第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

口述発表

[O] 口述発表①

2023年10月8日(日) 09:20 〜 10:05 第1会場 (B2F 伊藤謝恩ホール)

座長:赤口 諒(摂南総合病院)

09:20 〜 09:35

[O-01] 皮膚書字覚に着目した書字訓練
− 異種感覚統合による書字運動軌道の誘導を試みた失行性失書の1例 −

*押川 眞1、工藤 康介1、黒木 さやか1、岡本 圭海1、西村 彬2,3,4 (1. 福岡徳洲会病院リハビリテーション科、2. 九州大学大学院統合新領域学府、3. 麓刑務所処遇部処遇部門、4. 医療法人斎藤内科医院通所リハビリテーションふれあい)

【はじめに】
 失行性失書を呈し,文字形態の崩れが著しい症例に対し,皮膚書字覚を利用した書字訓練を行った.病態と訓練効果について検討したので報告する.

【症例紹介】
 症例は左頭頂葉に脳出血を呈した70歳代の右利きの女性である.発症当初から運動麻痺や感覚麻痺は認めなかった.意思疎通は可能であったが,著しい書字障害を認めた.発症1週間以内の評価では,MMSE:26点,RCPM:24点,WAIS-Ⅲ:言語性IQ107,SLTAは「書く」のみに著しい低下を認めた.書字は仮名・漢字に乖離なく,自発書字・写字共に困難であった.書字の特徴は,自身の名前も判読不可能な著しい形態の崩れ,筆順や筆圧の異常さが観察された.症例は「イメージはできるのですが,書けませんね」と困惑した状態であった.

【病態解釈】
 上頭頂小葉の損傷により,文字の視覚心像は保たれているが,運動覚心像を誘発することが困難となり,書字運動プログラムの実行に障害を呈した失行性失書と判断した.症例の書字障害は,書字運動の軌道,強さが適切に出力されないことが主因と考えた.

【介入と経過】
 比較的良好に保たれている文字の視覚心像から書字運動覚心像を誘発させるために,皮膚書字覚を利用した.井堀ら(1998)は「皮膚書字覚は,皮膚への体性感覚刺激からはじまり,その体性感覚刺激から運動覚心像は喚起される.」としている.訓練では,セラピストが症例の背中に書いた文字を,複数の数字や仮名文字群の中から選択する課題を実施した.体性感覚情報から得られる視覚心像と,視覚的に提示された文字を照合することで運動覚心像の誘発を促し,その後に書字課題を行うと,筆圧や運筆の滑らかさに僅かな変化がみられた.同様の課題を,文字の難易度(仮名から漢字)を変化させながら約2か月実施した.徐々に字体の崩れは軽減し自然な文字形態へ改善が認められた.

【考察】
 失行性失書を呈した症例に対し,訓練で皮膚書字覚を利用した.体性感覚情報から運動軌道をたどり,視覚心像と照合することで異種感覚統合を図り,運動覚心像の喚起が促され,書字運動軌道の出力に改善が得られた可能性があると考える.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 本人に報告の趣旨と内容を説明し同意を得た.