第50回日本理学療法学術大会

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ポスター1

呼吸1

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0327] 努力呼気時における腰方形筋断面積の左右差と呼出機能の関係

本間友貴1,2, 柿崎藤泰3,4, 荒牧隼浩1, 泉﨑雅彦2 (1.IMS(イムス)グループ板橋中央総合病院, 2.昭和大学大学院医学研究科生理学講座生体調節機能学部門, 3.文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科, 4.文京学院大学大学院保健医療科学研究科)

キーワード:腰方形筋, 左右差, 呼出機能

【はじめに,目的】
腰方形筋は骨盤,腰椎,胸郭(肋骨)をつなぎ,横隔膜や大腰筋と筋連結を持ちインナーユニットと共同的に腰部骨盤帯の安定化に寄与する内在筋としての機能と,胸郭を下制する呼気筋としての2つの機能を有する。しかし腰方形筋は解剖学的背景から,姿勢の悪化によって引き起こる胸郭,および脊柱配列のmal-alignmentに腰方形筋の機能は依存する。石塚ら(2011)の報告によると,胸郭が骨盤に対して左側方偏位を呈している例が多いとしており,このファクターが臨床上観察される腰方形筋の定型的な機能低下に関連しているものと我々は考えている。また,呼吸補助筋(呼気筋)として位置づけられている腰方形筋の呼吸関与においても同様に姿勢性の影響を受けることが考えられる。このような背景から,努力呼気時の腰方形筋に生じる機能的左右差を捉えることは呼出機能障害のメカニズムを理解する上で意義深いものと考える。
そこで今回は,努力呼気における腰方形筋の断面積変化の左右差を調査し,呼吸機能との関係性を検討した結果,興味深い知見が得られたので報告する。
【方法】
対象は既往に呼吸器疾患を持たない健常成人男性11名とした(年齢25.0±3.2歳,身長172.5±5.3cm,体重63.5±3.2kg,BMI21.4±1.7kg/m2)。
腰方形筋の断面積の計測にはデジタル超音波診断装置(HI VISION Preirus,日立アロカメディカル株式会社,東京)を用いた。測定部位は第三腰椎棘突起レベルとし,リアルタイムバイプレーン機能を用いて短軸操作にて左右同時に計測した。計測は椅子座位での安静呼気(安静時),最大呼気(呼気時)の2条件とし,それぞれ呼気終末で画像を得た。得られた超音波画像は米国国立衛生研究所の配布する画像処理,解析用フリーソフトウェアImageJを用いて処理,計測を行った。その後,左右の腰方形筋の呼気時断面積増加率(呼気時断面積/安静時断面積)と呼気時断面積左右比率(左側呼気時断面積/右側呼気時断面積)を求めた。
呼吸機能検査はスパイロメーター(AS-507,ミナト医科学社,大阪)を用いて1秒量(FEV1.0),1秒率(FEV1.0%),最大呼気流速度(PEFR)を測定した。十分に休憩時間を設け3回計測した平均値を代表値とした。
統計処理は腰方形筋の安静時断面積,呼気時断面積,呼気時断面積率増加率の左右差は対応のあるt検定を用いた。腰方形筋の呼気時断面積左右比率と呼吸機能の関係はPearsonの積率相関係数を用いて分析した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
腰方形筋の安静時断面積は右側323.6±41.5mm2,左側292.8±38.4mm2で右側が有意に大きかった(p<0.05)。呼気時断面積は右側316.1±31.0mm2,左側315.3±38.0mm2で有意差はなかった。呼気時断面積増加率は右側1.0±0.1,左側1.1±0.1で左側が有意に増加を示した(p<0.05)。
呼気時断面積左右比率とFEV1.0%(r=0.63,p<0.05),PEFR(r=0.73,p<0.01)の間には有意な正の相関が示された。FEV1.0は有意な相関を示さなかった。
【考察】
今回の検討より努力呼気時における腰方形筋の断面積増加率には左右差が存在し,断面積左右比率と呼吸機能の間には正の相関が示された。
Hirayamaら(2013)は,努力呼気時の胸郭形状は左右非対称になると報告しており,胸郭運動を阻害し,呼出機能に悪影響を及ぼすことが予測される。さらに姿勢性の影響を受ける腰方形筋は片側性に機能低下することが考えられるが,実際の断面積増加率は左側で優位に増加を示した。この特徴的な左側腰方形筋の活動は努力呼気時の胸郭形状に生じるmal-alignmentに拮抗し,正中化させるための姿勢制御の役割をもつと捉えている。結果として左側腰方形筋の活動を高められることで,両側性の活動により胸郭を対称的に下制することが出来たため呼出機能が高まったもの考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
努力呼気における腰方形筋の機能的左右差は呼出機能に影響を与えることが示唆された。
臨床的に問題として捉えているのは呼気時における腰方形筋に生じる活動の左右差であり,その左右差を限りなく少なくすることは呼出機能の再建に向けた理学療法アプローチの一助となり得る。