[P8-1] 若年成人の敗血症性ショックの原因としてマダニ媒介感染が疑われた1症例
北海道ではマダニ感染によるライム病や回帰熱の報告が年に数件あるが、致死的であったとする報告は少ない。今回、我々は若年成人の敗血症性ショックの原因として、マダニ媒介感染が疑われた症例を経験したので報告する。症例は30歳代男性。高血圧、高尿酸血症で内服加療されていた。入院約1カ月前に運動会に参加した2日後より左頚部リンパ節腫脹を自覚し、近医にて抗菌薬を処方され、2週間内服するも改善はなかった。その後、他院でプレドニゾロン10 mgを処方された。頚部リンパ節腫脹出現後36日目より下痢、腹痛が出現し、翌日両上下肢のしびれ、末梢冷感を認めたため、前医受診。白血球数高値、クレアチニン高値、血圧低下あり、敗血症性ショック、急性腎不全の疑いで同日当院搬入となった。ICU入室時、意識はJCS I-30、非観血的血圧は測定不能、心拍数は160-170、SpO2は測定不能であった。その後、意識レベルがJCS 300まで低下したため気管内挿管を施行した。直ちに急速輸液とノルアドレナリン、バゾプレシンの投与を開始し、アシドーシスを是正するため持続血液濾過透析を開始した。CTでは膵腫大と周囲の液貯留を認め、体幹四肢全体に淡赤色変化を伴う点状紫斑が散在していたため、ショックの原因として急性膵炎または毒素性ショック症候群を疑い、バンコマイシン、メロペネム、クリンダマイシンの投与も開始した。徐々に循環は安定し、翌日カテコラミンは漸減中止した。血液透析は第7病日に離脱し、同日抜管した。その後の経過は良好で第14病日にICU退室となった。ICU入室中の血液培養や尿培養からは起因菌は検出されなかった。後日の北海道衛生研究所からの報告では、ICU入室時の血清からBorrelia miyamotoiの抗原に対するIgM,IgGがともに陽性、ライム病の抗原に対するIgM陽性,IgG陰性が確認され、敗血症の原因としてマダニによるライム病と回帰熱の混合感染が疑われた。また、重症熱性血小板減少症候群ウイルスのPCRは陰性であった。リハビリを行った後第79病日に退院となったが、上下肢の拘縮が軽度残存した。本例は大きな合併症のない若年成人が致死的な敗血症性ショックとなり、起因菌の同定に難渋したが、マダニ媒介感染が原因と疑われた。マダニ生息地域では、敗血症性ショックの原因としてマダニ媒介感染を考慮する余地がある。