第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

予防理学療法5

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1080] 繰り返しの継ぎ足歩行検査は測定値に運動学習の効果を含む

小山総市朗1, 田辺茂雄2, 伊藤慎英2, 武田和也1, 櫻井宏明2, 金田嘉清2 (1.河村病院リハビリテーション部, 2.藤田保健衛生大学医療科学部)

キーワード:継ぎ足歩行, バランス評価, 運動学習

【はじめに,目的】バランス機能は安定した立位歩行動作の遂行に重要であり,その低下は転倒や要介護状態の一因とされている。したがって,効果的なバランス練習に向けたバランス機能の定量的評価は,転倒予防や要介護予防に重要であると考えられる。バランス機能の要素の一つである「狭い支持基底面内における重心移動制御能力」を反映するバランス機能評価手法として,継ぎ足歩行検査が挙げられる。この評価は高い信頼性が認められており,臨床においても頻繁に使用されている。しかし継ぎ足歩行検査は,その検査自体が練習となり,短期的な運動学習効果が評価結果に含まれてしまう可能性が考えられる。本研究の目的は,継ぎ足歩行検査の検者内及び検者間信頼性を再検討するとともに,繰り返しの継ぎ足歩行検査に伴う運動学習の効果を明らかにすることである。
【方法】対象は,既往に神経学的障害や筋骨系経障害,認知障害を有しない健常成人30名(20代から70代各5名)とした。対象者は初回検査日と2週間後の再検査日の計2日間実験に参加した。初回検査日は,検者内及び検者間信頼性を検討する目的で3名の検査者(検査者A,B,C)で実施し(test1とtest2),再検査日は検者内信頼性のみを検討する目的で1名の検査者(検査者A)が同様の検査を実施した(test3とtest4)。継ぎ足歩行検査は,静止立位を開始肢位とし,開始の合図とともに,床面に引いた幅2cmのテープ上を一側のつま先に対側の踵を接触させながら歩行させた。歩行中の上肢位置は身体側面での自由下垂位とした。測定時の口頭指示は,「今から継ぎ足歩行を行います。つま先と踵を確実に付け,出来るだけ速く行って下さい。連続12歩付ける時間を測ります」に統一した。測定はストップウォッチを用い,減速期を除くため開始時点から10歩目の接地までの時間を採用した。測定は初回検査日と再検査日でそれぞれ2回行い,1/100秒単位で記録した。信頼性は級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient,以下ICC)を用いて評価し,測定回数の増加に伴う運動学習効果は,検査者Aで測定した計4回の測定値を用いたBland-Altman分析によって検討した。
【結果】test1の平均値は,検査者Aで4.82±1.16秒,検査者Bで4.76±1.16秒,検査者Cで4.73±1.18秒であった。test2の平均値は,検査者Aで4.75±1.11秒,検査者Bで4.69±1.08秒,検査者Cで4.62±1.10秒であった。検査者Aのみで行ったtest3とtest4においては,それぞれの平均値が4.20±0.83秒,4.24±0.85秒であった。日内における検者内信頼性を表す初回検査日(test1とtest 2)のICC(1,1)は,検査者Aで0.95,検査者Bで0.94,検査者Cで0.94であった。検者間信頼性はtest1,2ともに検査者全組み合わせでICC(2,1)が0.99であった。検査間隔をあけた測定における検者内信頼性を表す,検査者Aにおける初回検査日と再検査日の全組み合わせでのICC(1,1)は0.70以上であった。検査者Aにおける初回検査日と再検査日のBland-Altman分析では系統誤差を認め,誤差の平均は0.57±0.04秒であり,95%区間の誤差の許容範囲(95%limits of agreement,LOA95)は,-0.42秒から1.56秒であった。
【考察】本研究の結果から,継ぎ足歩行検査は日内において検者内・検者間ともに高い信頼性であることが示された。一方,検査間隔をあけた測定においても,検者内信頼性は同様に高い値を示したものの,日内での信頼性と比較すると低値となった。加えて,Bland-Altman分析では系統誤差を認めた。これらの結果は,仮説の通り,継ぎ足歩行検査自体が練習となり,運動学習効果が評価結果に含まれてしまう可能性を示唆するものである。したがって,臨床において継ぎ足歩行検査を行う際には,短期的な運動学習の効果が評価結果に含まれる事を考慮して用いる必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究によって,継ぎ足歩行検査は非常に高い信頼性を有する反面,繰り返しの検査によって検査自体が練習となる可能性が示唆された。したがって,本研究は,臨床場面で検査を行う際,この見かけ上の変化が検査値に含まれていることを考慮する必要がある事を明らかにした。継ぎ足歩行検査は理学療法において頻回に用いられている評価手法であり,その意義は大きい。