[O-0754] 不全四肢麻痺者の立位バランスが背臥位と立位における上肢筋活動の変化に及ぼす影響
―表面筋電図と重心動揺計側を用いたAISA Impairment Scale:Dの2症例による検討―
Keywords:不全四肢麻痺, 立位バランス, 上肢筋活動
【はじめに,目的】
不全四肢麻痺者の理学療法において,歩行のみを求める訓練を進めると,上肢の痙性や異常感覚が増大すると報告(平木,2009)されており,臨床においても上肢筋群の痙性や過緊張を経験する。しかし,不全四肢麻痺者の上肢筋群が,どのような要因で痙性や過緊張を伴うかを調べた報告はない。一つの要因として,バランス反応の代償により上肢筋群の筋活動が増大している可能性が考えられる。
そこで今回,不全四肢麻痺者2例における背臥位と立位での上肢筋群の筋活動の測定を行い,不全四肢麻痺者の中でも立位バランスの低下した症例が,特に上肢筋群の筋活動の変化が増大しているのか検討を行った。
【方法】
対象は不全四肢麻痺者2例ともに,第5頸髄損傷でAISA Impairment Scale(以下,AIS):D・改良Frankel:D1であった。また,車いすとベッド間の移乗は自立で,屋内移動には車いすと歩行車を併用していた。症例Aは年齢58歳で受傷日から66日,症例Bは年齢34歳で受傷日から486日,椎弓形成術から115日であった。
身体機能の評価は,AISの下肢筋力スコア(以下,LEMS)の合計点,Walking Index for Spinal Cord Injury II(以下,WISCI),左側上肢(肩屈曲・伸展,肘屈曲・伸展,手背屈・掌屈)のComposite Modified Ashworth Scale(以下,CMAS)の合計点を用いた(長谷川,2014)。立位バランスの評価は,重心動揺計(ANIMA社製,G-7100)を用いて計測した。上肢筋群の筋活動は,被験者の左側上肢に表面筋電図(酒井医療社製,MyoSystem1200)を貼付し,背臥位・立位で計測した。各姿勢ともに「リラックスした状態を保持してください」と口頭指示を行った。重心動揺計は,開脚立位時の矩形面積と閉脚立位保持を立位バランスの指標とした。表面筋電図は,胸鎖乳突筋(SCM)・大胸筋(PM)・上腕二頭筋(BB)・前鋸筋(SA)・僧帽筋上部(ST)・僧帽筋中部(MT)・僧帽筋下部(IT)・広背筋(LD)の8筋を記録筋とし,sampling周波数1kHzで測定した。背臥位の表面筋電図,立位の表面筋電図・重心動揺計測ともに計測回数は2回,計測時間は20秒間とし,平均値を算出し比較を行った。また,立位時は重心動揺計と表面筋電図を同期した。
【結果】
身体機能は,症例AではLEMS:33点,上肢CMAS:6点,WISCI:17,症例BではLEMS:28点,上肢CMAS:12点,WISCI:13であった。症例AとBでLEMSに大きな差を認めないが,症例Bで上肢CMASが高値を示した。矩形面積(cm2)は,症例A:5.5,症例B:15.4となり,症例Bが症例Aに比べはるかに高値を示した。また症例Aでは閉脚立位保持が30秒以上可能も,症例Bでは閉脚立位保持が不可であった。背臥位と立位における上肢筋活動(背臥位μV/立位μV)と変化率(立位÷背臥位%)は,症例AではSCM:18.8/12.5(67),PM:81.4/50.4(62),BB:8.2/5.2(63),SA:19.6/18.53(93),ST:47.6/30.0(63),MT:59.9/44.7(93),IT:33.2/43.1(130),LD:53.9/47.7(88),症例BではSCM:16.4/49.7(302),PM:5.5/8.1(148),BB:3.0/7.5(254),SA:5.0/10.3(205),ST:23.8/28.8(121),MT:8.0/21.6(270),IT:5.0/20.7(130),LD:12.9/20.8(161)であった。症例Aは全筋群が立位で近似あるいは減少を示し,症例Bは全筋群が立位で増大を示した。
【考察】
今回,不全四肢麻痺者2例により,背臥位と立位における上肢筋活動の変化に立位バランスが影響を及ぼしているかどうかを検討した。
身体機能は,症例A・Bでは同等の損傷高位レベルであり,LEMSでも大きな差を認めなかった。症例Bは上肢のCMASが高値を示し,WISCIは13と歩行車を使用しての移動形態となっていた。年代別における矩形面積は,30歳代では1.83cm2,50歳代では1.45cm2と報告(横山,2004)されているが,2症例とも同年齢の健常者の値と比べると高値を示した。その中でも,症例Bは健常者および症例Aに比べかなり高値を示した。また,症例Bは閉脚立位の保持が不可であり,立位バランスが不良であった。姿勢における上肢筋群の活動の変化は,症例Aは,背臥位に比べ立位で上肢筋群の筋活動が減少を示したが,症例Bは背臥位に比べ立位で上肢の全筋群の筋活動が増大を示した。
これらの結果から,不全四肢麻痺者において立位バランスが不良な症例は,立位での姿勢制御に上肢筋群を活用していることが考えられる。その影響でCMASが高値となり上肢の痙性が増強させ,歩行能力に違いを生じさせている可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
