[O6-3] 分娩後も多臓器障害が遷延したHELLP症候群
【背景】HELLP症候群の病態は血管内皮細胞障害と血管透過性亢進であり,分娩後には臓器障害は速やかに改善する。今回,分娩後も多臓器障害が遷延し,産婦人科と集中治療科が連携して対応したHELLP症候群の症例を経験した。【臨床経過】32歳女性。2妊1産。妊娠31週で尿蛋白2+と高血圧(170/90mmHg)を指摘され,重症妊娠高血圧腎症の診断により降圧治療を開始した。妊娠32週で高血圧(180/110mmHg)に心窩部痛と嘔吐が出現し,当院の集中治療室に入院となった。胎児発育は良好で胎児機能不全も認めなかったが,血液検査で肝逸脱酵素上昇,血小板低下,溶血性貧血を認めた。HELLP症候群を合併したため,緊急帝王切開術を施行した。術後も高血圧が持続し,降圧治療を開始するも加療抵抗性であった。第2病日には出血傾向,肉眼的血尿および乏尿が出現した。血管内脱水が持続し,急性腎不全,急性肺水腫およびDICを併発したため,人工呼吸管理と輸液負荷を開始した。溶血性貧血に対してハプトグロビンおよび赤血球輸血を投与し,DIC治療としてAT-III製剤を投与した。第3病日に尿量の増加,肝逸脱酵素の漸減と血小板の漸増を認めた。また産科的DICから離脱したため,AT-III製剤の投与を終了しヘパリンの投与を開始した。第5病日には急性期DICからも離脱した。呼吸状態も安定したため,第6病日に人工呼吸管理を終了し,第7病日に集中治療室から退室した。以後,腎機能障害が遷延したが緩徐に回復した。【結論】妊娠高血圧腎症にHELLP症候群を合併し,分娩後も高血圧や尿量低下を認める場合,急性腎不全や肺水腫などの多臓器障害が分娩後も遷延する可能性がある。また,DICなどの病態に対する産婦人科医と集中治療医との認識の違いがあったが,診療科をこえた連携と協議が重要であった。