[O-0557] 訪問リハビリテーションを利用する高齢者の主介護者における介護負担感の1年間の変化
キーワード:介護負担感, 訪問リハビリテーション, 縦断研究
【はじめに,目的】
本邦において介護負担感に影響する因子として,介護時間や要介護者の生活意欲(井口,2014),抑うつ(山崎,2012),日常生活動作(activity of daily living:ADL)能力(牧迫,2008)などが報告されている。しかし,先行研究の多くが横断調査であり,介護負担感の変化及び変化に関連する要因についての縦断研究は,追跡対象者数が少なく(中越,2014),アンケート調査方法が自記式(牧迫,2009)となっている。なお,縦断研究において対象者が訪問リハビリテーション利用者である研究は見当たらない。そこで本研究は主介護者と対面調査ができる訪問リハビリテーションの利用者を対象とし,地域在住要支援・要介護者を介護している主介護者の介護負担感の1年間の変化(以下,⊿J-ZBI得点)について検討することを目的とする。
【方法】
ベースライン時の対象者である神奈川県内と東京都内の2事業所の訪問リハビリテーションを利用している要支援・要介護者と,その同居している主介護者54組のうち,1年後も訪問リハビリテーションを継続して利用し追跡調査可能な対象者とした。調査は要介護者と主介護者の両者に対し,対象者の自宅にて質問紙による面接調査法で行った。要介護者からは,服薬種類数,主観的健康度を聴取した。主介護者からは,年齢,性別,介護期間,最近2週間における1日の平均介護時間,要介護者の意欲の指標としてVitality Index(VI),介護負担感の指標としてZarit介護負担感尺度日本語版(J-ZBI)を聴取した。また,各事業所のカルテから要介護者の年齢,性別,要介護度,ADLの指標としてFunctional Independence Measure(FIM)の情報を得た。統計は介護負担感の1年間の変化を明らかにするために,ベースライン時と追跡調査時のJ-ZBI得点を比較した。⊿J-ZBI得点と各項目とのSpearman順位相関係数を算出した。次に,⊿J-ZBI得点と有意な相関が認められた項目を独立変数,⊿J-ZBI得点を従属変数,主介護者の年齢と性別を制御変数として偏相関分析を行った。またJ-ZBIの下位尺度であるPersonal Strain得点(介護そのものによる負担:PS得点)及びRole Strain得点(以前の生活ができなくなったことによる負担:RS得点)のベースライン時と追跡調査時の点数の差(⊿PS得点,⊿RS得点)についても同様に偏相関分析を行った。なお,有意水準は5%とした。解析にはSPSS Statistics21.0を使用した。
【結果】
1年後に訪問リハビリテーションを継続して利用しており追跡調査が可能な対象者は要介護者37名(男性25名,女性12名,平均年齢81.2±7.6歳)とその主介護者37名(男性9名,女性28名,平均年齢74.2±9.4歳)であった(脱落率31.5%)。⊿J-ZBI得点は維持・低下群(介護負担感軽減群)21名(56.8%),増加群(介護負担感増加群)16名(43.2%)であった。それぞれのベースライン時のJ-ZBI得点は維持・低下群29.0±16.3点,増加群のJ-ZBI得点は26.4±20.1点であり,2群間に差はみられなかった。⊿J-ZBI得点と有意な相関がみられたのは,VI得点(r=0.364,p=0.034)と要介護者の主観的健康度(r=-0.407,p=0.017)であった。⊿PS得点と相関がみられたのは,VI得点(r=0.401,p=0.019),⊿RS得点と有意な相関がみられたのは要介護者の主観的健康度(r=0.350,p=0.042)であった。
【考察】
今回の調査では1年間で介護負担感維持軽減した群は全体の56.8%であった。訪問リハビリテーションを1年間継続して利用している要介護者の主介護者の介護負担感は1年後にも維持・改善している割合が多いと考える。⊿J-ZBI得点は,ベースライン時の要介護者の意欲と主観的健康度が関与していることが示され,ベースライン時の要介護者のADL能力とは相関が認められなかった。このことから,介護負担感の1年間の変化には要介護者の身体機能・生活機能ではなく精神的機能が影響しているといえる。また⊿PS得点はベースライン時の要介護者の意欲が関与し,⊿RS得点の増加に関してはベースライン時の要介護者の主観的健康度が低いことが関与していることがわかった。今後は多変量の解析が可能となるよう解析対象者数を増やし,再度介護負担感の変化に関連する要因の検討を試みる必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
主介護者の介護負担感の1年間の変化には要介護者の精神的機能が影響していることが示唆された。今後,在宅要介護者において理学療法士が介入する際に,運動機能だけでなく精神機能にもアプローチを検討するデータとなると考えられる。
