第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(ポスター発表)

中枢神経

[P22] 一般演題・ポスター22
中枢神経03

2019年3月1日(金) 14:00 〜 14:50 ポスター会場2 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:山村 仁(大阪府立中河内救命救急センター)

[P22-5] 頚髄損傷後延髄レベルまで麻痺が上行し、体温調節機能の破綻を呈した一例

稲田 梓1, 江藤 敏2, 稲田 大悟3, 花岡 勅行2, 藤芳 直彦2, 宮原 将也2, 稲葉 晋1 (1.千葉県救急医療センター 麻酔科, 2.千葉県救急医療センター 集中治療科, 3.千葉県救急医療センター 整形外科)

【背景】高齢者の頚髄損傷においては、もともとの脊柱管狭窄を伴う変性疾患を有することがあり、稀に麻痺が受傷時の損傷レベルよりも上行することが報告されている。また四肢麻痺に至った患者の中には、自律神経の調節機能障害のため40℃を超える発熱を呈することが報告されており、“quad fever”と称されている。今回、頚髄損傷後に麻痺が延髄レベルまで上行し、かつquad feverを呈したと考えられる症例を経験したので報告する。
【臨床経過】65歳男性。凍結した路面で転倒し受傷し、当院に搬送された。来院時よりspinal shockを呈し、循環維持のためカテコラミン製剤の投与を開始した。神経所見は四肢麻痺であり、両上肢三角筋・上腕二頭筋でMMT 3程度であったが、上腕三頭筋以下の筋力は認めなかった。CTでは第6頸椎椎体骨折に加えて頚椎後縦靭帯骨化症による高度狭窄を認め、MRIにて同レベルの髄内輝度変化があり、第6頚髄高位の頚髄損傷と診断した。可及的にハローベストを装着し集中治療室(ICU)管理を行った。第3病日に麻痺が進行し、四肢完全麻痺となり、呼吸状態が悪化し人工呼吸管理を開始。C3-6の緊急除圧術が施行された。術直後より39.8℃の発熱を認め、術翌日の第4病日には40.3℃となり、第6病日には41.6℃に至った。術前に呼吸状態の悪化を呈したことや、術中気管内からは多量の白色粘稠痰を認めたことから、肺炎の合併を疑い抗菌薬の投与を開始したが、CRPは上昇を認めたものの白血球数は殆ど増加しなかった。また発熱直後かつ抗菌薬の投与開始前に行った血液・喀痰培養では菌は検出されなかった。抗菌薬の投与・変更を継続しつつ体表クーリングにて管理を行ったが高体温は持続し、第14病日のC2-T2の頸椎後方固定術翌日に再び41.1℃の体温を記録した。ICUでの管理を継続し、第25病日以降は解熱に至った。意識状態は意思疎通に問題のないレベルにまで回復を認めた。その後MRIにて延髄レベルに至る髄内輝度変化を確認した。
【結論】MRIの画像所見から今回の症例における高体温は、延髄レベルの障害による体温調節機能の破綻である可能性が示唆された。これまでquad feverの原因としては脊髄損傷による自律神経障害と多く考察されてきたが、稀ではあるが延髄レベルの障害にて生じている可能性があると考えられる。