[P45-1] 冠動脈瘤の精査により先天性右冠動脈開口部閉鎖、冠動脈左室瘻の診断にいたった1例
キーワード:冠動脈開口部閉鎖, 冠動脈左室瘻, VEGF-C
【背景】冠動脈開口部閉鎖はまれな病態である。今回我々は冠動脈瘤の精査から右冠動脈開口部閉鎖、冠動脈左室瘻の診断にいたった1例を経験したため、発生学的な考察を踏まえて報告する。【症例】症例は川崎病や持続する発熱の既往のない12歳男児。中学入学時の学校検診の12誘導心電図でV4の陰性T波を指摘され、精査のため基幹病院受診。右冠動脈瘤(Z score 7.6)、左冠動脈拡張(Z score 5.3)、大動脈弁逆流の診断で、今後の精査加療目的に当院を受診した。入院時の経胸壁心エコーでは、心収縮は良好でasynergyはなく、右冠動脈開口部付近から、左室流出路へ流れる血流を確認した。冠動脈造影で左冠動脈を選択的に造影した際に、左前下行枝が造影された後に逆行性に右冠動脈が造影され、左室流出路が描出されることが判明した。大動脈弁逆流と考えられたのは、右冠動脈からの左室流出路へ流入する血流であると考えられた。経食道心エコーと冠動脈CTで右冠動脈と大動脈との連続性を認めなかったため、右冠動脈開口部閉鎖、冠動脈左室瘻の診断となった。家族性高コレステロール血症、梅毒、大動脈炎症候群、川崎病を鑑別に挙げたが、病歴および検査所見から否定的であり、先天性の可能性が高いと判断した。運動負荷試験と薬物負荷心筋シンチグラフィーで心筋の虚血所見は認めず、左室容量負荷所見も認めなかったため、外科的な介入は行わず、経過をフォローしている。【考察】冠動脈起始部の発生は、大動脈周囲の毛細血管叢の形成、毛細血管の大動脈壁内への侵入および大動脈管腔内への開口、2段階の機序が想定される。前者の過程にはVEGF-Cが、後者には転写因子Isl1が関与し、Isl1ヘテロでは通常より低位に開口することも示されている。本症例では右冠動脈基部は形成されたものの、Isl1異常により大動脈ではなく左室流出路に開口したため冠動脈左室瘻を来した可能性がある。