第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述35

がん3

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:赤尾健志(富山赤十字病院 リハビリテーション科)

[O-0267] 消化器がん患者における倦怠感と運動機能の関連について

小暮英輔1, 原毅1, 石井貴弥1, 前田眞治2 (1.国際医療福祉大学三田病院リハビリテーション室, 2.国際医療福祉大学大学院リハビリテーション学分野)

Keywords:消化器がん, 倦怠感, 運動機能

【目的】
近年,医療技術の進歩でがんの生存率は世界的に増加傾向であり,早期発見,早期治療により生存可能な者が多くなってきている。一方,がん治療やがん自体から生じる倦怠感で,Quality of Life(以下QOL)が低下する者もいることが知られている。倦怠感は,栄養障害や身体活動の低下等の要因も関連しているといわれている。また運動機能を上げることで,がん患者の倦怠感やQOLが改善することも報告されており,運動機能向上が倦怠感改善に大きく関与している可能性がある。しかしながら,消化器がん患者に着目して,倦怠感と運動機能の関連について検討した報告は調べ得る中では殆ど見られなかった。そこで,術前の消化器がん患者に対し,倦怠感と運動機能,体格の関連性を検討することを本研究の目的とした。
【方法】
対象は,当院に入院した運動障害,認知機能障害,うつ病等の精神疾患を認めず日常生活が自立している消化器がん患者9例(男性4例,女性5例,平均58.2±9.3歳,診断:胃がん2例,S状結腸がん3例,直腸がん2例,食道がん2例)である。
倦怠感の指標は,Cancer Fatigue Scale(以下CFS)を用いた。CFSは多面的かつ簡易的に評価可能であり,身体的,精神的,認知的の3つの下位項目で構成され,各項目のスコアの合計を総合スコアとする。カットオフ値は19点となっており,19点以上で倦怠感が強いとされる。
筋力評価は,足関節底屈筋力(以下APF),等尺性膝伸展筋力(以下IKF)を使用し,右下肢のみを計測した。
APFは,バイオデックスシステム(酒井医療,BDX-4)を使用し,足関節0°位での等尺性底屈筋力(Nm)を計測した。計測課題は,最大努力下で5秒間足関節筋力を発揮することとし,30秒間の休憩を入れ2回計測した。計測値は,最大値を体重で正規化した値(Nm/kg)を採択した。
IKFは,下肢筋力強化機器のアイソメトリック・テスト機構(HUR 5530レッグエクステンション/カールリハブ)を用いた。計測課題は,最大努力下で5秒間膝伸展筋力(kgf)を発揮することとした。計測値は最大値から関節トルクを算出し,膝内側裂隙からカフまでの距離と体重で正規化した値(Nm/kg)を使用した。
耐久性評価は,6分間歩行距離(以下6MD)を使用した。6MDの計測動作は,対象者に勾配のない50mの歩行路を最大努力下で可能な限り往復することとした。検査者は,対象者の後方から歩行距離測定器(セキスイ樹脂,SDM-1)を用いて追跡し,歩行距離を(m)を計測した。
体格評価は,Body Mass Index(以下BMI)を使用した。BMI算出に使用した身長と体重は衣服着用下で計測した。下腿最大周径(以下MCC)はテープメジャーを使用し,右下腿最大膨隆部の周径(cm)を計測した。
血液データは栄養指標として用いられるアルブミン(以下Alb)を用いた。各評価の計測時期は入院日から手術日前日までの時期とした。統計学的処理では,Spearmanの順位相関係数でCFSとAPF,MCC,IKF,Alb,BMI,6MDの関係を検討した。有意水準はすべて5%未満とした。
【結果】
CFS総合スコアは,17.6±6.7点であり平均ではカットオフ値を超えた者3例いた。他評価の計測値は,APF 1.3±0.4Nm/kg,MCC 33.5±2.5cm,IKF 4.4±1.1N/m/kg,Alb 4.3±1.4g/dl,BMI 20.6±1.9kg/m2,6MD 504.9±73.7mであった。CFS総合スコアと6MDに有意な負の相関(r=-0.820)が認められたのみで,他の項目とは相関がみられなかった。
【考察】
これらの結果は倦怠感と6MDで示される耐久性に関連があることを示唆している。したがって足関節底屈筋力や膝伸展筋力などの単独の筋力よりも,多くの抗重力筋群を動員する総合的な耐久性,筋持久力である6MDが指標となると考えられた。肺がん患者や食道がん患者では倦怠感が日常生活の障害になっていることが報告されており,食道がんを含めた消化器がん患者に関しても,耐久性低下が倦怠感に影響し日常生活の支障をきたす可能性があることを示唆する結果と考える。しかし症例数も少なく普遍性に乏しいので,今後,症例数を増やし検討する必要があると思われる。

【理学療法学研究としての意義】
消化器がん患者の倦怠感と身体機能の関係性が示唆されたことにより,術前からの評価,術後の理学療法を行う上での耐久性向上とリスク管理の一助となるものと思われる。