第95回日本細菌学会総会

講演情報

ワークショップ

[W7] ワークショップ7
事例から考える感染症

2022年3月31日(木) 13:05 〜 15:05 チャンネル1

コンビーナー:大岡 唯祐(鹿児島大学),小西 典子(東京都健康安全研究センター)

[W7-3] 熊本県で発生したC型ボツリヌス菌による食中毒事例について

八尋 俊輔,森 美聡,前田 莉花,原田 誠也 (熊本県・保環研)

ボツリヌス症は,ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)等が産生するボツリヌス神経毒素によって起こる全身の神経麻痺を生じる神経中毒疾患である.今回,我々は,非常に稀であるC型ボツリヌス菌による食中毒事例を経験したため,その概要について報告する.
2021年7月,医療機関から県内在住の夫婦が複視,言語障害等の症状を示したことから原因究明の検査の依頼があった.調査の結果,前日に家族で喫食した夕食が原因の可能性が高いことがわかった.その後,子供2人にも症状が現れ,発症者は計4人となった.
検体として,発症者の血清及び便が採取された.食品の残品は廃棄され残っていなかった.当初,食中毒として報告が多いA,B,E型毒素に対して検査を開始したが,A,B,E型の抗毒素血清では中和されず,便からもA,B,E型毒素産生の菌は分離できなかった.その後,毒素型を広げ検査した結果,血清及び便でC1型ボツリヌス抗毒素血清を用いた中和試験が成立し,また,便からC型ボツリヌス毒素遺伝子を有する菌が分離された.以上から,今回の事例はC型ボツリヌス菌による食中毒と判断された.
今回の事例では,症状や喫食状況からボツリヌス食中毒が疑われたにも関わらず,通常,検出されるA,B,E型のボツリヌス毒素が検出されなかったことから,検査に時間を要した.分離培地での菌の発育やマウスへの接種試験でのマウスの状態も,過去経験した事例と少し異なっており,それらも時間を要した原因となった.今後は,早期から毒素型を幅広く検査できる体制をとることが重要であると考えられた.