本邦において介護負担感に影響する因子として,介護時間や要介護者の生活意欲(井口,2014),抑うつ(山崎,2012),日常生活動作(activity of daily living:ADL)能力(牧迫,2008)などが報告されている。しかし,先行研究の多くが横断調査であり,介護負担感の変化及び変化に関連する要因についての縦断研究は,追跡対象者数が少なく(中越,2014),アンケート調査方法が自記式(牧迫,2009)となっている。なお,縦断研究において対象者が訪問リハビリテーション利用者である研究は見当たらない。そこで本研究は主介護者と対面調査ができる訪問リハビリテーションの利用者を対象とし,地域在住要支援・要介護者を介護している主介護者の介護負担感の1年間の変化(以下,⊿J-ZBI得点)について検討することを目的とする。
【方法】
ベースライン時の対象者である神奈川県内と東京都内の2事業所の訪問リハビリテーションを利用している要支援・要介護者と,その同居している主介護者54組のうち,1年後も訪問リハビリテーションを継続して利用し追跡調査可能な対象者とした。調査は要介護者と主介護者の両者に対し,対象者の自宅にて質問紙による面接調査法で行った。要介護者からは,服薬種類数,主観的健康度を聴取した。主介護者からは,年齢,性別,介護期間,最近2週間における1日の平均介護時間,要介護者の意欲の指標としてVitality Index(VI),介護負担感の指標としてZarit介護負担感尺度日本語版(J-ZBI)を聴取した。また,各事業所のカルテから要介護者の年齢,性別,要介護度,ADLの指標としてFunctional Independence Measure(FIM)の情報を得た。統計は介護負担感の1年間の変化を明らかにするために,ベースライン時と追跡調査時のJ-ZBI得点を比較した。⊿J-ZBI得点と各項目とのSpearman順位相関係数を算出した。次に,⊿J-ZBI得点と有意な相関が認められた項目を独立変数,⊿J-ZBI得点を従属変数,主介護者の年齢と性別を制御変数として偏相関分析を行った。またJ-ZBIの下位尺度であるPersonal Strain得点(介護そのものによる負担:PS得点)及びRole Strain得点(以前の生活ができなくなったことによる負担:RS得点)のベースライン時と追跡調査時の点数の差(⊿PS得点,⊿RS得点)についても同様に偏相関分析を行った。なお,有意水準は5%とした。解析にはSPSS Statistics21.0を使用した。
【結果】
1年後に訪問リハビリテーションを継続して利用しており追跡調査が可能な対象者は要介護者37名(男性25名,女性12名,平均年齢81.2±7.6歳)とその主介護者37名(男性9名,女性28名,平均年齢74.2±9.4歳)であった(脱落率31.5%)。⊿J-ZBI得点は維持・低下群(介護負担感軽減群)21名(56.8%),増加群(介護負担感増加群)16名(43.2%)であった。それぞれのベースライン時のJ-ZBI得点は維持・低下群29.0±16.3点,増加群のJ-ZBI得点は26.4±20.1点であり,2群間に差はみられなかった。⊿J-ZBI得点と有意な相関がみられたのは,VI得点(r=0.364,p=0.034)と要介護者の主観的健康度(r=-0.407,p=0.017)であった。⊿PS得点と相関がみられたのは,VI得点(r=0.401,p=0.019),⊿RS得点と有意な相関がみられたのは要介護者の主観的健康度(r=0.350,p=0.042)であった。
【考察】
今回の調査では1年間で介護負担感維持軽減した群は全体の56.8%であった。訪問リハビリテーションを1年間継続して利用している要介護者の主介護者の介護負担感は1年後にも維持・改善している割合が多いと考える。⊿J-ZBI得点は,ベースライン時の要介護者の意欲と主観的健康度が関与していることが示され,ベースライン時の要介護者のADL能力とは相関が認められなかった。このことから,介護負担感の1年間の変化には要介護者の身体機能・生活機能ではなく精神的機能が影響しているといえる。また⊿PS得点はベースライン時の要介護者の意欲が関与し,⊿RS得点の増加に関してはベースライン時の要介護者の主観的健康度が低いことが関与していることがわかった。今後は多変量の解析が可能となるよう解析対象者数を増やし,再度介護負担感の変化に関連する要因の検討を試みる必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
主介護者の介護負担感の1年間の変化には要介護者の精神的機能が影響していることが示唆された。今後,在宅要介護者において理学療法士が介入する際に,運動機能だけでなく精神機能にもアプローチを検討するデータとなると考えられる。