第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法8

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-1024] 軽度運動麻痺に対する拡散テンソル画像を用いたFA比の検討

大八木聡 (社会医療法人誠光会草津総合病院)

キーワード:脳卒中, 拡散テンソル, 運動機能

【はじめに,目的】
近年,核磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging以下,MRI)の撮影方法の一つである拡散強調画像(Diffusion Weighted Imaging以下,DWI)を利用した拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Image以下,DTI)の発達によって,従来視認不可能な構造であった脳の白質繊維が可視化できるようになり,臨床の場に導入されてきている。リハビリテーションの領域においても,DTIを用いて大脳白質の構造的異常の評価を行った報告が増えている。また,麻痺を有する脳出血患者を対象に大脳脚におけるFractional Anisotoropy(以下,FA)値を測定し,非患側に対する患側のFA値の比(以下,FA比)が運動機能予後と相関関係にあると報告されており(国井ら,2005),運動機能予後予測としてFA比は有用であると考えられている。しかし,報告されている多くの症例は重度運動麻痺であり,FA比が軽度運動麻痺の予後を表す指標になるという報告は少ない。本研究では,軽度運動麻痺を伴う脳梗塞発症後の症例に対し,DTIによるFA比評価と運動機能障害が関連するかを検討することとした。
【方法】
健常例として,中枢神経に既往がない37歳~65歳(平均48.5歳)の健常人4名(以下,健常群)とした。また,症例としては当院に脳梗塞の診断で入院した患者のうち,入院時にDTIの撮影が可能であった51歳~80歳(平均67.7歳)の6名(以下,運動麻痺群)を対象とした。撮影にはGE製Signa EXCITE3.OT HD Ver23を使用した。撮影パラメーターは以下のとおりである(12軸 FOV240mm×240mm Slice数44枚 TR/TE=12000/85.4secマトリックス128×128 Slice Thickness=3mm)。画像解析ソフトウェアは,東大放射線科開発の「dTV」と『Volume-one v.1.72』を使用した。左右の大脳脚外側部を関心領域に設定し,同ソフトにてFA値を測定した。健常群は左側に対する右側のFA比を,運動麻痺群は非患側に対する患側のFA比をそれぞれ算出し定量的比較を行った。運動麻痺群の運動機能評価はDTI撮影時のBrunnstrom stage(以下,BRS)上肢-手指-下肢スコアの合計点を使用した。健常群と運動麻痺群のFA比について関係性を検討した。
【結果】
健常群4名(Case1~4)における性別及びFA比は,Case1.女性FA比0.98,Case2.女性FA比1.00,Case3.男性FA比1.01,Case4.男性FA比1.04であった。運動麻痺群6名(Case5~10)における性別・発症時BRS合計点(上肢/手指/下肢)及びFA比は,Case5.男性BRS合計17点(VI/V/VI)FA比0.75,Case6.男性BRS合計15点(V/V/V)FA比0.72,Case7.男性BRS合計17点(VI/V/VI)FA比0.84,Case8.女性BRS合計17点(VI/V/VI)FA比0.76,Case9.男性BRS合計15点(V/V/V)FA比0.85,Case10.男性BRS合計16点(V/V/VI)FA比0.88であった。運動麻痺群において,患側大脳脚のFA値は非患側と比較し減少していた。また,健常群と運動麻痺群における2群間でのt検定では,p=0.0003(p<0.01)とFA比に有意な差がみられた。
【考察】
今回の結果より,健常群と運動麻痺群においてFA比に有意な差がみられた。これより,運動麻痺群において患側錘体路のワーラー変性を来たし,神経障害が生じていると推察される。運動麻痺群のBRSは上肢・手指・下肢においてそれぞれV以上であり運動麻痺は軽度であったが,FA比では健常群と比較し有意な差が生じた。このことから,FA比は軽度運動麻痺を表す指標となる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
近年,脳白質繊維の評価方法として注目されているDTIを用いてFA比の算出することで,軽度運動麻痺においても一定の関連性を示すことができた。大脳脚をFA比により定量的評価することで,根拠に基づく理学療法を展開することができると考えられる。