第53回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム 4 (I-S04)
新生児期の外科治療と神経予後

2017年7月7日(金) 08:40 〜 10:25 第4会場 (1F 展示イベントホール Room 4)

座長:市田 蕗子(富山大学附属病院循環器センター)
座長:中野 俊秀(福岡市立こども病院心臓血管外科)

08:40 〜 10:25

[I-S04-02] 低酸素による肺高血圧若齢ラットでは選択的脳還流による虚血脳障害が高率に発生する

三島 晃1, 松前 秀和1, 野村 則和1, 石田 章真2 (1.名古屋市立大学 医学研究科 心臓血管外科学分野, 2.名古屋市立大学 医学研究科 脳神経生理学分野)

キーワード:選択的脳還流, 肺高血圧, 脳障害

【目的】大動脈弓再建が必要な多くの小児先天性心疾患はチアノーゼと肺高血圧を伴い、手術では片側の総頸動脈から選択的脳灌流(SCP)を通常行うが、早期脳障害の病理組織学的な検討は少ない。低酸素による肺高血圧若齢ラットを用い、片側SCPがもたらす脳の早期微小変化を検出した。【方法】対象:PH群(n=14)は4週の若齢ラットを10%酸素下で、非PH群(n=14)は大気圧下で10日間飼育した。更に両群をSCP群と対照群の計4群に分類した。循環などの評価には他のラット(n=16)も使用した。SCPモデル:前日に両側椎骨動脈を焼灼離断し、翌日、大腿動脈脱血、右総頸動脈送血で脳の体外循環を確立した。左総頸動脈を遮断し、10ml/Kg/minの片側SCP(希釈率20~30%)を1時間実施した後、1時間の再灌流を行い、脳を摘出固定した。評価項目:循環指標、頭蓋内動脈圧、血液ガス分析、脳の病理組織(特に初期脳障害検出に有効なArgyrohpil-III silver染色;dark neurons(DNs)の検出)などを比較した。【結果】mPAPは、PH群17.0±2.0、非PH群35.1±6.7mmHg (p<0.00001)。体循環指標と血液ガス分圧、pH等には4群間で有意差はないが、PH群は非PH群に比し、HbとK+が高く、 BEが低かった (p<0.0005)。平均頭蓋内動脈圧は、両側総頸動脈遮断時8.1±1.5mmHgとCVPに相当し、灌流時はSCP群16.3±3.2、対照群36.8±5.8 mmHg (p<0.00001)で、PHの有無で差はなかった。DNs所見:1)左半球に現れ出現率はPH-SCP群75%、非PH-SCP群33%、対照群0%、2)程度もPH群が強い、3)海馬病変はPH群でブロック状、非PH群で散在性、4)脳幹部病変はPH群のみに散在。【結論】低酸素PH群は非PH群に比べ早期脳障害を示すDNsの出現率が高く程度も強い。Hbなどの差は低酸素に順応した結果で、SCPによる脳障害に強く影響した可能性は低いと考える。低酸素による若齢肺高血圧ラットは、選択的脳還流による虚血障害の可能性を潜在性に有していることが示唆された。