[O-0782] ストレッチング体操が植込み型除細動器を装着した慢性心不全患者の血管内皮機能と運動耐容能に与える影響
キーワード:慢性心不全, ストレッチング体操, 血管内皮機能
【目的】
植込み型除細動器(ICD)あるいは両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)を装着した慢性心不全(CHF)患者に対する持久力トレーニングは,血管内皮機能障害を改善させ,運動耐容能が増加することが報告されている。しかし,このような患者は,致死的不整脈の出現によるICDの作動に対して不安を抱えていることから,持久力トレーニングを避けるようになるといわれている。また,ICDあるいはCRT-Dを装着した患者の14%は,装着から1年以内にICDの作動を経験することが報告されており,ICDが作動した患者は中等度以上の運動を作動から6ヵ月間制限することを,日本循環器学会のガイドラインでは推奨している。よって,ICDあるいはCRT-Dの患者の中には,持久力トレーニングの実施が困難な患者が存在すると考えられる。一方で,ストレッチング体操は,持久力トレーニングの前のウォームアップとして広く利用されており,血管の反応性充血を促進することが報告されている。このことから,ストレッチング体操は,持久力トレーニングの実施が困難な患者に対して,血管内皮機能障害の改善を通して運動耐容能の増加が期待できる運動療法と考えられる。しかし,CHF患者に対するストレッチング体操が,血管内皮機能と運動耐容能に与える影響については十分に検討されていない。本研究は,ストレッチング体操がICDあるいはCRT-Dを装着した運動習慣のないCHF患者の血管内皮機能と運動耐容能に与える影響について検討した。
【方法】
対象は,ICDあるいはCRT-Dを装着し,かつ運動習慣のない32例のCHF患者(年齢69±7歳,男性28例)とした。患者を4週間のストレッチング体操を実施するストレッチング群16例と,従来の生活習慣を継続する対照群16例とに無作為に分類した。ストレッチング体操は,7種類のストレッチ(手関節掌屈,手関節背屈,体幹回旋,閉脚位における体幹前屈,開脚位における体幹屈曲,片膝位における股関節伸展そして足関節背屈)から構成されている。ストレッチング群は,ストレッチング体操のオリジナルのビデオを見ながら,30秒間のストレッチを実施した後,20秒間の休憩を行い,これを2度実施した。なお,ストレッチング体操は毎日,自宅で実施された。調査測定項目は,血管内皮機能の指標として反応性充血指数(RH-PAT index)と血漿フォン・ヴィレブラント因子(vWF)を測定した。また,運動耐容能の指標として6分間歩行距離(6MWD),筋肉の柔軟性の指標としてsit-and-reach test(SR)を測定した。これらの指標を4週間の運動期間の前後に測定して比較検討した。統計的手法として,各項目の経時的変化については,2元配置分散分析を使用した。また,ストレッチング群において,介入前後におけるRH-PAT indexの変化(ΔRH-PAT index)と6分間歩行距離の変化(Δ6MWD)との関連には,Pearsonの積率相関係数を使用した。
【結果】
対照群のRH-PAT index,vWF,6MWDおよびSRは,運動期間の前後で有意な変化を認めなかった。一方,ストレッチング群のRH-PAT index,6MWDおよびSRは,運動期間前と比較して運動期間後に有意な増加を示し(それぞれ,P<0.01,P<0.01およびP<0.01),ストレッチング群のvWFは,運動期間前と比較して運動期間後に有意な低下を示した(P<0.05)。また,ΔRH-PAT indexとΔ6MWDは,有意に正の相関関係(r=0.53,P<0.05)を示した。
【考察】
本研究において,4週間のストレッチング体操は,血管内皮機能障害を改善することが示された。動脈の血管内皮細胞に対する伸張刺激は,一酸化窒素(NO)合成酵素のmRNAおよびタンパク遺伝子の発現を増加させることが報告されている。本研究で用いたRH-PAT indexは,NO依存性血管拡張能を主に反映することが知られており,このことから,NOの産生増加を介して血管内皮機能が改善したと考えられた。また,本研究において,4週間のストレッチング体操は,運動耐容能を改善することが示された。血管内皮機能は,CHF患者の運動耐容能を規定する一因子とされている。さらに,ΔRH-PAT indexとΔ6MWDの間に正の相関が認められたことより,血管内皮機能障害の改善により運動時の骨格筋への血流量が増加し,運動耐容能が増加したと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の臨床的意義は,運動習慣の無いICDあるいはCRT-D患者に対する4週間のストレッチング体操が,血管内皮機能障害の改善を介して運動耐容能を増加させることを示したことである。
