日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

ワークショップ

ワークショップ7 磁気刺激でのピットホール

2020年11月28日(土) 10:20 〜 11:50 第6会場 (2F I)

座長:宇川 義一(福島県立医科大学 ヒト神経生理学講座)、榎本 雪(帝京平成大学健康医療スポーツ学部)

[WS7-2] 単発刺激・二発刺激でのピットフォール

代田悠一郎 (東京大学 医学部附属病院 検査部)

経頭蓋磁気刺激(trancranial magnetic stimulation, TMS)は、ヒトの脳をはじめとする神経組織を非侵襲的に刺激できるユニークな方法である。同じ非侵襲的脳刺激法に、近年神経可塑性誘導法として注目を集めている経頭蓋直流・交流電気刺激がある。TMSとこれらの最大の違いは、TMSは神経軸索に活動電位をもたらしうる点である。この利点を活かして、末梢神経伝導検査に類した中枢神経の検査法が提案されている。特に「単発若しくは二連発磁気刺激法による」中枢神経磁気刺激による誘発筋電図検査は、保険診療として広く実施されている。本ワークショップでは、単発刺激による中枢運動伝導時間(central motor condution time, CMCT)測定および二発刺激による一次運動野(M1)内抑制性・促通性神経回路検査におけるピットフォールにつき概説する。CMCT測定においては、M1刺激により四肢等の筋から得られる運動誘発電位(motor evoked potential, MEP)の潜時=中枢潜時と、末梢神経刺激により同じ筋から得られるMEP潜時=末梢潜時の差を計算し中枢神経の伝導時間とする。CMCT延長は主に錐体路の障害を反映しているとされ、多発性硬化症をはじめとする脱髄疾患はもとより、筋萎縮性側索硬化症・副腎白質ジストロフィーなど様々な中枢神経疾患で認められる。さらに、脳幹刺激によるMEP測定を追加することで、頭蓋内での伝導遅延と頭蓋外≒脊髄での伝導遅延とを切り分けることも可能である。今回は、1)CMCT延長に疾患特異性はあるのか、2)脳幹刺激を追加する際の注意点は何か、の2点について述べる。二発刺激法においては、MEPを誘発できる閾値上の刺激(試験刺激)の前後に、単独ではMEPを誘発しないような閾値下の刺激(条件刺激)等を追加することでより詳細な神経回路の評価を行う。条件刺激を試験刺激と同じM1に加えることでshort-interval intracortical inhibition(SICI)・short-interval intracortical facilitation(SICF)・intracortical facilitation(ICF)などM1内の抑制性・促通性神経回路が評価できるとされている。これらは各々特定の神経伝達物質との関連が示唆されており、神経・精神疾患の分子病態を解明する際の指標としても有望視されている。また条件刺激を対側M1・同側/対側前運動野・補足運動野・小脳などに加えることで脳部位間の機能結合を調べることができる。ここでは、すべての手法に共通する問題点として、そもそも抑制・促通の程度をどのように見積もるのが適切かについて、これまでに提唱されている各種手法を比較することを通じて議論する。