第94回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S12] あなたの知らないファージの世界

2021年3月25日(木) 15:45 〜 18:15 チャンネル4

コンビーナー:安藤 弘樹(岐阜大学・アステラス製薬),氣駕 恒太朗(自治医科大学)

[S12-2] 三次元構造解析により明らかになったMuファージサブユニットの特徴

○武田 茂樹 (群馬大・理工)

電子顕微鏡による構造解析は近年長足の進歩を遂げたが。その開発過程における超分子の構造解析手法の発達段階においては,ファージはその特徴ある形と大きさから,優れたサンプルとしての役割を果たしてきた。中でも収縮性尾鞘をもつ類似のファージの構造は,尾鞘の収縮の前後の構造を比較するという分子機械的観点の興味からも盛んに研究され,T4ファージなどを中心に,詳細な研究が進んできた。サブユニットごとの構造解析ではX線結晶解析も大きな役割を果たした。バクテリオファージMuは収縮性の尾鞘をもつMyoviridaeに属するファージである。分子生物学の黎明期からよく研究されてきたファージであるが,多くの研究はその遺伝子組換え機構や細菌の遺伝子の水平伝搬に焦点を当てたものであり,構造の観点からは研究が少なかった。我々は1990年代からMuファージの研究を開始し,21世紀になってからサブユニットの構造解析を行った結果,これまでにいくつかのサブユニットの立体構造をX線結晶解析で決定した。中でも繊維状で尾繊維を形成しているgp49とその特異的シャペロンgp50の複合体の構造解析は,シャペロンと繊維状基質タンパク質の複合体の構造解析として世界初のものである。今後明らかになった構造をもとに,尾繊維が宿主細胞膜を認識して結合する感染宿主認識機構の解明だけでなく,繊維状タンパク質の構造形成機構,シャペロンの基質認識機構,などの研究が進むことが期待される。また我々は他の尾繊維の結晶化と構造解析を引き続き進めており,ファージの尾繊維の多様性や類似性から宿主細菌とファージ(ウイルス)の関係についても,研究が進むことを期待している。