[P3-C-1020] 脳卒中片麻痺患者に対する運動観察治療の試み
足関節背屈機能障害に注目して
Keywords:脳卒中片麻痺患者, 運動観察治療, 足関節背屈機能
【はじめに,目的】
脳卒中患者において,股関節や膝関節と比較して足関節機能の回復は困難なことが報告されている。よって,足関節機能改善を目的とした治療介入の開発が急務とされているが,いまだ確立されていないのが現状である。そのような状況で,近年,運動観察と身体練習を組み合わせた運動観察治療(以下,AOT)の有効性が報告されている。運動観察と運動実行における脳活動は等価的な運動システムに基づいており(Grezes;2001),AOTは身体練習に運動観察を付加するため,身体練習単独に比べ効果が大きいと報告されている(Cernik;2008)。臨床試験では(大内田;2010),AOTが脳卒中患者の麻痺側前脛骨筋の筋収縮を促進することが明らかにされているが,臨床的指標は関節可動域のみで,即時効果に限定した検討であり十分とは言い難い。よって,本研究の目的は麻痺側足関節背屈機能障害に対するAOTを経時的に行い,臨床的指標にてその効果の有無を検討することである。
【方法】
初発の脳卒中片麻痺患者で発症から2ヵ月以上経過し,Stroke Impairment Assessment Setの足関節の運動機能が2点以下,かつ歩行が見守りレベル以上で,映像の観察が困難な視覚障害や半側空間無視,注意障害,失語症,認知症を有さない入院患者4名(66.0±15.9歳,発症から研究開始までの期間14.5±4.5週,男性2名,右片麻痺3名)が研究に参加した。
研究デザインはABデザインを用い,Aを基礎水準期,Bを操作導入期とした。基礎水準期,操作導入期はいずれも2週間とし,操作導入期に足関節背屈に焦点化したAOTを週5回実施した。また研究期間中,麻痺側足関節に対するROMや神経筋再教育,起立練習,立位バランス練習,歩行練習などの課題指向型練習を積極的に取り入れた通常理学療法を提供した。
AOTは健常女性が足関節背屈運動を実施している場面のDVDを作製し,その映像を観察しながら同時に同運動を行った。DVDはデジタルビデオカメラで一人称視点になるように正中,外側,内側の3方向から撮影し,各方向からの映像を10分間ずつに編集し,9インチのDVDプレーヤーを使用して再生した。VTR中の運動は1秒間に1回行われ,参加者は椅坐位で映像を観察しながら運動を行った。このとき,VTR中の足関節背屈運動を模倣する意図を持って観察するよう指示した。1回の介入において3方向からの映像を各10分間観察し,10分毎に約1分間の休憩を取り入れた。評価項目はFugl-Meyer足関節背屈項目(以下,FM背屈),足関節背屈の自動関節可動域(以下,A-ROM)と筋力,補助具なしでの最大10m歩行時間・歩数とし,1週毎に測定した。
【結果】
FM背屈の平均変化量は,介入2週前から1週前が+0.3点,介入1週前から直前が±0点,介入直前から介入1週後が+0.8点,介入1週後から2週後が+1.3点であった。A-ROMは±0°,+1.3°,+1.3°,+2.5°であり,筋力は+0.1kg,+0.2kg,+1.1kg,+1.0kgであった。最大10m歩行時間は+0.3秒,-1.8秒,-0.8秒,+0.8秒であり,歩数は+0.1歩,+0.4歩,-1.8歩,+2.5歩であった。
【考察】
FM背屈やA-ROM,筋力において,基礎水準期に比べ操作導入期での変化量が大きかった。よって,AOTは麻痺側足関節背屈機能の改善に効果的であることが考えられる。類似した運動イメージ介入であるミラーセラピーの報告では(和田ら;2011),改善しない参加者も一定存在しているが,本研究では4名全てに改善が得られた。よって,AOTがより広い適応範囲を持つ可能性があり,これはミラーセラピーよりも運動イメージの想起が容易であることが要因かもしれない。しかしながら,先行研究の参加者がより重度な足関節背屈機能障害を呈していたことや身体練習の反復回数も少ないことも影響しており,単純には比較できない。
また,10m歩行時間や歩数において効果を認めなかった。脳卒中患者において,足関節背屈筋力が歩行速度や歩幅に直接的に関連する因子でないことが報告されているが,臨床的に足関節背屈機能がトゥクリアランス低下に関与している事例は多い。よって,時間や歩数以外の評価項目を用いて効果判定を行う必要があったと考える。また,効果量が歩行能力に汎化するほど大きくないことも考えられ,症例数を増加させ,臨床的価値のある最小の効果量についても検討していく必要がある。
最後に,本研究の実験デザインでは身体練習のみの効果を否定できない。今後,身体練習量が同等の対照群との比較研究が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,AOTが麻痺側足関節背屈機能障害に対する介入の一助となる可能性を示すことができた。
