[BL11-1] 睡眠脳波の判読
睡眠脳波は,大脳皮質の時間空間的な同期性が高まることが関係するためか,一般的にてんかん性放電や機能障害を示唆する徐波の検出感度が高くなり,覚醒時脳波と比較して体動による筋電図,瞬目などのアーチファクトが少なくなることにより判読がしやすくなる.このため,てんかん診療において,一般的な覚醒時脳波検査に加えて行う意義は大きい.また,ナルコレプシーをはじめとする睡眠障害においては,診断に必須であるのは論を待たない.しかし,睡眠脳波を判読する際は,睡眠段階に応じて,あるいは睡眠段階の変化により特異的に出現する正常波形,正常亜型が数多く存在するため,脳波の初学者には敬遠されることが多い.また,実際の臨床においては正常波形・亜型をてんかん性放電と誤って判断したまま診療が行われている例を経験することも稀ではない.このため,本講演では,特に成人の睡眠脳波の判読について初学者に興味を持ってもらえるtipsも交えながら解説し,実臨床に役立つ知識・判読技術の基本を習得することを目指す.デジタル脳波であれば,DSA(density modulated spectral array)を用いて脳波全記録における大まかな睡眠段階を知ることができる.これは睡眠脳波判読時に,探したい情報をいち早く見つけに行くうえで目安になる.入眠から軽睡眠期のいわゆるStage N1, 2ではてんかん性放電の出現頻度が増すことが多く,アーチファクトも減って読みやすい睡眠段階だが,頭蓋頂鋭波vertex sharp transients,小鋭棘波small sharp spike,後頭部陽性鋭一過波POSTs(positive occipital sharp transients of sleep)など見慣れていないと異常と判断してしまう波形が出現するので,その特徴を十分に知っておくことが重要である.一般的に病的意義が高いとされるてんかん性放電とはどのようなものかを確認しておくことは鑑別に役立つ.深睡眠期Stage N3では全体的に徐波が出現する睡眠段階だが,再現性をもって左右差のある徐波には留意する.睡眠脳波検査とはいえ,急速眼球運動(REM: rapid eye movement)が出現するREM睡眠 stage Rまで至ることは稀である.しかし,この睡眠段階では最もてんかん性放電は出にくいとされており,もしあれば診断学的意義が非常に高いと考えられる.なお,入眠後早期にREMが出現する場合はナルコレプシーや睡眠衛生の不良状態を考慮する必要がある.