[P17-6] 生体弁を用いた弁置換術後に弁及び心内に多量の血栓を生じた一例
【背景】機械弁による弁置換後に血栓弁を呈する症例は散見されるが,生体弁を用いた弁置換術後に多量の血栓を生じた症例報告は非常に稀である.【臨床経過】57歳男性.近医で拡張型心筋症と診断.その後心不全入院を数回繰り返しており,徐々に僧帽弁閉鎖不全症・大動脈弁閉鎖不全症が増悪傾向であり弁膜症に対する手術加療目的に当科紹介.既往歴 高血圧・高脂血症・糖尿病(内服加療)TTE所見 LV wall motion diffuse hypokinesis EF40% LVDd/Ds 66/55mm AR moderate MR mild-moderate<手術所見>大動脈弁は三尖弁,LCCが落ち込んでおり同部位からのARの診断.生体弁を用いてAVR.僧帽弁は明らかなprolapseなし,tetheringによるものと診断しrigid ringを用いてMAPを施行した.またTAPも同時に施行.しかし,人工心肺終了時のTEEにてMRがmild-moderate残存しており,慎重に協議の上MVRの方針とした.生体弁を用いてMVRを施行した.人工心肺離脱には時間を要したが補助循環なしで人工心肺は終了となった.<術後経過>POD1血圧低下傾向あり,アシドーシスの進行もありLOSと判断しIABP挿入.IABP挿入時からヘパリンの持続投与開始とした.徐々にカテコラミン減量でき,アシドーシス改善傾向となった.POD5 IABP離脱.POD7人工呼吸器離脱.POD9ICU退室.退室時のTTE所見ではEFは20%程度で,人工弁機能は良好であった.POD11に再度TTEを施行した所左房内に血栓を疑う所見あり,POD14にTEE施行したところ僧帽弁尖~左房内全周性に血栓の付着を認めた.僧帽弁は三尖の内二尖がstuckしている状態であった.同日ICU管理とした上で,HITも考慮に入れヘパリンからアルガトロバンを用いた抗凝固管理及びPT-INR3前後でのワーファリン管理を行う方針とした.経時的に血栓は減少傾向となり,POD22には弁尖の血栓が減少し解放運動が見られたことからICU退室とした.左室内血栓も減少傾向でありPOD23にアルガトロバンを中止しワーファリンによる抗凝固療法を継続とした.POD43にTEE再検したところ左室内血栓及び弁尖の血腫は消失.また左房内の血栓も減少傾向であった.左房内血栓は残存するものの消褪傾向ありPOD46に退院とした.なお入院中に採取した採血からHIT抗体やプロテインS,C欠損症等の凝固異常を来す疾患を示唆する所見は得られなかった.【結論】一般的には血栓弁になりにくいとされる生体弁で血栓弁を生じた一例を経験した.