巧緻性が落ち始めた上肢の機能訓練目的に週1~2回の作業療法を行った。QOL評価は2010年12月にPre test,2011年7月にPost testを実施し,合わせて今回はPost test実施時に,約7ヶ月前を思い出してもらい,Pre testのデータを見せずに再度SEIQoL-DWを実施しこれをThen testとした。
【倫理的配慮,説明と同意】調査対象者に対して調査の背景,目的,方法,調査内容,調査内容の使用許諾,調査にあたっての危険性や不利益,調査結果の使われ方,プライバシーの保護,調査協力に同意しない事による不利益,について説明を行い同意を得た。
【結果】SEIQoL indexはPre test89.27点,Post test79.65点,Then test67.57点であった。5つのCueはPost,Then testともに同一であり「家族:Post45点,Then46.4点」「親:Post14.58点,Then6.86点」「仕事:Post7.67点,Then9.12点」「環境:Post3.44点,Then4.8点」「趣味:Post8.96点,Then0.39点」であった。
【考察】今回の結果ではPre testとPost testの差9.62点と一見QOLが下がったように見えるが,Then test67.57点とPost test79.65点から見ると12.08点高く,むしろQOLは高いと言える。このPre testとThen testの差21.7点がレスポンスシフトと言える。Cueではthen testでPost testに比べ「親」「趣味」の項目の得点が特に低く「親への病状報告不足で心配をかけていた」「仕事偏重の生活であり趣味活動へ気を回す余裕が無かった」などのコメントが得られており減点に働いた可能性が高い。一方で,「家族」「仕事」「環境」の項目では大きな点数の増減は無く,「リハビリにより身体機能と就労の維持がかなっている」「職場,家庭,病院の環境の調和に満足している」などのコメントが得点の維持に働いた可能性が高い。現在のQOL評価では,このレスポンスシフトが考慮されておらず,経時的変化だけではどうしても低下していると判断され評価を誤る可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】理学療法の究極的な目的は患者のQOLを高めることにある。従って,正確にQOLを評価できなければ理学療法介入の効果は判定できない。SEIQoL-DWは評価項目を患者自身が決められる主観的QOL評価法であり有用である。また,QOL評価の際には,誰にでも起こっている内的判断基準の変化を常に念頭に置かねばならない。Then testによるレスポンスシフトや真のQOL変化の評価が重要である。
【方法】対象は下肢型ALS患者59歳男性,運動機能はPre test時は両SHBと両T字杖使用し2mの自力歩行がなんとか可能なレベル,Post test時は車椅子への移乗にも介助が必要なレベルであった。症例は定年目前でもあり就労継続が大きな課題であったが,理学療法は歩行や移乗能力維持,下肢装具や車椅子の調整を主目的とした週2回実施し,巧緻性が落ち始めた上肢の機能訓練目的に週1~2回の作業療法を行った。QOL評価は2010年12月にPre test,2011年7月にPost testを実施し,合わせて今回はPost test実施時に,約7ヶ月前を思い出してもらい,Pre testのデータを見せずに再度SEIQoL-DWを実施しこれをThen testとした。
【倫理的配慮,説明と同意】調査対象者に対して調査の背景,目的,方法,調査内容,調査内容の使用許諾,調査にあたっての危険性や不利益,調査結果の使われ方,プライバシーの保護,調査協力に同意しない事による不利益,について説明を行い同意を得た。
【結果】SEIQoL indexはPre test89.27点,Post test79.65点,Then test67.57点であった。5つのCueはPost,Then testともに同一であり「家族:Post45点,Then46.4点」「親:Post14.58点,Then6.86点」「仕事:Post7.67点,Then9.12点」「環境:Post3.44点,Then4.8点」「趣味:Post8.96点,Then0.39点」であった。
【考察】今回の結果ではPre testとPost testの差9.62点と一見QOLが下がったように見えるが,Then test67.57点とPost test79.65点から見ると12.08点高く,むしろQOLは高いと言える。このPre testとThen testの差21.7点がレスポンスシフトと言える。Cueではthen testでPost testに比べ「親」「趣味」の項目の得点が特に低く「親への病状報告不足で心配をかけていた」「仕事偏重の生活であり趣味活動へ気を回す余裕が無かった」などのコメントが得られており減点に働いた可能性が高い。一方で,「家族」「仕事」「環境」の項目では大きな点数の増減は無く,「リハビリにより身体機能と就労の維持がかなっている」「職場,家庭,病院の環境の調和に満足している」などのコメントが得点の維持に働いた可能性が高い。現在のQOL評価では,このレスポンスシフトが考慮されておらず,経時的変化だけではどうしても低下していると判断され評価を誤る可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】理学療法の究極的な目的は患者のQOLを高めることにある。従って,正確にQOLを評価できなければ理学療法介入の効果は判定できない。SEIQoL-DWは評価項目を患者自身が決められる主観的QOL評価法であり有用である。また,QOL評価の際には,誰にでも起こっている内的判断基準の変化を常に念頭に置かねばならない。Then testによるレスポンスシフトや真のQOL変化の評価が重要である。