[P31-5] 外傷を契機に劇症型リン脂質症候群を発症し集学的治療を要した一例
【背景】反復性血栓症と抗リン脂質抗体を特徴とする抗リン脂質症候群(APS)の中には、微小血栓により短期間に多臓器不全をきたす予後不良の一群があることが知られており、劇症型抗リン脂質症候群(CAPS)と呼ばれる。【臨床経過】症例は56歳男性。交通事故後当院に救急搬送され、外傷性クモ膜下出血、急性硬膜下血腫、後十字靭帯骨化症を背景とした非骨傷性頸髄損傷、左鎖骨骨折と診断。入院時より原因不明の血小板減少、APTT延長を認めたため原因検索を行ったところループスアンチコアグラントおよび抗カルジオリピン抗体陽性でありAPSを疑った。しかし、下記手術を控えており抗血栓療法は行わず。 第11病日に頚髄損傷に対して椎弓形成術、第19病日に呼吸筋麻痺・呼吸不全に対し気管切開術を施行したが出血傾向を認め大量輸血、第7因子製剤の使用(バイパス療法)を要した。さらに入院経過中に新規多発性脳梗塞、非細菌性血栓性心内膜炎および急性腎障害と複数臓器に血栓症の発症を認め、AshersonらによるPreliminary criteriaのうち3項目を満たしCAPSと診断した。その後も血栓傾向、血小板減少の進行を認めたため積極的な治療が必要と判断し、ステロイドと血漿交換を用いた免疫抑制療法および抗血栓療法を行い、緩解を得た。 我が国でのAPS患者数は約10,000~20,000人と推定され、そのうちCAPSの発症率は1%未満とされている。CAPS registryの報告によると、発症の約半数には増悪因子が関与し、感染や外科的処置に伴うものが多く、外傷の報告は比較的少ない。CAPSの致死率は44%との報告があり、予後不良因子の一つに腎障害が知られている。主な死因は脳血管疾患(23.4%)や心不全(17.3%)、感染症(19.8%)である。多発性脳梗塞、非細菌性血栓性心内膜炎および急性腎障害を伴う本症例は極めて予後不良であることが推察されたが、上記の集学的治療により救命し得た。【結論】外傷を契機として発症・増悪する疾患は多く知られているが、CAPSは比較的頻度が少なく、急激に発症し適切な治療を行わなければ極めて予後不良の疾患である。CAPSが外傷を契機に発症することがあり、注意を要する。