脳卒中患者において,股関節や膝関節と比較して足関節機能の回復は困難なことが報告されている。よって,足関節機能改善を目的とした治療介入の開発が急務とされているが,いまだ確立されていないのが現状である。そのような状況で,近年,運動観察と身体練習を組み合わせた運動観察治療(以下,AOT)の有効性が報告されている。運動観察と運動実行における脳活動は等価的な運動システムに基づいており(Grezes;2001),AOTは身体練習に運動観察を付加するため,身体練習単独に比べ効果が大きいと報告されている(Cernik;2008)。臨床試験では(大内田;2010),AOTが脳卒中患者の麻痺側前脛骨筋の筋収縮を促進することが明らかにされているが,臨床的指標は関節可動域のみで,即時効果に限定した検討であり十分とは言い難い。よって,本研究の目的は麻痺側足関節背屈機能障害に対するAOTを経時的に行い,臨床的指標にてその効果の有無を検討することである。
【方法】
初発の脳卒中片麻痺患者で発症から2ヵ月以上経過し,Stroke Impairment Assessment Setの足関節の運動機能が2点以下,かつ歩行が見守りレベル以上で,映像の観察が困難な視覚障害や半側空間無視,注意障害,失語症,認知症を有さない入院患者4名(66.0±15.9歳,発症から研究開始までの期間14.5±4.5週,男性2名,右片麻痺3名)が研究に参加した。
研究デザインはABデザインを用い,Aを基礎水準期,Bを操作導入期とした。基礎水準期,操作導入期はいずれも2週間とし,操作導入期に足関節背屈に焦点化したAOTを週5回実施した。また研究期間中,麻痺側足関節に対するROMや神経筋再教育,起立練習,立位バランス練習,歩行練習などの課題指向型練習を積極的に取り入れた通常理学療法を提供した。
AOTは健常女性が足関節背屈運動を実施している場面のDVDを作製し,その映像を観察しながら同時に同運動を行った。DVDはデジタルビデオカメラで一人称視点になるように正中,外側,内側の3方向から撮影し,各方向からの映像を10分間ずつに編集し,9インチのDVDプレーヤーを使用して再生した。VTR中の運動は1秒間に1回行われ,参加者は椅坐位で映像を観察しながら運動を行った。このとき,VTR中の足関節背屈運動を模倣する意図を持って観察するよう指示した。1回の介入において3方向からの映像を各10分間観察し,10分毎に約1分間の休憩を取り入れた。評価項目はFugl-Meyer足関節背屈項目(以下,FM背屈),足関節背屈の自動関節可動域(以下,A-ROM)と筋力,補助具なしでの最大10m歩行時間・歩数とし,1週毎に測定した。
【結果】
FM背屈の平均変化量は,介入2週前から1週前が+0.3点,介入1週前から直前が±0点,介入直前から介入1週後が+0.8点,介入1週後から2週後が+1.3点であった。A-ROMは±0°,+1.3°,+1.3°,+2.5°であり,筋力は+0.1kg,+0.2kg,+1.1kg,+1.0kgであった。最大10m歩行時間は+0.3秒,-1.8秒,-0.8秒,+0.8秒であり,歩数は+0.1歩,+0.4歩,-1.8歩,+2.5歩であった。
【考察】
FM背屈やA-ROM,筋力において,基礎水準期に比べ操作導入期での変化量が大きかった。よって,AOTは麻痺側足関節背屈機能の改善に効果的であることが考えられる。類似した運動イメージ介入であるミラーセラピーの報告では(和田ら;2011),改善しない参加者も一定存在しているが,本研究では4名全てに改善が得られた。よって,AOTがより広い適応範囲を持つ可能性があり,これはミラーセラピーよりも運動イメージの想起が容易であることが要因かもしれない。しかしながら,先行研究の参加者がより重度な足関節背屈機能障害を呈していたことや身体練習の反復回数も少ないことも影響しており,単純には比較できない。
また,10m歩行時間や歩数において効果を認めなかった。脳卒中患者において,足関節背屈筋力が歩行速度や歩幅に直接的に関連する因子でないことが報告されているが,臨床的に足関節背屈機能がトゥクリアランス低下に関与している事例は多い。よって,時間や歩数以外の評価項目を用いて効果判定を行う必要があったと考える。また,効果量が歩行能力に汎化するほど大きくないことも考えられ,症例数を増加させ,臨床的価値のある最小の効果量についても検討していく必要がある。
最後に,本研究の実験デザインでは身体練習のみの効果を否定できない。今後,身体練習量が同等の対照群との比較研究が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,AOTが麻痺側足関節背屈機能障害に対する介入の一助となる可能性を示すことができた。