第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P5] 小児

[P5-01] 右片麻痺の男児の前腕・手関節に同時的な注意を向けた身体イメージの変容から行為が変わった症例

*八重崎 祥太1、高橋 秀和1、木村 正剛1 (1. 北海道こども発達研究センター)

【はじめに】
 今回,二相性脳症後遺症による軽度運動麻痺を呈す児童に前腕,手部の空間課題から注意の分配性と視覚-体性感覚の感覚統合を求めた.その結果,身体イメージの変容と手指の筋出力が向上して食事場面の行為が変化したため,報告をする.

【症例紹介】
 幼少期に二相性脳症後遺症と診断された12歳の男児.軽度の右片麻痺を呈し,BRS:上肢Ⅵ,手指Ⅴ,下肢Ⅵ.TMT-A⁄TMT-B(誤反応)=59秒(1回)⁄297秒(4回)で主に分配性注意の低下を認めた.訓練では肩~肘関節に注意が向き易く,前腕・手関節の同時的な注意は困難であり,接近機能で原始的運動スキーマが出現した.右示指~小指を「この3本が動かない,鈍い感じ」と記述し,抽象的表現や左手を使った右手の語りから身体イメージの不鮮明さが認められた.また,日常生活は右手の不参加が見られた.

【病態解釈】
 認識が可能な体性感覚情報が肩と肘に偏りがあるのは,頭頂葉の求心性情報の統合にエラーと右手の身体イメージの未熟さにより,空間上の把持機能に対して前腕・手関節に注意の分配が難しく,日常生活で右手の使用が少ないと推察した.物体に対する前腕,手部に同時的に注意を向けた,視覚-体性感覚の情報の統合の過程で,手の構えを作る身体イメージに繋がると考えた.

【治療介入】
 接近機能の改善を目的に①②を実施.①多軸不安定板を使用し,時計の時刻に見立て,重錘を置き,傾きへの運動方向の識別と前腕,手部の水平性を求める課題,②立方体(各面に目印あり)の指定した面に対して空間上で手関節,手指の運動方向・距離をイメージし,実際の手の構えから分析する課題.

【結果と考察】
 TMT-A/TMT-B(誤反応)=80秒(0回)/108秒(0回)まで向上した.訓練では前腕・手関節は体性感覚情報から多軸不安定板を水平に保持し,手関節,手指は物体に対して適切な手の構えが可能となった.右手指の示指~小指は滑らかな屈伸運動が出現し「この3本わかる,動くの軽くなった」と記述し,左手を使った抽象的な説明は減った.生活場面は自発的に右手で茶碗を把持して胸で支えて食事をしている.身体部位へ同時的に注意を向けることで感覚情報の統合による体性感覚イメージの変容から,食事の場面での行為の変化に繋がったと考える.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 保護者にプライバシーの保護について説明し同意を得た.