不全四肢麻痺者の立位バランスが低下している症例は,立位での姿勢制御に上肢筋群を活用しているために上肢の痙性が増強している可能性を示唆する報告である。
不全四肢麻痺者の理学療法において,歩行のみを求める訓練を進めると,上肢の痙性や異常感覚が増大すると報告(平木,2009)されており,臨床においても上肢筋群の痙性や過緊張を経験する。しかし,不全四肢麻痺者の上肢筋群が,どのような要因で痙性や過緊張を伴うかを調べた報告はない。一つの要因として,バランス反応の代償により上肢筋群の筋活動が増大している可能性が考えられる。
そこで今回,不全四肢麻痺者2例における背臥位と立位での上肢筋群の筋活動の測定を行い,不全四肢麻痺者の中でも立位バランスの低下した症例が,特に上肢筋群の筋活動の変化が増大しているのか検討を行った。
【方法】
対象は不全四肢麻痺者2例ともに,第5頸髄損傷でAISA Impairment Scale(以下,AIS):D・改良Frankel:D1であった。また,車いすとベッド間の移乗は自立で,屋内移動には車いすと歩行車を併用していた。症例Aは年齢58歳で受傷日から66日,症例Bは年齢34歳で受傷日から486日,椎弓形成術から115日であった。
身体機能の評価は,AISの下肢筋力スコア(以下,LEMS)の合計点,Walking Index for Spinal Cord Injury II(以下,WISCI),左側上肢(肩屈曲・伸展,肘屈曲・伸展,手背屈・掌屈)のComposite Modified Ashworth Scale(以下,CMAS)の合計点を用いた(長谷川,2014)。立位バランスの評価は,重心動揺計(ANIMA社製,G-7100)を用いて計測した。上肢筋群の筋活動は,被験者の左側上肢に表面筋電図(酒井医療社製,MyoSystem1200)を貼付し,背臥位・立位で計測した。各姿勢ともに「リラックスした状態を保持してください」と口頭指示を行った。重心動揺計は,開脚立位時の矩形面積と閉脚立位保持を立位バランスの指標とした。表面筋電図は,胸鎖乳突筋(SCM)・大胸筋(PM)・上腕二頭筋(BB)・前鋸筋(SA)・僧帽筋上部(ST)・僧帽筋中部(MT)・僧帽筋下部(IT)・広背筋(LD)の8筋を記録筋とし,sampling周波数1kHzで測定した。背臥位の表面筋電図,立位の表面筋電図・重心動揺計測ともに計測回数は2回,計測時間は20秒間とし,平均値を算出し比較を行った。また,立位時は重心動揺計と表面筋電図を同期した。
【結果】
身体機能は,症例AではLEMS:33点,上肢CMAS:6点,WISCI:17,症例BではLEMS:28点,上肢CMAS:12点,WISCI:13であった。症例AとBでLEMSに大きな差を認めないが,症例Bで上肢CMASが高値を示した。矩形面積(cm2)は,症例A:5.5,症例B:15.4となり,症例Bが症例Aに比べはるかに高値を示した。また症例Aでは閉脚立位保持が30秒以上可能も,症例Bでは閉脚立位保持が不可であった。背臥位と立位における上肢筋活動(背臥位μV/立位μV)と変化率(立位÷背臥位%)は,症例AではSCM:18.8/12.5(67),PM:81.4/50.4(62),BB:8.2/5.2(63),SA:19.6/18.53(93),ST:47.6/30.0(63),MT:59.9/44.7(93),IT:33.2/43.1(130),LD:53.9/47.7(88),症例BではSCM:16.4/49.7(302),PM:5.5/8.1(148),BB:3.0/7.5(254),SA:5.0/10.3(205),ST:23.8/28.8(121),MT:8.0/21.6(270),IT:5.0/20.7(130),LD:12.9/20.8(161)であった。症例Aは全筋群が立位で近似あるいは減少を示し,症例Bは全筋群が立位で増大を示した。
【考察】
今回,不全四肢麻痺者2例により,背臥位と立位における上肢筋活動の変化に立位バランスが影響を及ぼしているかどうかを検討した。
身体機能は,症例A・Bでは同等の損傷高位レベルであり,LEMSでも大きな差を認めなかった。症例Bは上肢のCMASが高値を示し,WISCIは13と歩行車を使用しての移動形態となっていた。年代別における矩形面積は,30歳代では1.83cm2,50歳代では1.45cm2と報告(横山,2004)されているが,2症例とも同年齢の健常者の値と比べると高値を示した。その中でも,症例Bは健常者および症例Aに比べかなり高値を示した。また,症例Bは閉脚立位の保持が不可であり,立位バランスが不良であった。姿勢における上肢筋群の活動の変化は,症例Aは,背臥位に比べ立位で上肢筋群の筋活動が減少を示したが,症例Bは背臥位に比べ立位で上肢の全筋群の筋活動が増大を示した。
これらの結果から,不全四肢麻痺者において立位バランスが不良な症例は,立位での姿勢制御に上肢筋群を活用していることが考えられる。その影響でCMASが高値となり上肢の痙性が増強させ,歩行能力に違いを生じさせている可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
不全四肢麻痺者の立位バランスが低下している症例は,立位での姿勢制御に上肢筋群を活用しているために上肢の痙性が増強している可能性を示唆する報告である。