第95回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S10] シンポジウム10
多様な視点から視た真菌学研究とその未来

2022年3月31日(木) 16:00 〜 18:30 チャンネル2

コンビーナー:豊留 孝仁(帯広畜産大学),松本 靖彦(明治薬科大学)

共催:日本医真菌学会,日本微生物学連盟

[S10-1] いもち病菌の病原性進化機構を染色体構造から探る旅

中馬 いづみ (帯広畜産大)

いもち病菌はPyriculariaceaeに属する子嚢菌で,イネ科等の複数科の植物を宿主とする.Pyricularia oryzaeにはイネ科植物に対する宿主特異的寄生性分化が認められ,接種試験によって,宿主の属あるいは種,品種と,菌の菌群(pathotype),レースの特異的な対応関係を示すことができる.特に,イネ菌群,コムギ菌群等においては,植物の持つ抵抗性遺伝子産物と菌の持つ非病原力遺伝子産物の感染時の相互作用の結果,植物の抵抗性反応が成立することが実証されており,これに関わる抵抗性遺伝子と非病原力遺伝子の多くの組み合わせが報告されている.筆者は,イネ菌が持つイネ品種に対する各種非病原力遺伝子の座乗染色体を調べるために,複数の組合せで菌の交配実験を行った.P. oryzaeの遺伝地図を作成し,各連鎖群上の分子マーカーを染色体特異的マーカーとしてCHEF-サザン解析を行い,染色体と分子マーカーの関連付けと,非病原力遺伝子の各菌群における座乗染色体の特定を行った.その結果,進化の過程でそれら遺伝子の欠失と再獲得が繰り返し起こり,座乗染色体が頻繁に変化したことを明らかにした.これを「multiple translocation」と呼ぶことにし,この現象を報告した.この研究を行う傍ら,筆者はいもち病菌の小型分生子の機能や,Pyriculariaceae内の分子系統関係について報告した.また,いもち病菌の分離を目的とした国内外でのフィールド調査も多数行った.本講演では,いもち病菌の非病原力遺伝子の不思議な変異機構,美しい形態,海外調査について紹介する.