[P62-3] 救急外来で経過観察中に呼吸抑制と心停止を認めたエペリゾン大量内服の1例
【背景】エペリゾンは痙性麻痺や筋緊張症状の緩和を目的に処方される鎮痙剤であり,主に整形外科や脳神経外科領域で使用される薬剤である.筋弛緩作用のため過量投薬の危険性は高いと考えられるが,睡眠薬や向精神薬などに比べ単剤での大量服薬の症例報告は稀である.今回,意識障害と脱力を主訴に救急外来を受診し,経過観察中に呼吸抑制とQT延長から無脈性心室頻拍に至った症例を経験したので報告する.【臨床経過】10 代,女性.既往に胸髄髄内腫瘍があり1年前に化学放射線療法を施行された.脳神経外科からメコバラミン1500 mg,エペリゾン150 mg,セレコキシブ200 mg,リマプロストアルファデクス15 mg,酸化マグネシウム錠2g,エスゾピクロン2 mg/頓用,ドンペリドン5 mg/頓用が処方されていた.自宅で意識混濁,脱力し倒れているところを家人に発見され救急搬送された.来院時のGlasgow Coma ScaleはE3V5M6であり搬送前よりも意識状態は徐々に改善していると判断された.バイタルサインや血液データに大きな異常を認めなかった.本人から「大量服薬をした」と,申告があったためトライエージを施行したがいずれも陰性であった.頭部,頸椎のCTでも異常を認めなかったため,モニター監視下に救急外来で経過観察の方針となった.受診から3時間後,突如SpO2の低下が出現しほどなく無脈性心室頻拍となり,ただちに心肺蘇生が行われた.約11分で自己心拍再開したが,自発呼吸を認めず意識の回復がえられなかったため,体温管理療法目的に集中治療室に入室した.モニターの波形記録から,心室頻拍出現前にQTが延長していたことが判明し,蘇生後の採血では血清カリウム値が3.0 mEq/Lまで低下していることも判明した.34から36℃で体温管理を24時間行い,復温後に意識清明であることを確認し抜管した.抜管後に本人から「エペリゾンのみ内服した」との申告があり,経過からエペリゾンによる脱力が先行し,その後呼吸抑制とほぼ同時にQT延長と低カリウム血症から無脈性心室頻拍に至ったものと考えられた.【結論】エペリゾン血中濃度がQT時間と相関するとの報告があり,本症例でみられたQT延長もエペリゾンの過量内服に関連するものと考えられた.低カリウム血症との関連を示唆する報告はなく,今後の検討課題である.