植込み型除細動器(ICD)あるいは両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)を装着した慢性心不全(CHF)患者に対する持久力トレーニングは,血管内皮機能障害を改善させ,運動耐容能が増加することが報告されている。しかし,このような患者は,致死的不整脈の出現によるICDの作動に対して不安を抱えていることから,持久力トレーニングを避けるようになるといわれている。また,ICDあるいはCRT-Dを装着した患者の14%は,装着から1年以内にICDの作動を経験することが報告されており,ICDが作動した患者は中等度以上の運動を作動から6ヵ月間制限することを,日本循環器学会のガイドラインでは推奨している。よって,ICDあるいはCRT-Dの患者の中には,持久力トレーニングの実施が困難な患者が存在すると考えられる。一方で,ストレッチング体操は,持久力トレーニングの前のウォームアップとして広く利用されており,血管の反応性充血を促進することが報告されている。このことから,ストレッチング体操は,持久力トレーニングの実施が困難な患者に対して,血管内皮機能障害の改善を通して運動耐容能の増加が期待できる運動療法と考えられる。しかし,CHF患者に対するストレッチング体操が,血管内皮機能と運動耐容能に与える影響については十分に検討されていない。本研究は,ストレッチング体操がICDあるいはCRT-Dを装着した運動習慣のないCHF患者の血管内皮機能と運動耐容能に与える影響について検討した。
【方法】
対象は,ICDあるいはCRT-Dを装着し,かつ運動習慣のない32例のCHF患者(年齢69±7歳,男性28例)とした。患者を4週間のストレッチング体操を実施するストレッチング群16例と,従来の生活習慣を継続する対照群16例とに無作為に分類した。ストレッチング体操は,7種類のストレッチ(手関節掌屈,手関節背屈,体幹回旋,閉脚位における体幹前屈,開脚位における体幹屈曲,片膝位における股関節伸展そして足関節背屈)から構成されている。ストレッチング群は,ストレッチング体操のオリジナルのビデオを見ながら,30秒間のストレッチを実施した後,20秒間の休憩を行い,これを2度実施した。なお,ストレッチング体操は毎日,自宅で実施された。調査測定項目は,血管内皮機能の指標として反応性充血指数(RH-PAT index)と血漿フォン・ヴィレブラント因子(vWF)を測定した。また,運動耐容能の指標として6分間歩行距離(6MWD),筋肉の柔軟性の指標としてsit-and-reach test(SR)を測定した。これらの指標を4週間の運動期間の前後に測定して比較検討した。統計的手法として,各項目の経時的変化については,2元配置分散分析を使用した。また,ストレッチング群において,介入前後におけるRH-PAT indexの変化(ΔRH-PAT index)と6分間歩行距離の変化(Δ6MWD)との関連には,Pearsonの積率相関係数を使用した。
【結果】
対照群のRH-PAT index,vWF,6MWDおよびSRは,運動期間の前後で有意な変化を認めなかった。一方,ストレッチング群のRH-PAT index,6MWDおよびSRは,運動期間前と比較して運動期間後に有意な増加を示し(それぞれ,P<0.01,P<0.01およびP<0.01),ストレッチング群のvWFは,運動期間前と比較して運動期間後に有意な低下を示した(P<0.05)。また,ΔRH-PAT indexとΔ6MWDは,有意に正の相関関係(r=0.53,P<0.05)を示した。
【考察】
本研究において,4週間のストレッチング体操は,血管内皮機能障害を改善することが示された。動脈の血管内皮細胞に対する伸張刺激は,一酸化窒素(NO)合成酵素のmRNAおよびタンパク遺伝子の発現を増加させることが報告されている。本研究で用いたRH-PAT indexは,NO依存性血管拡張能を主に反映することが知られており,このことから,NOの産生増加を介して血管内皮機能が改善したと考えられた。また,本研究において,4週間のストレッチング体操は,運動耐容能を改善することが示された。血管内皮機能は,CHF患者の運動耐容能を規定する一因子とされている。さらに,ΔRH-PAT indexとΔ6MWDの間に正の相関が認められたことより,血管内皮機能障害の改善により運動時の骨格筋への血流量が増加し,運動耐容能が増加したと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の臨床的意義は,運動習慣の無いICDあるいはCRT-D患者に対する4週間のストレッチング体操が,血管内皮機能障害の改善を介して運動耐容能を増加させることを示したことである。