第57回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

デジタルオーラル

染色体異常・遺伝子異常

デジタルオーラルII(P5)
染色体異常・遺伝子異常 2

指定討論者:上砂 光裕(日本医科大学多摩永山病院小児科)
指定討論者:内田 敬子(慶應義塾大学)

[P5-2] ACTA2遺伝子に変異を認めた若年性大動脈解離の1例

丸谷 怜1, 西 孝輔1, 益海 英樹1, 高田 のり1, 上嶋 和史1, 西野 貴子2, 稲村 昇1 (1.近畿大学医学部 小児科学教室, 2.近畿大学医学部 心臓血管外科学教室)

キーワード:大動脈解離, 遺伝子異常, ACTA2

【背景】マルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群、ロイス・ディーツ症候群、家族性大動脈瘤・解離は遺伝性結合組織疾患であり、大動脈病変を来すことは知られている。家族性大動脈瘤・解離は平滑筋の構造に関するACTA2遺伝子の異常とされ、その塩基配列異常の種類も特定されている。【症例】15歳の男子、身長177cm体重58kg。軽度の発達障害が指摘されていたが、学校検診などで異常の指摘はなかった。休日に呼吸苦を主訴に1次救急を受診、経皮酸素飽和度の低下から搬送となった。重度の左心不全状態にあり、精査の結果、大動脈解離であることが判明。大動脈基部から総腸骨動脈にかけて広範囲に解離を認め、心筋梗塞、脳梗塞も認めた。緊急的にBentall手術を施行し、弓部以降、下行で最大53mmの解離性大動脈瘤は残存し、一時的にPCPSを要したが状態の安定化を得た。その後家庭生活に復帰を果たしたが、残存していた解離性大動脈瘤の増大を認めたため、大動脈弓部から腹部大動脈の置換を施行し、現在は再び家庭生活に復帰している。大動脈の病理検査では、内膜から中膜にかけて弾性線維の消失と細線維の増生・粘液多糖類の沈着を認めた。マルファン症候群に類似した組織像であったが弾性線維の消失の程度はより高度であった。遺伝子検査ではACTA2遺伝子に、データベースでは「病的意義は不明」と登録されているミスセンスバリアントを検出した。両親には同遺伝子に異常は認めず、孤発例と考えられた。【考察】若年での広範囲にわたる大動脈解離であり、身体的特徴、軽度発達障害からも遺伝性結合組織疾患が考えられたが、検出されたのはこれまでに病原性の報告がないミスセンスバリアントであった。孤発例であり家族内集積も証明できないが、病理組織からも平滑筋の構造異常は明らかであり、検出されたミスセンスバリアントに初めて病原性を認めた症例である可能性が示唆された。